上 下
39 / 64

√ナルニッサ38

しおりを挟む
 今度はゴーグル自体に宝石の様にキラキラした小石が取り付けられた。「上物やで」と言いながら、ウジョーさんは得意げだ。彼の採った魔石だろうか。

「……どないなっとんねん。これが、加護か?」

 ゴーグル越しでも分かるくらい、眉間に皺が寄った。ウジョーさんの声は若干怒りを含んで聞こえた。

「多分そうだと思います。何が見えたんですか?」
「気分悪いかも知らんけど言うで。これは呪いや。こんなん加護やなんて、ちゃんちゃらおかしい」
「呪い?」
「死恐怖症耐性ってアホか。こんなん、よっぽど本人が望んで職業柄どうしても要る時ぐらいしか身につけへんぞ。死が怖ない様にするっちゅう事は、なんかあれば死ね言われてる様なもんやろ。カリンの事なんやと思てんねん」
「はぁ」
「色々鈍麻もついてる。ストレス耐性あがっとるやろ。普通なら躊躇する事に気がつかへん。そんなん人格歪めてる様なもんやで」
「そうなんですか?」
「ほら、ショック受けとらへん」

 全く受けてない事はない。ただ、確かに自分でも何か昔の自分とは違うなと思う事はあった。

「まぁ、俺がひっぺがせるもんでもないし、無理矢理外したらどうなるか分からん。他に気になるんは……、内部破壊耐性と再生がほぼカンストしてるんと……、なんで色香テンプテーション耐性までカンストして無効になっとんねん。サンダーランドの貴族か一部の聖獣くらいしか持っとらへんスキルやん」
「それは、友達のナルさんと言う人がサンダーランド家の人だからかも知れません」
「ああ、なるほど。仲良いんや?」
「はい、仲良しです」
「ほーん」

 パッとウジョーさんはゴーグルを外した。さっきの小石は心なしかさっきより小さくなっている。

「まぁ、こんなもんや。あんまりやると宝石これうなってまうし」
「こんな便利な物があるんですね」
「貴族さん達は魔具あんまり使わへんからな。平民は魔具と魔石で魔法の代わりにしとる。魔石は高いから、ここまでのん持っとんのはほんの一部や。魔石うてまで使っとたらすぐ破産になるわ」
「すごーい」
「せやろ?」

 「さってと」と言って、ウジョーさんは立ち上がった。

「さっさと魔石見つけよか。カリンにも数要るし」
「すみません」
「いや、ええねん。魔石言うても売れるんは純度が高い透明なやつや。純度が低いとゴミが出る。魔具の燃料に使えへんし、値段も安い。純度が低い小石は置いといても純度が悪いまま大きいなるだけやねん。カリンが使いまくっても全然オッケーや」

 そして、彼はすぐ横の木を揺らすとバラバラと石が降ってきた。

「コレが魔石」
「そんな簡単に?」
「見てみぃ、全部灰色や。これ全部魔力も少ない。ええか?大きゅうて透明なんあったら、布で掴んで回収するんやで」
「はい」

 試しに手で灰色のに触れると、ポロっと崩れて無くなった。本当に含まれてる量が少ないらしい。
 ウジョーさんは木に登って揺すったり、棒を使って器用に落としていっている。見たところ透明な物はほとんどなく、合っても極小。そっと掴んで袋に入れはするけれど、実入りは良くなさそう。

「最近ええのあんまり無いねん。お陰で危険をおかしてこのテリトリーまで来たわけやけど、ここも減っとるな。カリンがぬしと交渉してくれたさかい、コソコソやらんで済んで助かるわ」

 確かにこんだけ大暴れしてたら、熊にも襲われるだろう。うるさすぎて。
 小さい動物達は迷惑そうに逃げていっている。

『騒がせてすまない。透き通る魔石、純度の高い魔石を探している。見た事はないか?』
『最近は水の中にできる様になった。マナが濃くて重くて沈む。暴れるのは勘弁願う』
『分かった。すまなかった』

 試しに迷惑そうな顔をしているリスっぽい子に聞いてみた。逃げ惑わないこの胆力。小型だけど、やはりただの動物じゃ無くて聖獣の子でしたね。会話がスムーズだった。

「ウジョーさん。純度の高い魔石ですけど!」
「見つかったか?!」
「いえ、そこのリスさんが最近は池の中にできてるって言ってます」

 どしーん、と音を立ててウジョーさんは木から落ちてきた。

「だ、大丈夫ですか?お怪我は?」
「怪我?怪我なんてなんぼのもんじゃい!それよか、カリン、今の話ほんまか?」
「はい、マナが濃くて重くて沈むって」
「行くで!」

 ぴゃっと先程私達が来た方向にウジョーさんは消えていった。え、置いてかれた?熊は大丈夫でも他にも猛獣とかいるんじゃ?

 待ってぇぇえ!

 はぐれるかと思ったが、ウジョーさんはなぎ倒し気味で駆け抜けたらしく、即席の獣道かできていたので簡単に元の池に辿り着けた。そこにはウジョーさんの抜け殻が落ちていて、本体はどうやら池の中。

「とったどー!」

 拳大のガラスの様な正しくぎょくをウジョーさんは掲げた。

「うおっと。カリン、パス!」
「はい!」

 水中は流石に素手なので、触っていると溶けていく。投げてよこされ、それを私が布受け取り収納する。ほいっほいっと投げてこられて、あっという間に袋はぱんぱん。

「大量やー!」

 いくらゴーグルをかけていても、水中でこれほど透明な石なら見つけられない様な気がするが、ウジョーさんには簡単だった様だ。どうなってるんだろう。

「おっしゃ、おっしゃ」

 ザバァっと水から上がると、彼は服を着ていなかった。秘すべき場所とご対面。

「薪とってきます!」
「おう、ありがとさー、ん?」

 見てしまった。いけないものを見てしまった。ウジョーさんは完全に私を男だと思ってるから仕方ないけど!……忘れよう。

 しかし、薪は急いで集める。もう少し山手に行くと雪が積もっている様な気候で、池の水は冷たかった。風邪をひかれては大変だ。

 戻るとウジョーさんもちゃんと服は着ていて、それでも髪はまだ濡れていた。

「火を起こしますね。魔石頂いたので、着火くらいなら問題ないので」
「おおきにー」

 寒いのかフルフル震えながらも、ニンマリ笑っている彼の目にはお金のマークが見える。通貨単位は円ではないが。

「……カリン、このまま俺と手ぇ組まへん?結構ええ生活でけるで?」
「皆が心配しています。それに、やらないといけない事もあるので」
「えー、カリンさーん、命かけて街まで行くのやめよぉやぁ」

 ぶぅぶぅ口を尖らせてもダメです。

「まぁ、真面目な話、あんな呪いまでかけられても戻るんはやめた方がええと思うんやけど」
「でも、あれが無ければ魔王は倒せないんじゃないですか?」
「魔王、なぁ。おると思うんか?」
「え?」
「せやから、ほんまに人の心につけ入って怨嗟振り撒く様な魔王、いるんやろか?誰も見た事あらへん。歴代の勇者御一行も力は削いでも対面した事はない。おまけに怨嗟は魔王の専売特許でも無い。俺はあんまり信じてへんのよね」

 魔王は……、いない。そんな事あり得るのだろうか?

「クラリス陛下とお話しして、ですけど、いると、思います」

 そう言われると自信は無くなってくる。

「ただ、もし魔王自体はいなくても魔王討伐に出れば空気中のマナが減って怨嗟が減るのは確かです。自然現象かも知れないけれど、行く価値はあると思います」
「ほーん。ま、そこまで言うなら頑張りよし」

 ウジョーさんは怨嗟にはあまり興味がない様だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...