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アッサムの実家

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 ナルシスト一族だったな、そう言えば。だからのナルさんなんだもん。

 ややぐったりして、廊下の扉を開けた。
 開けてびっくり、目の前には殺気ムンムンで剣を構えるナルさんvs小馬鹿にして笑うリオネット様。

「内々とのご意向だ。それを盗聴などとは許すまじ」
「アホですか。アホですね。本当に内々ならナギア殿は宣言などなさらない。あれは口を挟まない形でなら漏れても構わないという意味でしょう?」

 繰り出す剣技をヒラヒラと交わしたり、弾いたりしてるリオネット様は余裕があってちょっと楽しそう……って!

 「ちょっと待って」と止めようと口を開いたと同時位に、風が動いた。

「まぁ、今回はリオンの方が正しいな」

 壁にもたれて成り行きを見守っていたらしいアッサム様がよっと反動をつけた次の瞬間にはナルさんの剣を鞘に納めさせていた。早いとかいうレベルではない。完全に見えなかった。
 今どうやったんすか。アッサムお兄様。

「と、とりあえず落ち着いて、ね?」

 ナルさんの前に飛び出すと、彼は今私が出てきた事に気がついたらしく表情も空気もガラッと変えた。また、あの切なそうな堪らないようなあの顔だ。しかも、若干頬まで赤い?

「我が君……」
「そんな大した話してなかったよ。聞かれても大丈夫。ちゃんと私の気持ちを汲んでくれたんだよね?でも、私はみんなとナルさんが喧嘩される方が嫌だよ?」
「恐れ多くも、私はお言いつけを守れず……」

 じわっと目に涙を溜め始めた始めた25歳。かわいこぶってもダメだ。

「私が中の話をスピーカーで大きくして聴いてたんですよ。カリンはよもや、それを耳にしてしまったナルニッサを咎めたりはしないでしょう?」
「リオネット様……、せめて盗聴は盗聴らしく、お願いします……」
「流石カリン、よく分かってらっしゃる」

 ご自身が抗議を受ける気は毛頭もないってね。

「ね、だから、ナルさん、落ち込まない、で?」
「いえ、私は我が君が兄上に仰ったお言葉に、喜びが勝ちすぎてっ」

 そっちですか?と拍子抜けだ。
 ナルさんは片膝をつき、私の左手の爪の辺りにキスをする。これも癖のようなものか?なんだか、私もよくない方に慣れてきてしまった。

「我が君は美しい」
「お願いだから、外ではしないでください」

 リオネット様の「ぶっ」と吹き出す声とアッサム様のため息が重なって聞こえた。

 どうやらナルさんとアッサム様は相性が良く、リオネット様とはあまり良くなさそう。一見リオネット様が仕切ってる事が多いけど、何気に最年少のアッサム様がうまく調整してくれてるような?
 でもナルさんも爪は出してないから本気でも無い、か。

 ナルさんを立たせていると、廊下に窓からひとひらの花びらが入ってきた。風も吹いてないのに不思議に思っていると、リオネット様がそれを拾った。

「アッシャー、リズさんが男の子をご出産されました」
「リズは?」
「ご無事です」

 アッサム様が今までに見たことのない位嬉しそうに微笑んだ。

「サルフォードに向かわれるのでしょう?ここは私達に任せて急いでください」
「ああ、……カリンを連れて行ってもいいか?」

 リオネット様はアッサム様の提案に優しく頷いた。

「もちろん。私からも提案するつもりでした。お帰りはいつでも構いません。私達は自城に戻ります」
「すまねぇ。助かる。カリン、行くぞ」
「え、あ、はい。ナルさんは……?」
「私はご遠慮いたします。アッシャーとアンズ殿が居るなら安心ですので」

 意外にもナルさんは礼をとって辞退した。アッサム様が「すまねぇな」と小さく言った。

 ところでリズさんてどなたでしょうか?

「俺の姉貴だよ」

 アッサム様の騎獣は大きな虎の様で背中は広く2人で乗ってもまだ余裕があった。

「年が13離れてて、俺を産んですぐ母親が亡くなったから、ほぼ俺の育ての親だ。他の身内は、俺が物心つく頃には消えてた」

 前に乗っているので、アッサム様の表情は見えない。お姉様の出産に喜んでいる様な気配はあるが、それよりも緊張が強く感じられる。

「ご実家にはあまり帰ってらっしゃらないのですか?」
「サルフォードに行ったのは数回。実家っつうか、リズに会ったのは2回かな?話したのは1回、リズの結婚式の時だ。だが、リズは俺を覚えてないから、そこんとこよろしく頼む」
「覚えてないとは?」
「あそこだ、教会に降りるぞ」

 質問は急降下で遮られ、教会の中庭らしき場所に墜落する様なスピードで降り立った。いや、落ちた。少なくとも私にはほぼ落ちた様な物だった。

「ア、アッサム様、怖かった、です」
「まぁ、慣れろ」

 二度と一緒には乗るまいと硬く心に誓っていると、30歳辺りの男性が転がる様に飛び出てきた。身なりが良く、この教会の上の方の地位の人だと分かる。

「これはこれは、アッサム様、カリン様。この度はご来臨賜り、誠に恐悦至極に……」
「わりぃ、プライベートで来たんだ。俺らは庶民出身だから、出来れば普通にしてくれ」
「え、は、はぁ」
「はっはっはっ、お変わりない様で」

 困惑している男性の後ろから、白い髭のおじいちゃんが出てきた。服装はラフだが、胸につけている徽章からこの教会の司祭だとわかる。さっきの人は輔祭か。関連の絵本読んだいて良かった。

「よお、じぃさん、元気か」
「変わりませんぞ。アッサム様も相変わらず町の坊主の様で、お変わりないご様子」
「俺の地元でも、司祭はじぃさん呼びだったからな」
「これ程適当な地域が他にもあるとは、全くこの国は広いですな」

 俺の地元?なんだか、司祭様もアッサム様を覚えない……のか、その素振りをしてる?

「今日、こいつ乗せて上をたまたま飛んでたんだが、前、俺にすげぇ似てた人に会ったのを思い出して、降りてきてみた。ここはある意味特殊な地域だからな。社会見学も兼ねてだ」
「なるほど」
「特殊な地域、なんですか?」

 話を合わせるはずが、思わず聞いてしまった。けれど、司祭様達は都合良く「どこが特殊なのか?」と問うている様に受け取った様だ。

「カリン様はマンチェスター以外のご出身でらっしゃるのか?」
「ええ」
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