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野外訓練
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単純な戦闘訓練だけで話は終わるはずもなく。
パーティーの野外訓練は王都の外、それ程離れてはいないが野生動物がちらほらいる林で実施された。
「本来ならうろつくのは聖獣魔獣になるだろうが、今は感覚だけで良い」
火を起こす魔法などを使えば快適だけど、実際魔王征伐に行けば、魔力は出来るだけ消費しないようにする。その中で最大限に体力の回復を図るのだ。
しかも、
「心臓の音は感じるな?離れたら戦闘開始だと思え」
アッサム様と背中合わせで座った状態の就寝。ちなみにリオネット様も訓練に参加してくださってはいるが、聖女役として簡易テントの中。何かあった時の為らしいけど、ここでは何も無いと思いますが?しかも、何故かアンズもテントの中。
何故だ?
すぐにアッサム様は動かなくなっておそらく寝たんだろうけど、私は寝れない。まず三角座りでも長座でも寝た事ない。尻痛い。
直前までハードな訓練があったから体はくたくたなんだけど、訓練だからで夕食は水のみ。アッサム様やリオネット様も同様で、そもそも二人には今更必要は無い訓練のはずで、わざわざ付き合ってもらってる身で文句も言えない。
しかし、寝れない。
木々の隙間から見える夜空は星が明るいほどで、地球とはやはり違う。こちらで習った星座は丁度あちらでで習ったのと鏡面のように逆になっている。ゆっくりと星が回るのを私はぼんやり眺めていた。
「おい、まだ寝てねぇな?」
「あれ?アッサム様も?」
「アホか、俺は一回寝て今起きたんだよ。そしたらまだ寝た気配もねぇし」
「……戻ったらこの格好で寝る練習しておきます」
「緊張で寝れねぇんじゃ無いんだな」
「緊張?」
「手ぇ貸せ」
貸す?どうやって?とりあえず地面に置いていた右手を後ろにやると、彼は手を重ねてきた。
「お前の兄貴がどんなんかしらねぇけど、兄貴の手だと思え」
「え」
「想像すんだよ」
兄様の手、かぁ。最後に繋いだのは思い出せない位前に思う。
ただ何となくぎこちない暖かさが逆にそれっぽく感じて、私の意識は遠くなって行った。兄様……会いたいな。感じた寂しさは、すぐに暖かさに包まれて昇華される。
言葉が分からずに泣いて寝ていた日々、兄様は私を抱きしめて寝かしつけてくれていた。そんな暖かさだった。
「おはよー!」
もふっと顔にアンズがへばりつかれて、私は起床した。ええ、横になってました。そして、掛けてもらった上着はアッサム様とリオネット様の2人分……。
「す、すみません……」
「初めはそんなものです。それより、アッシャーは少し顔色が優れないようですが?」
「うるせー。カリン、寝相が悪すぎる。一人で座って寝れる様になりやがれ」
「はい」
そんなに酷かったか?確かに座って寝れない、離れた事にも気がつかなかったし……、うん、酷い。訓練の意味無い。
「すみません、お二人は寒く無かったですか?」
「昨晩程度なら無くても問題ねぇな」
「私にはアンズ殿がいましたので」
もう一度頭を下げた所に、アッサム様は上着を私に乱暴に被せた。
「肉をつけろ。食事無しで寝た時に体温が下がり過ぎてた。家帰ったら風呂であったまってから、肉になるもん食って寝ろ。夕方まではフリーだ」
包まれた香りは昨夜感じた物で、私の胸は少しどきりとした。
――――――――――――――――――――――――――
「緊張で寝れねぇんじゃ無いんだな」
「緊張?」
「手ぇ貸せ」
人の気も知らず、無防備に彼女は手を伸ばしてきた。
女じゃ無い。初見で女だと思わなかったじゃねぇか。と散々自分に喝を入れたところで、背中の鼓動はリオンと比べるとか弱くあたりも柔らかい。
初めて森でサーベルタイガーを相手にした時より、何故か緊張して眠れない自分が情けない。
さらに、あまり深く考えず移した行動で、彼女の手が覚悟していた以上に華奢で小さく感じられて、自分の方の症状は悪化した。
「……兄貴っていくつだ?」
気まずさを振り払おうと声を掛けたが、返事は無い。この一瞬で寝たのか?と思うと全く意識されていないという証左でもあり面食らった。
「うっ……」
「あん?」
くぐもった声が聞こえず顔だけで振り返ったが、彼女はグラリと体勢を崩して、反射的に抱き留めた。
っておい、この後どうするよ?
「にぃ、さま……」
寝言か、呑気な。と思って彼女の顔を見てぎょっとなる。寝顔はまだあどけなく無防備で、その目には少し涙した後がある。人生で感じたことのない、ヤバイ何かの衝動を必死で堪えた。
「ん」
ぎゅっ。
胸のあたりに顔を埋めるように、小さな力で彼女が服を掴む……。
無意識に彼女を抱きしめてしまった。
「いや、これは、あれだ。体温が低すぎるからだ。緊急避難だ」
風呂にも入っていないはずの彼女から、脳が蕩けそうな甘い香りまでする。
何を考えているんだ。訓練だぞ?
リオンがテントにいる。自分を止めて欲しいのと同じ位の強さで、何故か邪魔だと感じる。
なんだ、これは。落ち着け自分。
「アッサム兄様」
周囲への警戒を怠っていた事に、声を掛けられて初めて気がついた。これではカリンに偉そうな事は言えない。そっとマント状の被服をカリン掛けた。
「何故ここにいるんだ、ソフィア?」
「アッサム兄様が結界の外に居たから、意識を飛ばしてきたの」
半透明の義理の妹、マンチェスター家の娘が隣に立った。
「会いたかった」
「来月の試合には観戦に来るんだろうが」
「いじわるね。……お父様からの提案断ったって聞いたの。何故?」
「俺は魔王討伐に出る。お前の夫にはなれねぇだろが」
「新しい勇者候補が来たって聞いたけど?」
「俺の方が強えよ」
ふっとソフィアは笑って、後ろから抱きついている、らしい。感覚はなく、ただ、回された腕が視界に入った。
「確かにそうね。……私は帰るまで待っても良いのに」
「父上を早く安心させろ」
「ひどい人。……あら?その子は?」
バレた、か。
「新しい弟だ。今日は野外訓練を」
「眠りこけてて、ほんとにダメね。それに鈍そう」
「俺の弟子の悪口はやめてもらおうか」
「私のアッサム兄様の胸で寝るようなバカは要らな……ちょっと待って。この子、女よ」
「んな訳あるか」
「違う!女だ!汚しい女!」
振りかぶったソフィアの手を弾こうとして、やっちまったと舌打ちをする。幻影のソフィアの手はすり抜けて、自分にも彼女にも実害はない。
「……今、弾こうとした?私の手を打つ気だった?」
「悪い、反射だ。他意はない」
嘘だ大有りだ。現に実害が無くても暗い物が腹に溜まっていく。
「もし、仮に女だとしても、俺らが男だっつってんだ。外に広めるなんてバカな事はすんなよ。リオンの敵に回る事になる」
「つまり、あの女のせいね」
「女王陛下相手に口は慎め」
「……私は女王陛下なんて言ってないわ」
ソフィアは嫌な笑顔になった。
「大丈夫、誰にも言わないわ。アッサム兄様。私達の大事な弟、ですものね」
そのまま、ソフィアはすっと消えていった。魔具を用いてもソフィアの魔力ではここまでが限度だろう。ふっと息を吐いた。
「つー、訳だ。どうする?リオン」
「……愚かな妹殿に何かできるとは思えませんが、用心はしておきましょうか」
テントからリオンはあくびをしながら現れた。同時に、リオンはテント中心に四方八方に撒いていた小動物と虫の使役獣を回収した。弱ければ弱い生き物ほど見つかるリスクは低く監視や盗聴には向いている。
「それより、虫達は全て回収したので続きをどうぞ」
俺は一番近くにいた奴のテントウムシの使役獣を投げつけた。
パーティーの野外訓練は王都の外、それ程離れてはいないが野生動物がちらほらいる林で実施された。
「本来ならうろつくのは聖獣魔獣になるだろうが、今は感覚だけで良い」
火を起こす魔法などを使えば快適だけど、実際魔王征伐に行けば、魔力は出来るだけ消費しないようにする。その中で最大限に体力の回復を図るのだ。
しかも、
「心臓の音は感じるな?離れたら戦闘開始だと思え」
アッサム様と背中合わせで座った状態の就寝。ちなみにリオネット様も訓練に参加してくださってはいるが、聖女役として簡易テントの中。何かあった時の為らしいけど、ここでは何も無いと思いますが?しかも、何故かアンズもテントの中。
何故だ?
すぐにアッサム様は動かなくなっておそらく寝たんだろうけど、私は寝れない。まず三角座りでも長座でも寝た事ない。尻痛い。
直前までハードな訓練があったから体はくたくたなんだけど、訓練だからで夕食は水のみ。アッサム様やリオネット様も同様で、そもそも二人には今更必要は無い訓練のはずで、わざわざ付き合ってもらってる身で文句も言えない。
しかし、寝れない。
木々の隙間から見える夜空は星が明るいほどで、地球とはやはり違う。こちらで習った星座は丁度あちらでで習ったのと鏡面のように逆になっている。ゆっくりと星が回るのを私はぼんやり眺めていた。
「おい、まだ寝てねぇな?」
「あれ?アッサム様も?」
「アホか、俺は一回寝て今起きたんだよ。そしたらまだ寝た気配もねぇし」
「……戻ったらこの格好で寝る練習しておきます」
「緊張で寝れねぇんじゃ無いんだな」
「緊張?」
「手ぇ貸せ」
貸す?どうやって?とりあえず地面に置いていた右手を後ろにやると、彼は手を重ねてきた。
「お前の兄貴がどんなんかしらねぇけど、兄貴の手だと思え」
「え」
「想像すんだよ」
兄様の手、かぁ。最後に繋いだのは思い出せない位前に思う。
ただ何となくぎこちない暖かさが逆にそれっぽく感じて、私の意識は遠くなって行った。兄様……会いたいな。感じた寂しさは、すぐに暖かさに包まれて昇華される。
言葉が分からずに泣いて寝ていた日々、兄様は私を抱きしめて寝かしつけてくれていた。そんな暖かさだった。
「おはよー!」
もふっと顔にアンズがへばりつかれて、私は起床した。ええ、横になってました。そして、掛けてもらった上着はアッサム様とリオネット様の2人分……。
「す、すみません……」
「初めはそんなものです。それより、アッシャーは少し顔色が優れないようですが?」
「うるせー。カリン、寝相が悪すぎる。一人で座って寝れる様になりやがれ」
「はい」
そんなに酷かったか?確かに座って寝れない、離れた事にも気がつかなかったし……、うん、酷い。訓練の意味無い。
「すみません、お二人は寒く無かったですか?」
「昨晩程度なら無くても問題ねぇな」
「私にはアンズ殿がいましたので」
もう一度頭を下げた所に、アッサム様は上着を私に乱暴に被せた。
「肉をつけろ。食事無しで寝た時に体温が下がり過ぎてた。家帰ったら風呂であったまってから、肉になるもん食って寝ろ。夕方まではフリーだ」
包まれた香りは昨夜感じた物で、私の胸は少しどきりとした。
――――――――――――――――――――――――――
「緊張で寝れねぇんじゃ無いんだな」
「緊張?」
「手ぇ貸せ」
人の気も知らず、無防備に彼女は手を伸ばしてきた。
女じゃ無い。初見で女だと思わなかったじゃねぇか。と散々自分に喝を入れたところで、背中の鼓動はリオンと比べるとか弱くあたりも柔らかい。
初めて森でサーベルタイガーを相手にした時より、何故か緊張して眠れない自分が情けない。
さらに、あまり深く考えず移した行動で、彼女の手が覚悟していた以上に華奢で小さく感じられて、自分の方の症状は悪化した。
「……兄貴っていくつだ?」
気まずさを振り払おうと声を掛けたが、返事は無い。この一瞬で寝たのか?と思うと全く意識されていないという証左でもあり面食らった。
「うっ……」
「あん?」
くぐもった声が聞こえず顔だけで振り返ったが、彼女はグラリと体勢を崩して、反射的に抱き留めた。
っておい、この後どうするよ?
「にぃ、さま……」
寝言か、呑気な。と思って彼女の顔を見てぎょっとなる。寝顔はまだあどけなく無防備で、その目には少し涙した後がある。人生で感じたことのない、ヤバイ何かの衝動を必死で堪えた。
「ん」
ぎゅっ。
胸のあたりに顔を埋めるように、小さな力で彼女が服を掴む……。
無意識に彼女を抱きしめてしまった。
「いや、これは、あれだ。体温が低すぎるからだ。緊急避難だ」
風呂にも入っていないはずの彼女から、脳が蕩けそうな甘い香りまでする。
何を考えているんだ。訓練だぞ?
リオンがテントにいる。自分を止めて欲しいのと同じ位の強さで、何故か邪魔だと感じる。
なんだ、これは。落ち着け自分。
「アッサム兄様」
周囲への警戒を怠っていた事に、声を掛けられて初めて気がついた。これではカリンに偉そうな事は言えない。そっとマント状の被服をカリン掛けた。
「何故ここにいるんだ、ソフィア?」
「アッサム兄様が結界の外に居たから、意識を飛ばしてきたの」
半透明の義理の妹、マンチェスター家の娘が隣に立った。
「会いたかった」
「来月の試合には観戦に来るんだろうが」
「いじわるね。……お父様からの提案断ったって聞いたの。何故?」
「俺は魔王討伐に出る。お前の夫にはなれねぇだろが」
「新しい勇者候補が来たって聞いたけど?」
「俺の方が強えよ」
ふっとソフィアは笑って、後ろから抱きついている、らしい。感覚はなく、ただ、回された腕が視界に入った。
「確かにそうね。……私は帰るまで待っても良いのに」
「父上を早く安心させろ」
「ひどい人。……あら?その子は?」
バレた、か。
「新しい弟だ。今日は野外訓練を」
「眠りこけてて、ほんとにダメね。それに鈍そう」
「俺の弟子の悪口はやめてもらおうか」
「私のアッサム兄様の胸で寝るようなバカは要らな……ちょっと待って。この子、女よ」
「んな訳あるか」
「違う!女だ!汚しい女!」
振りかぶったソフィアの手を弾こうとして、やっちまったと舌打ちをする。幻影のソフィアの手はすり抜けて、自分にも彼女にも実害はない。
「……今、弾こうとした?私の手を打つ気だった?」
「悪い、反射だ。他意はない」
嘘だ大有りだ。現に実害が無くても暗い物が腹に溜まっていく。
「もし、仮に女だとしても、俺らが男だっつってんだ。外に広めるなんてバカな事はすんなよ。リオンの敵に回る事になる」
「つまり、あの女のせいね」
「女王陛下相手に口は慎め」
「……私は女王陛下なんて言ってないわ」
ソフィアは嫌な笑顔になった。
「大丈夫、誰にも言わないわ。アッサム兄様。私達の大事な弟、ですものね」
そのまま、ソフィアはすっと消えていった。魔具を用いてもソフィアの魔力ではここまでが限度だろう。ふっと息を吐いた。
「つー、訳だ。どうする?リオン」
「……愚かな妹殿に何かできるとは思えませんが、用心はしておきましょうか」
テントからリオンはあくびをしながら現れた。同時に、リオンはテント中心に四方八方に撒いていた小動物と虫の使役獣を回収した。弱ければ弱い生き物ほど見つかるリスクは低く監視や盗聴には向いている。
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