拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です

LinK.

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第二十三話

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「何で王太子様とあんなに親しげなの?」

レイラちゃんが不思議に思うのは当然の事だ。貴族科の生徒でもない私が王太子様と普通に話していたら気になってしかたがないだろう。
当人の私だって、不思議なんだから。
そもそも、王太子様と会うのは謁見の時以来だし、その初対面ではラブュ様に土下座をさせたり、モスたちを説教したりと印象は最悪だったと思うのだ。

「えっと、加護を授かった事の報告をするために、国王様ご一家とお会いする機会が会って、王太子様とはその時にお会いしたの。でも、会ったのはその一度きりだよ」

よくわからないことには蓋をして、王太子様となぜ知り合いなのかを説明する。


「サラはその時に国王様たちとご飯も一緒に食べたんだって!」
「なんで、キャシーが自慢げなのよ」

キャシーちゃんが自慢げに胸をそらして話すのを、アミーちゃんが呆れた様子でたしなめる。

「へーっ!凄いなぁ!国王様ってどんな人だった?」
「王女様にもお会いしたのぉ?」
「えっと、国王様は優しそうな方だったよ。うん。王女様にもお会いしたよ。」

国王様との謁見の話は三人にしか話していなかったので、フィン君とエミリちゃんも興味津々なようだ。

「じゃあ、さっき会ったので二度目ってこと?」
「うん」

レイラちゃんは信じられないといった目でこちらを見つめるけど、本当の事だから!
アミーちゃんたちも一緒になってレイラちゃんを説得してくれて、レイラちゃんも渋々だけど納得してくれた。




「あっ、良かった!帰ってきたっ!リチャード先輩!みんな帰ってきましたっ!」

聞きなれた声に振り向くと、ヒューイ先輩たちがこちらへ走ってくるところだった。
その後ろにはリチャード先輩もいて、私たちの姿を見てホッとしたような顔を浮かべている。

「玄関で話し声が聞こえたから、もしかしてと思って、無事に解放されたんだね。良かった!」
「みんな無事っ!?」
「私、マリアさんを呼んでくる!」


ミーナ先輩がマリアさんを呼びに寮母室に向かったので、マリアさんが来るのを大人しく待っていると、談話室で私たちの帰りを待っていた同級生や先輩方がやって来て、あっという間に囲まれてしまう。

「助けてあげられなくって、ごめんなっ」
「キャシーちゃん、怪我はない?」
「大変だったね!」


みんなに囲まれて、戸惑う私たちにリチャード先輩がこの大騒ぎの理由を教えてくれた。

「貴族科の一年に絡まれたんだって?その場にいた他の一年が血相を変えて寮に飛び込んできて、教えてくれたんだ。すぐにマリアさんに伝えて、王太子様が仲裁にはいったのなら下手に動かない方が良いって事になったんだが、あまりにも遅いから俺だけでも様子を見に行こうかと話してたところだったんだ」
「そうだったんですね」
「とにかく無事で良かったよ」
「マリアさん、早く早く!」
「お待ちなさい、ミーナ。廊下を走っては行けませんよ」

ミーナ先輩がマリアさんの手を引っ張って、早足でこちらに戻ってきた。

「王太子様の事情聴取は終わったようね」
「はい。後の事は王太子様たちに任せるように言われました」

マリアさんの質問に、アミーちゃんが私たちの代表として答える。

「授業の初日から大変な目にあったわね。親の身分を自分のものと勘違いした子が多くて困ったものだわ。すぐにその愚かな考え方は改められることでしょうけど。念のため、私からもガスト校長に話しておかないとね」

マリアさんは屈んで私たち一人一人の頭を優しく撫でてくれた後、立ち上がり、リチャード先輩に声をかける。

「リチャード、六人の事を頼みましたよ。私は少し出掛けてくるわ」
「はいっ」

マリアさんはそのまま学生寮を出て行ってしまった。
どうやら、早速校長先生に会いに行くみたい。

「さあ、早く食堂に行こうぜ。じゃないと、夕飯を食べる時間がなくなるぞ」
「「「「「「「「「あっ!」」」」」」」」」

既に時刻は19時をゆうにすぎていた。

「ほら、食事をしてないやつは急いで食堂に行くんだぞー」


リチャード先輩の号令で、私たちを囲んでいたみんなが慌てたように一斉に食堂に向かう。

「私たちも急がなきゃ」
「うん!」
「そうね」
「腹へった」
「確かに!ホッとしたらお腹が空いてきたなー」
「レイラちゃん、今日のご飯はなんだと思う?楽しみだねぇ」
「僕たちは先にご飯を食べたから、ここでお別れだね」

ヒューイ先輩たちは既にご飯を食べ終わっていたようで、このまま部屋に戻るそうだ。
私たちはリチャード先輩と一緒に食堂に向かい、リチャード先輩の見守る中、仲良くご飯を食べた。その際に、レイラちゃんともお話しすることができて、少しは仲良くなれたと喜んでたんだけど…。

「今回はエミリのために付き合ったけど、これ以上私に話しかけないでね。私は馴れ合う気はないの。エミリ、行くわよ」
「あ、待ってぇ!みんな、またねぇ」

ご飯を食べ終わった後、一緒にお風呂に入りにいこうと誘ったら、断られてしまった。
まだまだ、レイラちゃんと仲良くなる道のりは長そうだ。




バフンッ

「疲れたぁ~っ」
「ふに~」

部屋に戻ってすぐにマーブルと一緒にベッドに体を投げ出す。

「にっ!にっ!」

体の軽いマーブルはベットの上で何度も弾んで、目を回している。

「あっ!マーブル大丈夫?」
「にゃん」

上半身だけ起こした状態で弾むマーブルの体をすくい上げると、落ち着くためか私の手のひらで毛をペロペロと整え始めた。

『サラ様、室内着に着替えた方がよろしいかと』
「あ。そうだね。モス、ありがとう」

マーブルを今度はそっとベットの上に乗せると、疲れた体を無理矢理引き起こし、室内着に着替える。
着替え終わった頃には力尽きて、そのままベットに倒れこんでしまった。

『サラ様、毛布が下敷きになってます。そのままでは風邪を引いてしまう』
「んー」

夢心地でなんとか返事をするけど、既に体を動かすのは億劫で、このまま眠ってしまいたかった。
あ、そうだ。モスに王太子様の事を話しておかないと…。

「モス、王太子様は…、悪気ない…、怒っちゃダメ…だ…よ」

何とかモスにそれだけは話すと、モスの返事を待たずに力尽きてしまった。

『やれやれ。サラ様には他人の事より、まずご自分の事を考えて欲しいものだ』

私はいつだって自分の事しか考えてないよ。
そう、モスに言えたかどうかは記憶になかった。
深い眠りについた私は、モスが魔法でゴーレムを出して毛布を体の上にかけてくれた事も、マーブルがそれを見届けた後、どこかに出掛けていった事にも気づくことなかった。
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