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第十九話

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大男の事はシヴァと呼ぶように言われ、連れてこられたのは山奥の小屋。
そこには薄汚れた子供達がいて、俺と同じどこかの村の生き残りだと言っていた。


シヴァは見た目に反して子供が好きなようで、俺達は温かい食事に一人がけの布団を与えられた。

朝飯を食べて山に入り、食べられる樹の実や山菜を教えてもらう。
昼飯を食べてシヴァの考えた遊びでみんなと走って遊ぶ。
夕飯を食べた後はシヴァの話を聞きながら寝る。

シヴァの作り話は怖くて残虐な部分もあった。女の子達は泣いていたけど、俺や年上の男の子達は悪人を懲らしめる爽快な話に引き込まれていた。



ここに来てから1週間。

みんなは『ウィル』と呼ぶようになり、話せない俺を仲間として受け入れてくれた。

昼飯を食べてから、シヴァがみんなを集める。

「お前たちには暗殺者になってもらう。その為に高い金を払って引き取ったんだ。嫌なら奴隷商に売るだけだ。ここに居れば温かい食事も布団もあるが…、好きに選ぶといい」

『暗殺者』はよくシヴァが話してくれる物語に出てくる主人公で、それが何かもよくわかっていなかった俺は頷いた。
格好良いものだと思ってたんだ。

泣いて嫌がった女の子は次の日に売られて行った。
どっちを選んだら良かったのか、大人になった今でもわからない。


残った子供は11人。

俺達は剣や槍、弓を持たされて、戦い方を教わった。
山に入って動物に気付かれないように気配を消したり…
シヴァの遊びがここで役に立った。


それから5年。

俺は10歳になった。本当の年齢はわからない。シヴァがここに連れてきた日が俺の5歳の誕生日になっただけだ。

シヴァは俺だけに依頼を出すようになる。

「世に蔓延る悪を打て」

期待されていると思って、暗闇に潜んで悪人達を葬っていく。この理不尽な世の中の為に…。

中には人の良さそうな男も対象だったけど、その時の俺は疑うこともしなかった。


俺達は何処に紛れても生きていけるように、色んな場所に送られた。
料理店や農場、牧場に、他にも色々…。

低賃金で働く俺達はどこに行っても重宝される。


昼は仕事をして、朝夜はシヴァから訓練を受ける。
仕事を覚えたら、また違う場所に行く。

俺は器用だったのか、どれも苦には思わなかった。


「ウィルは凄いよな。ウィルの後に行くと、絶対比べられるんだ。この間だって料理長に怒鳴られたよ…。『ウィルフレッドの方が良かった』って言うんだぜ?」

俺と剣の打ち合いをしながらザックが愚痴をこぼす。

「俺はザックの後に言ったら褒められたよ。『ザックじゃなくて良かった』ってな」

隣で打ち合いをするアークも話に加わってくる。俺は声を出せない代わりに笑顔を見せた。

怒鳴られたり大変な事もあったけど、俺達は楽しくやっていた。



それから6年が経ち、一番歳下のザックが15歳になってから暫くしたある日、シヴァが俺達を集める。

「これまでよく頑張ったな。今日は卒業試験を行なう」

「卒業したら独り立ち出来るってこと?」

アークが手を上げて尋ねる。

「そうだ。無事に卒業する事ができた者だけがな」

みんなやる気を出してシヴァから出される課題の発表を待っていた。


「お前たちには殺し合いをしてもらう。暗殺者になるのだからな。先ずは隣の者と組んで戦え」

誰も動かない。仲間だと思って10年以上過ごしてきたんだ。殺し合いなんてできない。

「嫌だよ。シヴァ、他の課題は無いの?それ以外ならどんな難しい事でも良いからさ」

ザックが必死に懇願すると、シヴァがいきなり斬り捨てた。

「これで10人だ。切りがいい。どうした?早く始めるんだ。ザックのように斬られたいか?」


「ぅわぁぁぁ!」

みんな叫びながら打ち合いを始める。
身体が小さい奴は自分の有利になるように山に走っていき、相手も追い掛けて山に入る。


俺の相手はアークだった。

「ウィル、剣を取れ!構えろ!」

アークは叫びながら剣を振り下ろす。

(止めてくれ。こんな事はしたくない)

話せない俺は防戦一方だった。アークを傷付けたくない。

「ウィル!本気で戦え!俺達の苦労を溝に捨てるなよ!ザックの夢を、俺かお前が背負うんだ!」

アークは泣いていた。


『俺は強い殺し屋になって、大金を稼ぐんだ。シヴァみたいに売られた子供を買って、家族みたいに過ごしたいんだ』

よくそう言っていたザック。


俺は剣を握り直してアークの剣を巻き上げた。

「それで良いんだ。頑張れよ」

それがアークの最後の言葉だった。

(俺に敵うわけ無いじゃないか…。アークは剣術が一番苦手だっただろう…?それに、俺はもう何人も……)

「ぁ………あぁ…………」

俺の口から十何年振りの音が出る。
掠れていて、声にならない声。

俺は自分が斬って命を奪ったアークを抱き締めて泣いていた。



「ショック療法とはこの事かな…」

いつの間にかシヴァがいて、俺を見下ろす。

「な……こん……」

「なんでこんな事をするかって?」

俺はシヴァを睨みつけたまま頷いた。

「最強の殺し屋を作るためさ!俺はウィルフレッドを見込んでいたよ。お前ならなれるってな!」

シヴァは声高らかに言う。


「ウィルフレッド、最後の卒業試験だ。この俺を倒してみろ」

「い…だ…」

俺は首を横に振った。これ以上殺し合いはしたくない。

「そうか…。それなら良い話を聞かせてやろう。お前の仲間たちは皆死んだよ。相討ちもいたがな。俺が殺してやった」


家族のようだと…、本当の子供のようだと思ってくれていたんじゃなかったのか?
それではザックが泛ばれない…

俺はずっとシヴァを睨んでいた。


「これならどうだ?お前の村が襲われた話だ」

俺が反応したのが嬉しかったのか、シヴァは楽しそうに話し始める。

「村が襲われたのは偶然ではない。お忍びで来ていたこの国の王が、女に振られた腹いせに襲わせたんだよ。火を着けて、逃げ惑う村人を騎士に襲わせたのさ」

頭に激痛が走って、俺は蹲った。

次々に脳裏に浮かぶ燃え盛る家屋に人の悲鳴。
自分の名前も家族の顔も思い出せないのに、あいつの後ろ姿は鮮明に思い出せる。


「思い出したか?いい顔付きになった。復讐に燃える目は素晴らしいな。もうひとつ良い話を教えよう。ウィルフレッド…、お前の名前はな、その王の息子と同じなんだよ」

「ぅわぁぁぁ!」

憎い。悔しい。大嫌いだ。

村を襲った王も、殺し合いをさせたシヴァも、自分の名前も…


俺は叫びながらシヴァに斬り掛かった。

「素晴らしい!お前は俺の最高傑作だよ、ウィルフレッド」

俺を徴発する為なのか、シヴァは俺の名前を何度も呼ぶ。

長時間の死闘の末、俺はシヴァに打ち勝った。

「血で手を染め、憎悪に燃える目。お前は立派な化け物だよ。この目で見届けられないことが残念だ」

そう言い残してシヴァは息絶えた。

心も身体も疲れ果てた俺はそのまま気を失った。
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