拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です

LinK.

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第三話

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クリスティーナがウィルフレッドに望んだ物
それは家族揃っての国外への移住だった。

移住という一つの願いではあるのだが、それに伴っていくつかの問題があった。


公爵という爵位の返上

無駄な争い事を避けるため、まずは王家が管理をし、次に功績を上げた家に叙爵することになる。そこに領地経営を任せれば良いと踏んだ。

公爵の留守の間に補佐をしていた執事はそのまま残っている。彼に任せておけば問題ないと、アレキサンダー王は報告書を流し読むだけで、王家が管理をしているつもりになっていた。


元公爵夫人の立ち位置

アメリアは子供を産んでなお、その美貌は衰えず、社交界の華と呼ばれていた。老若男女を魅了し、彼女の身に付ける物や勧めた物はすぐに売り切れるほどだった。

これは王妃と王太子妃であるロザリアとマリーが担えばいいと考えた。

ロザリアとマリーは意気投合したのか、二人でよくお茶会を開くようになり、その都度豪華なドレスとアクセサリーを購入していた。その派手な装いは招待客を驚かせている。


そして、元公爵ジェームズの職務

ジェームズは公爵家の領地経営に加えて宰相を務める優秀な家臣だった。しかし、国外に移住となっては代わりの者を見つけなければならない。

ジェームズほど有能な人物に心当たりのない王家だったが、ウィルフレッドが移住に許可を出してしまった為に引き止めることもできない。

仕方なく王妃の親戚筋から優秀とされるビリーを登用し、仕事を任せた。

初めはどうしたものかと悩んでいたアレキサンダー。
勝手にクリスティーナに移住の許可を出してしまったウィルフレッドを叱責し、頭を抱えていた。


しかし、気が付けば国民たちはウィルフレッドとマリーの応援を始め、二人の劇が国内で人気となっていく。
作中で婚約者と家族を追放としたのはやり過ぎだが、クリスティーナがマリーに嫌がらせをしたという噂があったのは事実。

これがビリーの策略か…。
アレキサンダーはビリーはジェームズよりも優秀な宰相になると期待した。


アレキサンダーはビリーを呼び出し、事の詳細を尋ねる。

作家は誰なのか?いつからこの様な計画を建てていたのか?

王の了承を得ずに勝手に行った事を咎めないかわりに、全て話すように命じた。

「かのご令嬢は以前から悪い噂が流れていましたので…、その際のウィルフレッド殿下とマリー様のお心を思い、いつかこの様な日が来るのではと…。作者は私の友人でして、作家活動はもう辞めて行っていないのですが、これを最後にと頼んだ次第でございます。平民ですので、国王陛下にご紹介できる身分ではございません」

汗をかきながら話すビリーに、アレキサンダーは感心していた。

次の宰相にと選ばれる前から行動していたとは目を見張るものがある。さすが、優秀と言われるだけのことはあるな。
少し汗をかき過ぎな気もするが、緊張しているのだろう。
時間が経てば慣れてくるに違いない。


アレキサンダーはビリーの功績を認め、褒賞を与える事にした。

「良くやった。褒めてつかわそう。これからも励むといい」

ビリーは頭を深く下げ、王城に用意された自室へと戻って行く。

褒賞を受け取ることになったビリーは浮足立っていたが、部屋に戻り一人になってから考えた。

(一体誰がやったんだ?誰に聞いてもわからない…。下手に動くと私の手柄ではないと気付かれてしまうし……。いずれにしろ、ウィルフレッド殿下とマリー様の味方であることに違いはない。今回は有り難く利用させてもらおう)

誰もわからないのだからと、自分の手柄にしたビリー。
王の信頼を得たのだから、あとはゆっくりと作家を探して自分の言う事を聞かせれば良いと考えていた。


ビリーが得た褒賞とは、王家が仮に管理をしていたあの公爵領だった。

侯爵家の次男だったビリーは、これにより名をビリー・ワトソンと改め、公爵家当主となる。

「ワトソン公爵領にはジェームズの補佐をしていた執事がいる。その者に助言を聞いて治めると良い。執事の名は………」

アレキサンダーは隣に立つ大臣に「なんと言ったか?」と尋ねるのだが、大臣は知らない。一介の使用人の名など覚えているはずもなかった。

「クリスという名だった気が…」と、大臣が自信なさげに答えるのだが、王は気にした様子もなくビリーに伝えた。

「ワトソン公爵家の執事クリスに手紙を出してやり取りをするといい。すぐには叶わぬが、直接公爵領に行ける時間を作作ってやろう」

ビリーは勅命を受けてすぐにクリス宛に手紙を送った。王家の紋の入った手紙もクリス宛に送られた。


その内容は…

ジェームズに代わりビリーがワトソン公爵家の当主になったこと

公爵家の執事としてビリーを補佐し、報告書を必ず送ること

宰相になったばかりで忙しいが、時期を見てビリーが領地を訪れること

ビリーの指示に従うこと… などが書かれている。


クリスからの返事はすぐに届いた。

ビリーを敬う丁寧な文面で全ての指示に従うと書かれてあり、これで当面の問題は片付いたと喜んだ。

何もしなくてもクリスが領地経営をしてくれる。誰かの功績を自分の手柄にできた。あとは流れに身を任せればいいだけ。

兄を押しのけて公爵家当主となったビリーに怖いものなど無かった。



ジェームズは有能な男だったが、代わりに優秀なビリーがいる。

アメリアは優美な広告塔であり女社会を牛耳る婦人だったが、代わりに皆に尊敬されるロザリアと愛されるマリーがいる。

クリスティーナは知識も礼儀も完璧だったが、ウィルフレッドを立てるマリーがいれば問題ない。足りないものは他の側近達が補えばいい。

アレキサンダーはそう思って安心していた。



ウィルフレッドは最後に見たクリスティーナの笑顔が忘れられなかった。

出会った頃からあの笑顔を見せてくれればいいものを…
そうすれば自分だってクリスティーナをもっと大事にしたし、マリーに心を奪われることもなかった。

いや、自分の魅力に怖気づいたんだろう。誰もを魅了してしまう自分の顔を見れば、緊張して顔も強ばるに決まっている。


「僕は優しいからね。戻って来たクリスティーナを受け止めてあげよう」

ウィルフレッドは鏡に映る自分に話しかける。

爵位を返上したら平民だ。今まで公爵令嬢として、第一王子の婚約者として育ったクリスティーナが平民の生活に耐えられるはずがない。

すぐに嫌になって戻ってくるに決まってる。

そうなれば何処かの家の養子にするか、戻って来た一家に伯爵位を授けても良いかも知れない。


クリスティーナの罪を許して受け入れる自分はなんて優しいんだろう。

王太子になって自分は更に魅力が増してしまったと悩むウィルフレッドだった。

可愛らしい聖女マリーが正妃で、儚げで美しいクリスティーナが側室。
自分が一番なのは揺るがないが、皆に美しいと褒められる二人に挟まれるのも悪くない。

3人で過ごす、そう遠くない未来の姿を想像して、一人で笑っていた。
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