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XXIV
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庭師のフレッドから手紙を渡されたクロード。
一人になれる場所でそれを読むと、契約通りに出て行くと書かれていた。
自分の気持ちがちゃんと伝わらなかった。
もっと直球で伝えていれば、サマンサが不安に感じることも無かっただろう。
最初に契約結婚と言ってしまったばかりに…。
後悔に苛まれて意気消沈するクロードを心配したセバスチャンは、隣町に美味しいお茶を出す喫茶店があるらしいと教えた。
行く気はさらさら無かったのだが、セバスチャンに騙し討のように連れて行かれた喫茶店は不運な事に定休日。
せっかく足を運んだのだから、少し街を回って帰ろう。
気晴らしになるかも知れない。
そして、クロードはサマンサを見つけた。
「こんな所で何をしているんだ」
サマンサは何も答えない。
「どれだけ心配させたかわかっているのか?」
クロードに掴まれた腕が痛い。
「何故ですか?契約書には離縁後に接触しないと書かれていたはずです」
自分に言い返してくるサマンサに驚いたクロードだったが、その手は離さない。
「あれは破棄だと言っただろう?」
「私は了承していません。離縁届けも既に提出しました」
「あぁ、あれか。それなら未だに受理されていない」
夜中に離縁届けを受け取った教会は
そこに書かれている名前が公爵家の物だったので
不審に思ってクロードに確認したのだ。
「提出した女性は公爵家の者にしては質素な服を着ていましたし、地味な顔立ちでございました。仲睦まじいお二人がまさかと思い、もしかするとお二人を嫉妬する誰かの悪戯ではと考えた次第にございます」
「あぁ、不愉快な悪戯だな。これは必要ない。捨て置いてくれ」
サマンサはまだクロードの妻なのだ。
(そんな事って…)
驚き固まっているサマンサをクロードはぎこちなく抱き締める。
「私の為に身を引く必要は無い。屋敷に帰って来るんだ。使用人達もサムを待っている」
「私は戻りません!離してください!」
自分から逃げるサマンサを信じられないものを見るような目で睨んだ。
「私を慕っているのではなかったのか?」
「いいえ」
「だが、私はサムを慕っている」
「いえ、勘違いです」
慕っていないと言うどころか自分の気持ちまで否定されたクロードは、顔を真っ赤にさせる。
「何故そう言い切れる?」
「それならお伺いしますが…」
- サマンサのどこが好きなのか?
そんな物は決まっている。
私に寄り添い従ってくれるところだ。
それに、他の令嬢達と違って擦り寄って来ない。
- サマンサの好きな色は?
公爵家の青色と私の瞳と同じヘーゼルブラウンだろう?
いつもその色の服を着ているではないか。
- サマンサが望んでいる事は?
大切にされる事だろう?
世話を放棄した侍女達を叱りつけた。
それからは常に側にいたではないか。
私と過ごす時間も増えただろう?
それ以上に何を求めると言うんだ。
「従順に従う私はもう何処にもいません。それに…、私の好きな色は緑色です。契約通り、離縁の手続きをお願い致します」
「待つんだ!それなら、ローレン家の家族はどうする?帰らないつもりなのか?」
その場を去ろうとするサマンサをクロードが引き止める。
「出戻りの私を受け入れてはくれないでしょうね。もとより戻るつもりもありません」
唖然と立ち尽くすクロードを背に、サマンサは店に向かって歩きだした。
(震えが治まらないわ…)
生まれて初めて目上の者に強く意思を伝えたサマンサの手は、緊張と不安、そして恐怖で震えていた。
それでも、伝えるべき事は伝えられた。
もう会うこともないだろう。
そう思っていたのに、クロードは喫茶店に客として来店してしまった。
それは偶然で、今日こそはと入った喫茶店でサマンサが働いていたのだ。
「ここで働いていたのか」
「えぇ…」
「ブレンドティーを貰おう」
「かしこまりました…」
相手が客なら追い返すことも出来ず、サマンサはお茶を淹れる。
クロードは何か言う事もせずに帰ったのだが、それから頻繁に通うようになった。
何かと用事をつけてサマンサに話しかけるクロード。
常連客と楽しそうに話すサマンサを見て、自分も話せると思ったのだ。
「サム、今日は君にこれを持って来た」
そう言って差し出すのは緑色の宝石。
「サムに言われてようやく気が付いた。私はこれから君をもっと知っていこうと思う。そうすれば、私達の距離も縮まるだろう?」
クロードは来る度に緑色の物をサマンサに贈っていた。
「いただけません。受け取る理由も無いですし、困ります」
「サムが受け取ってくれなければ捨てるしかない」
最初に断わった時にクロードは本当に捨てて帰ったので、サマンサは受け取るしかなかった。
「クロード様、私が他のご令嬢と違うと仰っていましたが、そのようなお方はごまんといます。まだ出会えていないだけです」
「そうだとしても、私はサムが良い」
サマンサが言ってもクロードは聞く耳をもたない。
「クロード様、私が求める物は自由です。誰にも理不尽な命令をされたくないのです」
「自由に過ごせるよう約束しよう。ここで働くことも許そう。だから帰って来るんだ」
そうではない。働きたいが、それが目的ではないのだ。
自分が嫌いな令嬢達と同じ行動をするクロードだったが、自分では気が付かない。
サマンサは、店の入り口の扉が開く度にドキドキして客の顔を確認してしまうようになった。
(どうして放っておいてくれないの…?)
一人になれる場所でそれを読むと、契約通りに出て行くと書かれていた。
自分の気持ちがちゃんと伝わらなかった。
もっと直球で伝えていれば、サマンサが不安に感じることも無かっただろう。
最初に契約結婚と言ってしまったばかりに…。
後悔に苛まれて意気消沈するクロードを心配したセバスチャンは、隣町に美味しいお茶を出す喫茶店があるらしいと教えた。
行く気はさらさら無かったのだが、セバスチャンに騙し討のように連れて行かれた喫茶店は不運な事に定休日。
せっかく足を運んだのだから、少し街を回って帰ろう。
気晴らしになるかも知れない。
そして、クロードはサマンサを見つけた。
「こんな所で何をしているんだ」
サマンサは何も答えない。
「どれだけ心配させたかわかっているのか?」
クロードに掴まれた腕が痛い。
「何故ですか?契約書には離縁後に接触しないと書かれていたはずです」
自分に言い返してくるサマンサに驚いたクロードだったが、その手は離さない。
「あれは破棄だと言っただろう?」
「私は了承していません。離縁届けも既に提出しました」
「あぁ、あれか。それなら未だに受理されていない」
夜中に離縁届けを受け取った教会は
そこに書かれている名前が公爵家の物だったので
不審に思ってクロードに確認したのだ。
「提出した女性は公爵家の者にしては質素な服を着ていましたし、地味な顔立ちでございました。仲睦まじいお二人がまさかと思い、もしかするとお二人を嫉妬する誰かの悪戯ではと考えた次第にございます」
「あぁ、不愉快な悪戯だな。これは必要ない。捨て置いてくれ」
サマンサはまだクロードの妻なのだ。
(そんな事って…)
驚き固まっているサマンサをクロードはぎこちなく抱き締める。
「私の為に身を引く必要は無い。屋敷に帰って来るんだ。使用人達もサムを待っている」
「私は戻りません!離してください!」
自分から逃げるサマンサを信じられないものを見るような目で睨んだ。
「私を慕っているのではなかったのか?」
「いいえ」
「だが、私はサムを慕っている」
「いえ、勘違いです」
慕っていないと言うどころか自分の気持ちまで否定されたクロードは、顔を真っ赤にさせる。
「何故そう言い切れる?」
「それならお伺いしますが…」
- サマンサのどこが好きなのか?
そんな物は決まっている。
私に寄り添い従ってくれるところだ。
それに、他の令嬢達と違って擦り寄って来ない。
- サマンサの好きな色は?
公爵家の青色と私の瞳と同じヘーゼルブラウンだろう?
いつもその色の服を着ているではないか。
- サマンサが望んでいる事は?
大切にされる事だろう?
世話を放棄した侍女達を叱りつけた。
それからは常に側にいたではないか。
私と過ごす時間も増えただろう?
それ以上に何を求めると言うんだ。
「従順に従う私はもう何処にもいません。それに…、私の好きな色は緑色です。契約通り、離縁の手続きをお願い致します」
「待つんだ!それなら、ローレン家の家族はどうする?帰らないつもりなのか?」
その場を去ろうとするサマンサをクロードが引き止める。
「出戻りの私を受け入れてはくれないでしょうね。もとより戻るつもりもありません」
唖然と立ち尽くすクロードを背に、サマンサは店に向かって歩きだした。
(震えが治まらないわ…)
生まれて初めて目上の者に強く意思を伝えたサマンサの手は、緊張と不安、そして恐怖で震えていた。
それでも、伝えるべき事は伝えられた。
もう会うこともないだろう。
そう思っていたのに、クロードは喫茶店に客として来店してしまった。
それは偶然で、今日こそはと入った喫茶店でサマンサが働いていたのだ。
「ここで働いていたのか」
「えぇ…」
「ブレンドティーを貰おう」
「かしこまりました…」
相手が客なら追い返すことも出来ず、サマンサはお茶を淹れる。
クロードは何か言う事もせずに帰ったのだが、それから頻繁に通うようになった。
何かと用事をつけてサマンサに話しかけるクロード。
常連客と楽しそうに話すサマンサを見て、自分も話せると思ったのだ。
「サム、今日は君にこれを持って来た」
そう言って差し出すのは緑色の宝石。
「サムに言われてようやく気が付いた。私はこれから君をもっと知っていこうと思う。そうすれば、私達の距離も縮まるだろう?」
クロードは来る度に緑色の物をサマンサに贈っていた。
「いただけません。受け取る理由も無いですし、困ります」
「サムが受け取ってくれなければ捨てるしかない」
最初に断わった時にクロードは本当に捨てて帰ったので、サマンサは受け取るしかなかった。
「クロード様、私が他のご令嬢と違うと仰っていましたが、そのようなお方はごまんといます。まだ出会えていないだけです」
「そうだとしても、私はサムが良い」
サマンサが言ってもクロードは聞く耳をもたない。
「クロード様、私が求める物は自由です。誰にも理不尽な命令をされたくないのです」
「自由に過ごせるよう約束しよう。ここで働くことも許そう。だから帰って来るんだ」
そうではない。働きたいが、それが目的ではないのだ。
自分が嫌いな令嬢達と同じ行動をするクロードだったが、自分では気が付かない。
サマンサは、店の入り口の扉が開く度にドキドキして客の顔を確認してしまうようになった。
(どうして放っておいてくれないの…?)
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