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(自由って素晴らしいわ!)
サマンサは宿に泊まり、自由な生活を満喫していた。
好きな時に起きて、好きな時に寝る。
好きな物を食べて、好きな歌を歌って
行きたい所に行って、やりたい事をやる。
あの日、公爵家を出て行った夜、サマンサは孤児院に向かった。
朝早くに起きてきたエマに野宿しているのを見られてしこたま怒られ、抱き締められた。
「心配させないでよ!連絡くらい寄越しなさいよ!」
サマンサは契約結婚だった事をエマに伝える。
エマは今にも屋敷に怒鳴り込みに行きそうな勢いで怒り出した。
「信じられない!女をなんだと思ってるのよ!」
サマンサはエマを宥め、お金があるからやりたい事を見つけたいと語った。
行き先を告げて朝日が昇り切る前に旅立って行くサマンサを見送り、エマは寂しい気持ちになる。
ハリーが尋ねに来ても、クロードが情報を聞きに来ても
エマは絶対に口を割らなかった。
(せっかく自由になったサマンサを、連れ戻してまた縛り付けるの?自分の望むように動いてもらうの?そんなの許すわけないじゃない…)
それに…
サマンサは隠れているわけじゃない。
本気で探せば見つけられる。気概を見せてみろ。
エマはそう思ってハリーにすら伝えなかった。
1ヶ月ほど好きな事だけをしてきたサマンサだったが、そこでやりたい事を見つける事が出来た。
一軒家を借り、鼻歌を歌いながら掃除を始める。
どんな家具を置こう?
カーテンは何色にしよう?
宿の人に聞いた店で家具を買って、配置してもらう。
若草色のソファに、優しい色合いのテーブル。
白いレースのカーテンは自分で取り付けた。
運ばれて行く家具を見ながら、サマンサはワクワしていた。
サマンサがやりたいと思った事。
それは自分の店を持つことだった。
女中の仕事をしようかと迷っていたのだが、疲れ果てたサマンサは一人になりたいと思った。
宿の近くにある喫茶店に入ると、お茶の良い香りに癒やされる。
紅茶を頼んで店内でゆったりと流れる時間を楽しんでいると、店の主人がケーキを持ってくる。
「私は頼んでいないわ。他の方じゃないかしら?」
サマンサがそう伝えると、店の主人は優しく笑った。
「今日はお客さんが少ないからね。サービスだよ」
そう言って他の客にも配っていた。
よく観察してみると…
店の主人は店の客と親しげに話している。
きっと常連客なんだろう。
読書をしたり、客が帰るとテーブルを片付けて
奥に戻るとまた読書をしている。
注文を受けると奥に入って調理をしてから客に持っていき…
楽しそうに働いていた。
店の主人に詳しく話を聞きたくて尋ねてみると、快く色々と教えてくれた。
それから宿とは離れた場所にある物件を探して、戸建ての一軒家茶店を開く事にしたのだ。
準備が終わり、宿を引き払って住居を移動した。
明日からサマンサの喫茶店『リベルタス』が開店する。
自分も、訪れる客も自由気ままに過ごして欲しい。
その願いを込めて、この名前にした。
店で出す料理はスパイスを混ぜ込んだカレーに卵たっぷりのサンドイッチ、そして、ふわふわのパンケーキ。
どれも孤児院の子供達の大好物で、サマンサが自信を持って作れる物だった。
出すのはコーヒーではなくお茶。
紅茶やハーブティー、オリジナルブレンドティーを出す予定だ。
最初は誰も来ない日や一人しか客の来ない日が続いた。
冷やかしで来る客や、食べ物の種類が少ないと怒って帰る客もいた。
それでも、徐々にサマンサの淹れるお茶に癒やされ
静かな店内で時間も忘れて読書をしたり、友達とお喋りしたり…
それぞれが自由気ままに過ごしている客が増えた。
今では仕事の休憩時間に毎回異なるサマンサの淹れるブレンドティーを楽しみに、毎日のように訪れる常連客もいる。
昼食の時間帯は忙しい店内で忙しく働くサマンサだったが、それ以外の時間は刺繍をしたり、クッキーを焼いて客に配ったり、常連客とお喋りしたり…
誰かに従うことのない、自由な時間を過ごしている。
サマンサはローレン伯爵家の家族がどうなったのか知らない。
クロードやナタリー、屋敷の使用人達がどうしているのか考えた事もない。
屋敷を抜け出したあの日
孤児院に行く前に教会に寄って、持っていた離縁届けを提出した。
クロードと契約を交わした際に、二人で1枚ずつ持っていた物だった。
教会が深夜でも受け入れてくれなかったら
念の為にとサマンサが離縁届けを持っていなかったら
今頃どうなっていたかわからない。
一度だけ庭師のフレッドが店に遊びに来てくれた。
サマンサは、時間がある時だけでもいいから自分の代わりに孤児院の様子を見て欲しいと手紙に認めていたのだ。
律儀に孤児院に行ってくれたフレッドに感謝するサマンサだったが、フレッドから嬉しい知らせも届いた。
孤児院の花壇の世話を一緒にするようになり、休日は毎日通っていたらしい。
そこで責任者のサラと意気投合してよく話すようになり、今は交際を始めたと言う。
自分の大好きなサラと世話になったフレッドの嬉しい知らせに、自分の事のように喜ぶサマンサ。
屋敷のことは聞かなかったし、フレッドも何も話さなかった。
「何かあったらいつものように孤児院に手紙を送ってくれ」
フレッドはそう言って、自分の住む街に帰って行く。
エマとは会う頻度が減ってしまったが、手紙のやり取りが増えた。
店の定休日にエマが遊びに来て、二人で色んな話をする。
心から笑っているサマンサを見て、エマは嬉しく思っていた。
サマンサはようやく手にする事が出来た自由を満喫していた。
そんなある日の昼下りの、店内に誰もいない静かな時間。
店の扉が開いて、一人の客が入ってくる。
「やっと見つけた!」
サマンサは宿に泊まり、自由な生活を満喫していた。
好きな時に起きて、好きな時に寝る。
好きな物を食べて、好きな歌を歌って
行きたい所に行って、やりたい事をやる。
あの日、公爵家を出て行った夜、サマンサは孤児院に向かった。
朝早くに起きてきたエマに野宿しているのを見られてしこたま怒られ、抱き締められた。
「心配させないでよ!連絡くらい寄越しなさいよ!」
サマンサは契約結婚だった事をエマに伝える。
エマは今にも屋敷に怒鳴り込みに行きそうな勢いで怒り出した。
「信じられない!女をなんだと思ってるのよ!」
サマンサはエマを宥め、お金があるからやりたい事を見つけたいと語った。
行き先を告げて朝日が昇り切る前に旅立って行くサマンサを見送り、エマは寂しい気持ちになる。
ハリーが尋ねに来ても、クロードが情報を聞きに来ても
エマは絶対に口を割らなかった。
(せっかく自由になったサマンサを、連れ戻してまた縛り付けるの?自分の望むように動いてもらうの?そんなの許すわけないじゃない…)
それに…
サマンサは隠れているわけじゃない。
本気で探せば見つけられる。気概を見せてみろ。
エマはそう思ってハリーにすら伝えなかった。
1ヶ月ほど好きな事だけをしてきたサマンサだったが、そこでやりたい事を見つける事が出来た。
一軒家を借り、鼻歌を歌いながら掃除を始める。
どんな家具を置こう?
カーテンは何色にしよう?
宿の人に聞いた店で家具を買って、配置してもらう。
若草色のソファに、優しい色合いのテーブル。
白いレースのカーテンは自分で取り付けた。
運ばれて行く家具を見ながら、サマンサはワクワしていた。
サマンサがやりたいと思った事。
それは自分の店を持つことだった。
女中の仕事をしようかと迷っていたのだが、疲れ果てたサマンサは一人になりたいと思った。
宿の近くにある喫茶店に入ると、お茶の良い香りに癒やされる。
紅茶を頼んで店内でゆったりと流れる時間を楽しんでいると、店の主人がケーキを持ってくる。
「私は頼んでいないわ。他の方じゃないかしら?」
サマンサがそう伝えると、店の主人は優しく笑った。
「今日はお客さんが少ないからね。サービスだよ」
そう言って他の客にも配っていた。
よく観察してみると…
店の主人は店の客と親しげに話している。
きっと常連客なんだろう。
読書をしたり、客が帰るとテーブルを片付けて
奥に戻るとまた読書をしている。
注文を受けると奥に入って調理をしてから客に持っていき…
楽しそうに働いていた。
店の主人に詳しく話を聞きたくて尋ねてみると、快く色々と教えてくれた。
それから宿とは離れた場所にある物件を探して、戸建ての一軒家茶店を開く事にしたのだ。
準備が終わり、宿を引き払って住居を移動した。
明日からサマンサの喫茶店『リベルタス』が開店する。
自分も、訪れる客も自由気ままに過ごして欲しい。
その願いを込めて、この名前にした。
店で出す料理はスパイスを混ぜ込んだカレーに卵たっぷりのサンドイッチ、そして、ふわふわのパンケーキ。
どれも孤児院の子供達の大好物で、サマンサが自信を持って作れる物だった。
出すのはコーヒーではなくお茶。
紅茶やハーブティー、オリジナルブレンドティーを出す予定だ。
最初は誰も来ない日や一人しか客の来ない日が続いた。
冷やかしで来る客や、食べ物の種類が少ないと怒って帰る客もいた。
それでも、徐々にサマンサの淹れるお茶に癒やされ
静かな店内で時間も忘れて読書をしたり、友達とお喋りしたり…
それぞれが自由気ままに過ごしている客が増えた。
今では仕事の休憩時間に毎回異なるサマンサの淹れるブレンドティーを楽しみに、毎日のように訪れる常連客もいる。
昼食の時間帯は忙しい店内で忙しく働くサマンサだったが、それ以外の時間は刺繍をしたり、クッキーを焼いて客に配ったり、常連客とお喋りしたり…
誰かに従うことのない、自由な時間を過ごしている。
サマンサはローレン伯爵家の家族がどうなったのか知らない。
クロードやナタリー、屋敷の使用人達がどうしているのか考えた事もない。
屋敷を抜け出したあの日
孤児院に行く前に教会に寄って、持っていた離縁届けを提出した。
クロードと契約を交わした際に、二人で1枚ずつ持っていた物だった。
教会が深夜でも受け入れてくれなかったら
念の為にとサマンサが離縁届けを持っていなかったら
今頃どうなっていたかわからない。
一度だけ庭師のフレッドが店に遊びに来てくれた。
サマンサは、時間がある時だけでもいいから自分の代わりに孤児院の様子を見て欲しいと手紙に認めていたのだ。
律儀に孤児院に行ってくれたフレッドに感謝するサマンサだったが、フレッドから嬉しい知らせも届いた。
孤児院の花壇の世話を一緒にするようになり、休日は毎日通っていたらしい。
そこで責任者のサラと意気投合してよく話すようになり、今は交際を始めたと言う。
自分の大好きなサラと世話になったフレッドの嬉しい知らせに、自分の事のように喜ぶサマンサ。
屋敷のことは聞かなかったし、フレッドも何も話さなかった。
「何かあったらいつものように孤児院に手紙を送ってくれ」
フレッドはそう言って、自分の住む街に帰って行く。
エマとは会う頻度が減ってしまったが、手紙のやり取りが増えた。
店の定休日にエマが遊びに来て、二人で色んな話をする。
心から笑っているサマンサを見て、エマは嬉しく思っていた。
サマンサはようやく手にする事が出来た自由を満喫していた。
そんなある日の昼下りの、店内に誰もいない静かな時間。
店の扉が開いて、一人の客が入ってくる。
「やっと見つけた!」
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