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それから1ヶ月
アーノルドが訪れては帰り、
グレイスが現れては消え、
ハロルドが侵入しようとして警邏に締め出され…
元より外出する予定も無かったが外出禁止を言い渡され、夜会にも行かなくて良いと言われたのは嬉しい誤算だった。
「彼らがサムに会ったら何をするかわかったものではない。安全な屋敷にずっと居るように」
クロードはサマンサを心配して言っているのだが、しかめっ面で言われてもサマンサには伝わらない。
侍女達と一緒に居るように言われても、監視されている気持ちになるだけだった。
夜会に一人で行くクロードを見送り、サマンサは久しぶりの一人で食べる夕食に舌鼓を打っていた。
息苦しく思っていたけど、あと1ヶ月で終わる。それからのサマンサは自由に過ごせる。
でも、こんなに美味しい食事は二度と食べられなくなるから…。そう思って全て平らげた。
食事が終わってからサマンサは料理長のテッドの元へ行く。
「美味しかったわ。明日からも楽しみにしているわね」
そう言うと、テッドは目を潤ませて感謝した。
「奥様にそう言って貰えると、料理人冥利に尽きます」
次の日から食事が更に豪華になって、サマンサは笑ってしまう。
(以前の奥様の食事とは段違いね。美味しい食事が食べられて幸せだわ)
翌日の昼には庭園に行って庭師のテッドに話しかけてみた。
「こんにちは。お散歩しても良いかしら?」
「歩くのは構わないが、花には絶対に触るなよ」
「奥様になんていう口の聞き方をするの!」
侍女に怒られようがテッドは変わらない。
「うるせえ!ここの花を触って良いのは俺とサミーっていう女中だけなんだよ!」
「奥様、もう行きましょう。ここの庭師は頑固者なんです」
「お邪魔したわね」
そっぽを向くテッドに苦笑するサマンサ。
「綺麗なお花をありがとう」
そう言うと「あぁ」と小さな返事が返ってくる。
(相変わらず頑固なのね…)
庭園を後にしたサマンサはナタリー達の持ち場に向かった。
「あ、サ…奥様!」
「ちょっと聞きたいことがあるのだけど…」
サマンサは近くにいる女中達に集まってもらう。
「私の持ってきた洋服が何処にあるか知っているかしら?」
女中達は顔を見合わせて首を傾げる。
「私達は知りません…。侍女達にも聞いてみましたか?」
ナタリーに言われて侍女達に尋ねたのだが、侍女にも心当たりは無いようだ。
「どんなお洋服なんですか?私達が探しますよ!」
女中が任せて欲しいと言わんばかりに手を上げて言った。
「茶色や灰色のワンピースなのだけど…」
「わかりました!見つけ次第お届けします」
「そう…。よろしくね」
サミーの為に見つけ出そう!
そう思って探すナタリー達だったが、茶色や灰色のワンピースはありふれた物で…
特に女中達の私服にそういった物も多く…
探し出すことはできなかった。
(少し意地悪な事をしてしまったかしら…?)
部屋に戻るサマンサはそんな事を思っていた。
実は、サマンサは洋服が何処にあるかは知っている。
手元には無いから女中達に尋ねたのだ。
新しく洋服も買ってあるので戻って来なくても良かったのだが、なんとなく聞いてみたかっただけだった。
特にやる事もなく、サマンサは部屋で寛ぐこと毎日を送っていた。
部屋には侍女が待機しているので、本を読んでいるふりをしてやり過ごす。
やる事は無いが、考える時間ならたっぷりとあるサマンサは今までの事を思い返していた。
最初から最後まで良い人だった公爵夫妻。
騙しているのが心苦しかったけど、それも直に終わる。
直後謝罪ができなくてごめんなさいと心の中で謝ろう。
1年と少しの契約結婚。
色んな事があったけど、どれも楽しい思い出。
こうして過去を振り返ってみた。
早く自由になって、孤児院に行きたい。
その後のことはどうしよう?
旅をしてみるのも良いな。
何処かの屋敷で女中として働こうか。
一人暮らしにも憧れる。
お金は毎月銀行に入っているので、心配することはない。
自由になった自分は、一体何をしたいと思うだろう?
サマンサの頭の中では、既にカウントダウンが始まっていた。
これからのことを考えるのが楽しくて、サマンサは自然と笑顔になっている。
楽しそうに屋敷内を歩くサマンサを見かけた使用人達もみんなつられて笑顔になった。
クロードが家族からサマンサを護っている。
サマンサは大事にされている。
クロードの不器用な…拗れた初恋がサマンサに届いたんだ。
優しいサマンサが気持ちを汲み取ってくれたんだ。
だから嬉しそうに笑っているんだ。
屋敷の使用人達も、クロード自身も、そう思っていた。
一方その頃…
連絡の途絶えたサマンサを孤児院に居るエマは心配していた。
様子を見に行きたいけど、平民の自分が公爵家に行ってはサマンサに迷惑がかかる。
知らせがないのは元気な証拠だと良いけど…。
来ないサマンサを待ちながら、子供達の世話をするエマは玄関を何度も振り返って見ていた。
ハリーも商会の伝手でなんとか公爵家に接触できないかと試みたのだが、小さな商会では門前払い。
サマンサの知らせを今か今かと待ち続けて、孤児院に通っていた。
アーノルドが訪れては帰り、
グレイスが現れては消え、
ハロルドが侵入しようとして警邏に締め出され…
元より外出する予定も無かったが外出禁止を言い渡され、夜会にも行かなくて良いと言われたのは嬉しい誤算だった。
「彼らがサムに会ったら何をするかわかったものではない。安全な屋敷にずっと居るように」
クロードはサマンサを心配して言っているのだが、しかめっ面で言われてもサマンサには伝わらない。
侍女達と一緒に居るように言われても、監視されている気持ちになるだけだった。
夜会に一人で行くクロードを見送り、サマンサは久しぶりの一人で食べる夕食に舌鼓を打っていた。
息苦しく思っていたけど、あと1ヶ月で終わる。それからのサマンサは自由に過ごせる。
でも、こんなに美味しい食事は二度と食べられなくなるから…。そう思って全て平らげた。
食事が終わってからサマンサは料理長のテッドの元へ行く。
「美味しかったわ。明日からも楽しみにしているわね」
そう言うと、テッドは目を潤ませて感謝した。
「奥様にそう言って貰えると、料理人冥利に尽きます」
次の日から食事が更に豪華になって、サマンサは笑ってしまう。
(以前の奥様の食事とは段違いね。美味しい食事が食べられて幸せだわ)
翌日の昼には庭園に行って庭師のテッドに話しかけてみた。
「こんにちは。お散歩しても良いかしら?」
「歩くのは構わないが、花には絶対に触るなよ」
「奥様になんていう口の聞き方をするの!」
侍女に怒られようがテッドは変わらない。
「うるせえ!ここの花を触って良いのは俺とサミーっていう女中だけなんだよ!」
「奥様、もう行きましょう。ここの庭師は頑固者なんです」
「お邪魔したわね」
そっぽを向くテッドに苦笑するサマンサ。
「綺麗なお花をありがとう」
そう言うと「あぁ」と小さな返事が返ってくる。
(相変わらず頑固なのね…)
庭園を後にしたサマンサはナタリー達の持ち場に向かった。
「あ、サ…奥様!」
「ちょっと聞きたいことがあるのだけど…」
サマンサは近くにいる女中達に集まってもらう。
「私の持ってきた洋服が何処にあるか知っているかしら?」
女中達は顔を見合わせて首を傾げる。
「私達は知りません…。侍女達にも聞いてみましたか?」
ナタリーに言われて侍女達に尋ねたのだが、侍女にも心当たりは無いようだ。
「どんなお洋服なんですか?私達が探しますよ!」
女中が任せて欲しいと言わんばかりに手を上げて言った。
「茶色や灰色のワンピースなのだけど…」
「わかりました!見つけ次第お届けします」
「そう…。よろしくね」
サミーの為に見つけ出そう!
そう思って探すナタリー達だったが、茶色や灰色のワンピースはありふれた物で…
特に女中達の私服にそういった物も多く…
探し出すことはできなかった。
(少し意地悪な事をしてしまったかしら…?)
部屋に戻るサマンサはそんな事を思っていた。
実は、サマンサは洋服が何処にあるかは知っている。
手元には無いから女中達に尋ねたのだ。
新しく洋服も買ってあるので戻って来なくても良かったのだが、なんとなく聞いてみたかっただけだった。
特にやる事もなく、サマンサは部屋で寛ぐこと毎日を送っていた。
部屋には侍女が待機しているので、本を読んでいるふりをしてやり過ごす。
やる事は無いが、考える時間ならたっぷりとあるサマンサは今までの事を思い返していた。
最初から最後まで良い人だった公爵夫妻。
騙しているのが心苦しかったけど、それも直に終わる。
直後謝罪ができなくてごめんなさいと心の中で謝ろう。
1年と少しの契約結婚。
色んな事があったけど、どれも楽しい思い出。
こうして過去を振り返ってみた。
早く自由になって、孤児院に行きたい。
その後のことはどうしよう?
旅をしてみるのも良いな。
何処かの屋敷で女中として働こうか。
一人暮らしにも憧れる。
お金は毎月銀行に入っているので、心配することはない。
自由になった自分は、一体何をしたいと思うだろう?
サマンサの頭の中では、既にカウントダウンが始まっていた。
これからのことを考えるのが楽しくて、サマンサは自然と笑顔になっている。
楽しそうに屋敷内を歩くサマンサを見かけた使用人達もみんなつられて笑顔になった。
クロードが家族からサマンサを護っている。
サマンサは大事にされている。
クロードの不器用な…拗れた初恋がサマンサに届いたんだ。
優しいサマンサが気持ちを汲み取ってくれたんだ。
だから嬉しそうに笑っているんだ。
屋敷の使用人達も、クロード自身も、そう思っていた。
一方その頃…
連絡の途絶えたサマンサを孤児院に居るエマは心配していた。
様子を見に行きたいけど、平民の自分が公爵家に行ってはサマンサに迷惑がかかる。
知らせがないのは元気な証拠だと良いけど…。
来ないサマンサを待ちながら、子供達の世話をするエマは玄関を何度も振り返って見ていた。
ハリーも商会の伝手でなんとか公爵家に接触できないかと試みたのだが、小さな商会では門前払い。
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