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XVII

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「何も不自由は無いか?」

窓から外を眺めるサマンサにクロードが話しかける。

「えぇ、自由に過ごしています」

「使用人の……使用人達とは上手くやっているか?」

仕事は楽しいかと聞きたかったクロードだったが、女中達との約束を思い出して止めた。

「えぇ、ナタリー達や女中達に世話をしてもらっています」

サマンサは笑顔で答える。


「侍女達はどうしているんだ?」

クロードの質問攻めは止まらない。

「私にはわかりかねますわ…」

「何故だ…?」

「私はお飾りの妻ですから…」


そうこうしているうちに夜会会場に着き
クロードとサマンサは腕を組んで会場に入っていった。

並んで歩く二人は、何処からどう見ても仲の良い夫婦。
挨拶にくる貴族達に笑顔を返し、サマンサは立派に妻を演じた。
夜会が嫌いなクロードの滞在時間はいつも短い。
ダンスはもちろん一度だけ。挨拶が終わればすぐに帰宅する。



帰りの馬車では終始無言だった。

クロードは会場にいた時からずっと考えている。

『お飾りの妻』とはどういう意味だ?
最初に「雇う」と言ったからだろうか…

屋敷に着くと、クロードはそのまま考えながら歩き出した。
サマンサも後ろから後を追って部屋に戻る。
毎度の事ながら、エスコートも挨拶もなかった。


(それにしても、侍女が仕事をしていないとはどういう了見だ?)

クロードはセバスチャンと侍女達を呼び出した。

「おまえ達はサムの世話を放棄しているようだな。これは一体どういうことだ?サムは私の妻で、次期公爵夫人だぞ」

氷のように冷たい表情で静かに怒るクロードに、セバスチャン達は震え上がる。

「己の立場をわきまえるんだ。明日からは職務を全うするように…。もう行って良い」

部屋を出たセバスチャン達は不思議でならない。


今まで何も言ってこなかったのに
『あれ』と呼んで視界にも入れなかったのに
つい今しがただって、エスコートもせずに一人で帰って来たではないか…


「もしかして、女中達の噂は本当だったのかしら…」

「初恋を拗らせて、好きなのに冷たく当たってるっていう?」

「もしそうなら、私達は大変な事をしてしまったという事よね…?」

噂話など耳にしないセバスチャンは驚いたが、ドレスを慎重に選び、自分で手渡しに行ったクロードを思い出して納得がいった。

「誠心誠意謝罪をして、お許しいただこう」



翌朝、目を覚ましたサマンサの部屋に扉を叩く音が聞こえた。

「少し待っていてくれるかしら?」

急いで化粧をして、サマンサは扉を開ける。

「申し訳ございません!」

そう言って頭を限界まで下げるのは、セバスチャンと3人の侍女達。

「クロード様の大切な奥様だというのに、職務を放棄した私達をお許しください!」

「気にしていないから大丈夫よ。だから……」

サマンサの言葉に、下げた頭を勢い良く上げるセバスチャン達。

「奥様!」

「なんてお優しいの!」

「すぐにお召し替えの手伝いをさせていただきます!」

あれよあれよという間に部屋に戻され、着替えと化粧を直されてしまうサマンサ。

(今まで通りで良いって言いたかったんですけどね…)


これも妻の仕事か…。
されるがままに着飾り、侍女の持って来た食事を部屋で取る。

「朝食はどちらでお召し上がりになりますか?食堂にしますか?」

「部屋で一人で頂くわ…」

食堂に行ったが最後
クロードと共に食べる事になり、契約違反だと言われてしまうだろう。


その時、誰かが扉をノックする。

侍女が確認するとナタリーだったようで、サマンサは声を聞いてわかった。

「なんであなた達がいるのよ。奥様のお世話は私達が代わるって言ったでしょう?」

朝食の時間になっても休憩室に来ないサマンサを呼びに来たら、中から侍女が出てきて驚いた。

「私達はクロード様から直後お世話をするように言われているのよ」

「そうよ。私達の方が奥様に快適に過ごしていただけるわ」

「何を勝手なこと言っているのよ!」

言い返したナタリーだったが、ふと気が付いた。


クロードから言われたという事は、大切に扱われるという事だろう。
女中として側にいるよりも、奥様として側にいた方が良いに決まっている。

「奥様をよろしくお願いします」

ナタリーは頭を下げてから、その場を後にした。



休憩室で待つ女中達に、ナタリーは早速この話を伝える。

「クロード様もようやく素直になれたのね?」

「そうよ。サミーは奥様として側にいれるのよ」

「サミーの努力が報われたのね!」

一緒に働けないのは残念だが、応援する二人の為なら致し方ない。

「これからは奥様って呼ばなくてはいけないわよ?」

「間違ってもサミーと呼ばないようにしましょう」

水の入ったグラスを掲げ、乾杯するナタリー達だった。



その日から、侍女達は何処に行くにも後を付いて歩くようになった。

孤児院に行こうとすれば…

「私共もついて参ります」

散歩に行こうとすれば…

「一人で外出はなさいませんように」

それならばと、屋敷の書庫に行こうとすると…

「言ってくだされば私がお部屋にお持ちいたします」


(まるで監視されているみたいね…。もっと自由に過ごしたいわ。四六時中『奥様』を求められてしまうのは大変なのよ…)

孤児院に行ってエマに会うことも出来ず、肩が凝る生活を強いられてしまったサマンサ。
自由に過ごすという漠然としたものではなく、細かく内容を確認するべきだったと後悔した。


そして、契約期間も残り4ヶ月を切った。
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