17 / 27
XVI
しおりを挟む
サマンサは疲れていた。
休日にエマ達と過ごしていい気分転換になったのに、夕方にクロードに呼び出された。
孤児院に行きたいと言うクロードをなんとか説得し、夕食も食べずに夜は寝てしまった。
それからというもの
クロードはサマンサの前に現れるようになり、仕事の邪魔をする。
掃除をしていると話しかけ
お茶を持って行くと話しかけ
庭園でフレッドと花の世話をしていると「男と二人でいるな!」と怒鳴る。
ナタリーや女中達はサマンサとクロードを二人きりにしようと模索して、色々とやり過ぎだ。
契約結婚のことは誰にも言えない。
説明しようにも、上手い言い訳は思い付かなった。
違うと言いたくても言える状況じゃなくて…
何でも受け入れていたサマンサだったが、流石に疲れてしまう。
(もっと自由に過ごしたいわ。少し前までが懐かしい…)
クロードに正体が気付かれているとも知らずに、サマンサは今日も執務室までお茶を持って行く。
「そういえば今度夜会があるんだったな」
クロードは誰に向けて言ったのか、いきなり話し始めた。
「夜会のドレスは何色が好ましい?流行りの物が良いか?それとも私の色を使った物が良いだろうか?」
「いつものように商人に任せれば良いのでは?優れた品を持って来るでしょうし…」
セバスチャンが答えると、クロードは首を横に振り、顎でサマンサを指す。
セバスチャンは何事かとクロードを凝視した。
もう一度クロードがサマンサを顎で指した。
お茶を淹れているサマンサは何も見えていない。
「最近の女性は何を好むのだろうか?あぁ、サミー。丁度良いところに居るな。君は何色が好きなんだ?」
突然話を振られたサマンサは手を止め、天井を仰ぎ見る。
そして、ひと呼吸置いた。
「殿方の選んだ物なら何でも喜ぶ物だと、母はよく言っておりました」
淹れたお茶を机に置き、すぐさま退室する。
何を考えているかわからないクロードに無理難題を言われても、応えられる自信がなかった。
それに、なんとなくだが、嫌な予感がした。
(私に選んで欲しいのか。女中達の言う通り、健気な女だな)
クロードの勘違いも止まらない。
商人を呼び寄せ、初めて真剣にドレスを選んだ。
流行りの色も良いが、自分の色の方が喜ぶだろう。
何がなんだかわからないセバスチャンは、張り切るクロードを見て唖然としていた。
(奥様をあれと呼ばなくなったのはいつからだ…?)
急な展開に頭が追いつかない。
そして、ドレスが屋敷に届いた翌日
「サミー、またドレスを奥様に届けてくれるね?」
セバスチャンはいつものようにサマンサに頼んだのだが、そこに待ったがかかった。
「いや、夜に私が届けよう。サミー、サムに部屋で待っているように伝えてくれ」
「かしこまりました…」
何故サムと呼ぶのか。
何故ドレスを自分で持って行くのか。
サマンサはわけがわからない。
(干渉って何処までが干渉なのかしら…。確認しておけばよかったわ)
結局午後の仕事も中途半端に、ナタリー達に頼んで化粧をしてもらい、オリビアの買った服を着て部屋で待機していた。
コンコン
ノックの後すぐに扉が開く。
「やぁ、サム。これを着て夜会に参加するように。私が選んだんだ」
「かしこまりました」
サマンサがドレスを受け取って扉を閉めようとすると、クロードが止める。
「今日はお茶を淹れてくれないのか?」
それは契約違反にあたる。サマンサは了承できなかった。
「お互いに干渉しないお約束ですので…」
「ドレスは気に入ったか?」
「まだ見ていませんが、きっと素敵なドレスでしょうね」
クロードを締め出して、サマンサはベッドに寝転ぶ。
(はしたないって怒られてしまうかしら?今日くらい許してくれるわよね…)
サマンサは心の中で誰かに謝り、そのまま眠りについた。
顔を洗う気力も、着替える体力も、既に尽きていた。
翌日から気を引き締めて女中仕事に取り組むサマンサの目の前に、早速クロードが現れる。
「ドレスは気に入ったか?」
「夜会には公爵家の者として恥じないように参加すると仰っていました…」
「そうか」
クロードは満足したのか、執務室に戻って行った。
そして迎えた夜会当日
「今日のドレスもクロード様のお色だわ!」
ナタリー達が騒いでいるが、サマンサは聞き流して微笑んだ。
手を動かしながら口も動かす女中達の話は加速する。
「クロード様の拗らせ具合は見ていて可笑しいわよね」
「そうよね。用もないのにサミーの前に現れるんですもの」
「知っているのに知らないふりをする姿がいじらしいわ」
聞き流してはいけない言葉が聞こえた。
「何を知っているの…?」
「あ…」
女中達はばつの悪い顔をして謝り倒す。
「ごめんなさい。わざとじゃないのよ?」
「そうなの。偶然聞かれてしまったのよ」
「あの冷たい表情で睨まれたら仕方がないじゃない」
契約違反になりかねない事をしているサマンサにとっては、ごめんじゃ済まされない。
「でも、そのお陰でクロード様との接点も増えたじゃない」
「そうよ。私達は二人を応援しているのよ?」
「感謝しても罰は当たらないわよ」
サマンサはそっと目を閉じた。
「そう…。仕方がないわね」
微笑むサマンサを見た女中達は誇らしげ。
「美しい仕上げるから期待してね。クロード様も惚れ直すわ」
気合を入れて化粧をした。
「頑張ってね」
ナタリー達に見送られ、サマンサは馬車に乗り込む。
(私はお飾りの妻。何かを言われない限り、最後まで立派に務めましょう)
中に入ると、既にクロードが座って待っていた。
「良く似合っているよ」
「ありがとうございます…」
そして馬車は会場に向けて出発する。
休日にエマ達と過ごしていい気分転換になったのに、夕方にクロードに呼び出された。
孤児院に行きたいと言うクロードをなんとか説得し、夕食も食べずに夜は寝てしまった。
それからというもの
クロードはサマンサの前に現れるようになり、仕事の邪魔をする。
掃除をしていると話しかけ
お茶を持って行くと話しかけ
庭園でフレッドと花の世話をしていると「男と二人でいるな!」と怒鳴る。
ナタリーや女中達はサマンサとクロードを二人きりにしようと模索して、色々とやり過ぎだ。
契約結婚のことは誰にも言えない。
説明しようにも、上手い言い訳は思い付かなった。
違うと言いたくても言える状況じゃなくて…
何でも受け入れていたサマンサだったが、流石に疲れてしまう。
(もっと自由に過ごしたいわ。少し前までが懐かしい…)
クロードに正体が気付かれているとも知らずに、サマンサは今日も執務室までお茶を持って行く。
「そういえば今度夜会があるんだったな」
クロードは誰に向けて言ったのか、いきなり話し始めた。
「夜会のドレスは何色が好ましい?流行りの物が良いか?それとも私の色を使った物が良いだろうか?」
「いつものように商人に任せれば良いのでは?優れた品を持って来るでしょうし…」
セバスチャンが答えると、クロードは首を横に振り、顎でサマンサを指す。
セバスチャンは何事かとクロードを凝視した。
もう一度クロードがサマンサを顎で指した。
お茶を淹れているサマンサは何も見えていない。
「最近の女性は何を好むのだろうか?あぁ、サミー。丁度良いところに居るな。君は何色が好きなんだ?」
突然話を振られたサマンサは手を止め、天井を仰ぎ見る。
そして、ひと呼吸置いた。
「殿方の選んだ物なら何でも喜ぶ物だと、母はよく言っておりました」
淹れたお茶を机に置き、すぐさま退室する。
何を考えているかわからないクロードに無理難題を言われても、応えられる自信がなかった。
それに、なんとなくだが、嫌な予感がした。
(私に選んで欲しいのか。女中達の言う通り、健気な女だな)
クロードの勘違いも止まらない。
商人を呼び寄せ、初めて真剣にドレスを選んだ。
流行りの色も良いが、自分の色の方が喜ぶだろう。
何がなんだかわからないセバスチャンは、張り切るクロードを見て唖然としていた。
(奥様をあれと呼ばなくなったのはいつからだ…?)
急な展開に頭が追いつかない。
そして、ドレスが屋敷に届いた翌日
「サミー、またドレスを奥様に届けてくれるね?」
セバスチャンはいつものようにサマンサに頼んだのだが、そこに待ったがかかった。
「いや、夜に私が届けよう。サミー、サムに部屋で待っているように伝えてくれ」
「かしこまりました…」
何故サムと呼ぶのか。
何故ドレスを自分で持って行くのか。
サマンサはわけがわからない。
(干渉って何処までが干渉なのかしら…。確認しておけばよかったわ)
結局午後の仕事も中途半端に、ナタリー達に頼んで化粧をしてもらい、オリビアの買った服を着て部屋で待機していた。
コンコン
ノックの後すぐに扉が開く。
「やぁ、サム。これを着て夜会に参加するように。私が選んだんだ」
「かしこまりました」
サマンサがドレスを受け取って扉を閉めようとすると、クロードが止める。
「今日はお茶を淹れてくれないのか?」
それは契約違反にあたる。サマンサは了承できなかった。
「お互いに干渉しないお約束ですので…」
「ドレスは気に入ったか?」
「まだ見ていませんが、きっと素敵なドレスでしょうね」
クロードを締め出して、サマンサはベッドに寝転ぶ。
(はしたないって怒られてしまうかしら?今日くらい許してくれるわよね…)
サマンサは心の中で誰かに謝り、そのまま眠りについた。
顔を洗う気力も、着替える体力も、既に尽きていた。
翌日から気を引き締めて女中仕事に取り組むサマンサの目の前に、早速クロードが現れる。
「ドレスは気に入ったか?」
「夜会には公爵家の者として恥じないように参加すると仰っていました…」
「そうか」
クロードは満足したのか、執務室に戻って行った。
そして迎えた夜会当日
「今日のドレスもクロード様のお色だわ!」
ナタリー達が騒いでいるが、サマンサは聞き流して微笑んだ。
手を動かしながら口も動かす女中達の話は加速する。
「クロード様の拗らせ具合は見ていて可笑しいわよね」
「そうよね。用もないのにサミーの前に現れるんですもの」
「知っているのに知らないふりをする姿がいじらしいわ」
聞き流してはいけない言葉が聞こえた。
「何を知っているの…?」
「あ…」
女中達はばつの悪い顔をして謝り倒す。
「ごめんなさい。わざとじゃないのよ?」
「そうなの。偶然聞かれてしまったのよ」
「あの冷たい表情で睨まれたら仕方がないじゃない」
契約違反になりかねない事をしているサマンサにとっては、ごめんじゃ済まされない。
「でも、そのお陰でクロード様との接点も増えたじゃない」
「そうよ。私達は二人を応援しているのよ?」
「感謝しても罰は当たらないわよ」
サマンサはそっと目を閉じた。
「そう…。仕方がないわね」
微笑むサマンサを見た女中達は誇らしげ。
「美しい仕上げるから期待してね。クロード様も惚れ直すわ」
気合を入れて化粧をした。
「頑張ってね」
ナタリー達に見送られ、サマンサは馬車に乗り込む。
(私はお飾りの妻。何かを言われない限り、最後まで立派に務めましょう)
中に入ると、既にクロードが座って待っていた。
「良く似合っているよ」
「ありがとうございます…」
そして馬車は会場に向けて出発する。
38
お気に入りに追加
3,438
あなたにおすすめの小説
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話
彩伊
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。
しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。
彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。
............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。
送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
一日一話
14話完結
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる