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一方その頃、応接室で話すクロード達は…

「サマンサは良くやっているようだね。屋敷のあちこちに花が飾られているし、使用人達も楽しそうに仕事をしているみたいだ。感心したよ」

スコットは嬉しそうに笑っていた。

女中のサミーのお陰だと思ったクロードだったが、何も言わずに頷く。

「で?いつからなんだい?」

クロードはスコットに何を聞かれているのかわからない。

「いつからサマンサを好いていたのかって聞いているんだよ。彼女について調べていた事は知っているんだよ?まぁ、おかしな噂があるのも聞いているが、あの子はそんな令嬢じゃ無いだろう?」

スコットは自分の息子から恋の話が聞けると、逸る気持ちを抑えられない。

「彼女の存在を知ったのは夜会で……」

噂話を聞いただけ。

「そうかそうか!夜会で見初めたんだね!サマンサはお前のことを好いているのかい?」

クロードが話し終える前に、スコットは前のめりになった。

「いえ、わかりません」

「情けない息子だ…」と、スコットは椅子に座り直した。



そしてその日の夕食の時間

4人で話しながら夕食を食べていると、オリビアが唐突に尋ねた。

「そう言えばクロードはサマンサのことをなんて呼んでるの?仲のいい二人だから、愛称よね?」

サマンサはクロードが口を開く前に慌てて答える。

「サムと呼んで頂いてますわ」

サミーと言われては困ると思って、咄嗟に思い付いたのがサムだった。

「サムだと男性の名前じゃないか」と、スコットは不思議に思ったのだが、オリビアは嬉しそうに笑っていた。

「クロードだけが呼べる愛称なのね?特別って感じがして素敵だわ」

「おぉ!そういう事か!なんだ、クロードもやるじゃないか!」

夫妻は大喜び。

二人には見えないようにクロードに睨まれて、サマンサは縮こまる。


「これなら孫を抱ける日も近いかしら?」

「そうだね。それならすぐにでもクロードに家督を譲った方が良いね」

孫は見せられないが、家督は欲しい。
勝手にサムと呼んでいると言われて不快に思ったが、それで貰えるならと、受け入れることにした。

「えぇ、サムはこの通り素敵な女性ですからね。是非私に公爵家を任せてください」

「明日1日様子を見るよ」とスコットに言われて
夫妻が話してサマンサが相槌を打って、クロードが聞き流すという、初めての食事会が終わった。



その日の夜

久しぶりに気を使う1日だったとベッドに腰掛けると、乱暴に扉が開いてクロードが入ってきた。
唖然とするサマンサを他所に、ズカズカと歩いて椅子を部屋の隅に移動させて座る。

「勘違いしないでくれ。父上達の目があるから、暫く経ったらすぐに出る」

気不味い沈黙に耐えられず、サマンサがお茶を入れた。

「どうぞ。自分で飲もうと思って用意していたのです。何もしないでいるよりは良いでしょう?」

クロードはサマンサが何かを入変な物れるわけがないと一口飲み「美味いな」と呟いた。

仲睦まじい姿を両親に見せるためとはいえ
仕事をしないで興味のないサマンサと一緒にいる時間が苦痛で、胃がキリキリと痛かったのだ。

サマンサの入れたハーブティーの香りが心を落ち着かせ、一日の疲れが取れるようだった。


サマンサは自分にもハーブティーを入れて心を落ち着かせていた。

(お化粧を落とす前で良かったわ。クロード様は興味がないから顔も覚えていないでしょうけど、万が一私がサミーだと気付かれてしまっては、何を言われていたか…)

無言のまま時間が過ぎ「美味かった。夕食の時の事も感謝する」と言葉を残して、クロードは部屋を出る。

ようやく化粧を落として寝られると、サマンサは安堵した。



翌日、サマンサはクロードと公爵夫妻の4人で出掛けていた。

オリビアがサマンサに普段着を買いたいと言って、4人が向かったのはお抱えの店。

「これが良いわ。このも良いわよね。クロードはどれが似合うと思う?」

オリビアは上機嫌にあれもこれもとサマンサにドレスを当て、クロードに尋ねる。

どれも同じだろうと言いたいクロードは、言ったが最後、オリビアには泣かれてスコットには家督を譲ってもらえないと考えて、適当に一番右のドレスを指差した。

「まぁまぁまぁ!これを選ぶのね?これにしましょう!このドレスに合わせて靴を見繕ってくれるかしら?それから、今日はこれを着て帰るわ!」

オリビアがそう言うと、サマンサは奥に連れて行かれてドレス着せられ、そのままサイズ直しをして、あっという間に仕上がった。

着替えたサマンサを見て嬉しそうに頷き「次はお化粧ね」と、4人は別の店に向かう。

サマンサだけが奥に連れて行かれ、残った3人は店内を物色していた。

「普段に使えるサマンサの髪飾りを買いましょう!クロードはどれが良いと思うかしら?」

クロードはまたしても適当に目の前にある髪飾りを選ぶ。

「やっぱりそうよね!これを頂くわ。奥に持って行ってサマンサに付けるように言ってくれるかしら?」

オリビアはとても楽しそうだ。


綺麗に化粧をされて、髪の毛を結って貰ったサマンサ。
恥ずかしそうに出て来て、オリビアを更に喜ばせる。

「素敵だわ。少し派手なお化粧の方が似合うと思ったのよ。さぁ、これからみんなでお出かけしましょうね」

サマンサもクロードもこれで終わりだと思っていたのに、ここからがお出かけだったのか…と、既に疲れているのを隠して笑顔を貼り付けた。


4人で外食して、その後は公園に行って
「後はお若いお二人で」と言われてサマンサとクロードは取り残されてしまう。

「とりあえず歩こう。母上が隠れて覗いている」

クロードに言われてサマンサは一歩後ろを歩く。

「見られていると言っただろう。役目を果たしてくれ」と、クロードは腕を差し出した。

そっと腕に手を添えて、二人は並んで歩き出したのだが、会話は一切無かった。


暫く歩くとクロードが「屋敷で不自由は無いか?」と聞いた。

「えぇ、自由に過ごさせて頂いています」

「そうか。父上は今日にでも私に家督を譲ると言ってくれるだろう。手続きに時間は然程掛からない。それから一年経ったら君は出ていくんだ。準備をしておくように」

「承知しております。私はお飾りの妻ですから」


笑顔で話す二人は、遠くから見れば楽しそうに話しているようにしか見えない。

こっそりと後を付けていたスコットとオリビアは

「心配していたけど、大丈夫だったみたいね」

「あぁ、あのクロードがあそこまでサマンサを好いているとは…。我が息子ながら、変われば変わるものだな」

と、嬉しそうに話していたのだった。


クロードが適当に選んだ物とは偶然にも
公爵家を象徴する青いドレスと
クロードの瞳の色とサマンサの瞳の色の2色の宝石が並んだ髪飾り

偶然が重なり、意図せず両親を安心させたクロードに
スコットは自分の屋敷に帰る前に「公爵家を任せる」と告げたのだった。
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