16 / 22
16
しおりを挟む
呪いとは一体何だろう…?
考えていたクロエは部屋に呪いと書かれている本があることを思い出す。
( 上の段にある本は呪いや怖い話が多かったわよね… )
しかし、いくら探しても呪いの本は無かった。
「どうして…?あんなにいっぱいあったというのに…」
「どうかなさいましたか?」
丁度いいところに来たアビゲイルに聞いてもわからなかった。
「客室にそのような不気味な本は置きませんよ」
だが、クロエは確かに見た。ここに絶対あった。
あの時薄気味悪く思って表紙しか見なかった事が悔やまれる。
( もしかしてこれも呪いだというの…? )
クロエは綺麗になった家具を見て考えた。
塗装が剥げたと思った家具。汚れていたと思った本の背表紙。黒かった食事。暗い表情だった使用人達。
黒いと思っていたものがそうではなくて、変わった事に誰も気が付かなかった。呪い以外に何があるというのか。
綺麗になるようにと願えって拭けばオルフェウスの顔も綺麗になるかもしれない。
クロエは急いでオルフェウスのいる執務室に向かい、濡れた布でオルフェウスの顔を拭いてみる。
( 綺麗になりますように。呪いが解けますように )
いくら拭いてもオルフェウスの顔は変わらない。
「気は済んだか…?」
それよりもオルフェウスを怒らせてしまったようだ。
( 私にはなんの力も無いのね… )
落ち込むクロエだったが、翌朝にオルフェウスの顔をみて歓喜する。
( 目の位置が左右対称になっているわ! )
母の言う通り、強く願えば言葉に力が宿るのだ。
オルフェウスの顔を毎日拭き、最初は不機嫌になっていたオルフェウスだったが今ではクロエの好きにさせている。
一生懸命なクロエの顔を間近に見て、満更でもなかった。
少しずつ顔の形が変わっているのだが、今まで同様に誰も気が付かない。
肝心のオルフェウスは鏡も見ないし自分の顔を触ることもしなくなったので、この変化を知っているのはクロエだけ。
それに、肌は爛れたままだった。
喜ぶクロエだったが、誰も変化に気が付かないということは呪いがまだ働いているという証拠。
まだ解決はしていない。
「楽しいのか?」
ある日、オルフェウスは自分の顔を拭くクロエに尋ねた。
「楽しい、のかもしれませんね」
「こんな顔を見ても気持ち悪いだけだろう…」
今にも泣き出しそうな、辛く悲しい顔をするオルフェウスを見てクロエは心が傷んだ。
「オルフェウス様、もし呪いが解けたら…。その時は私を娶ってくださいますか?」
「何を言っているんだ!これは決して解けない呪いなんだぞ!」
突然のクロエの告白にオルフェウスは驚き固まったが、すぐに立ち上がって後ずさる。
クロエはそっと立ち上がってゆっくりと近付いて震えるオルフェウスの手を両手で包み込み、その手をオルフェウスの顔に持っていく。
「これは…!」
薄っすらとだが、鼻の出っ張りを感じられた。
「そんな…。まさか…?」
驚愕するオルフェウスにクロエは優しく微笑む。
「呪いは必ず解けると言いましたでしょう?」
何度も顔を触って確かめるオルフェウスだったが、肌は未だに爛れたまま。零れ落ちそうな頬の皮を触って浮上した気持ちが沈んだ。
「良くなっているように思えるが呪いはまだ解けていない。たとえこの肌が治ろうとも、短命の呪いが解けるとは限らないだろう。それに、もし醜いままの顔だったらどうする?それでも私と添い遂げたいと思うはずがない…」
「オルフェウス様のお顔がどんなものでも構いません。私は優しいあなたをお慕いしているのです。呪いは私が必ず解いてみせるので、私を信じていただけませんか?」
「だが…」
俯いて自分と目を合わせてくれないオルフェウスにクロエは遠慮がちに尋ねる。
「私のことはお嫌いでしょうか…?」
「そ、そんな事はない!私だって…!」
強く否定するオルフェウスは勢いのままクロエに近付いた。
泣かせたかもしれないとクロエの顔を覗き込む。
目が合って、泣いていないと安堵した時にはもう遅かった。
クロエの顔がすぐ目の前にあると気付いた時には唇に柔らかい感触。
「本当は今すぐにでも嫁ぎたいのです」
耳元でそう囁やき、顔を真っ赤にしたクロエは走り去っていく。
まさかクロエが醜い自分のことを…?
オルフェウスは暫くその場から動けなかった。
執務室に戻ったオルフェウスはぼんやりと何処かを眺めていた。
「トーマス…」
「はい、どうなさいましたか?」
「私は優しい人間か?」
「えぇ、オルフェウス様はとても優しくて立派な主人でございます。使用人達も皆感謝しておりますよ」
「そうか…」
何故いきなりそんなことを聞くのかとトーマスは首を傾げるが、オルフェウスはそれ以上何も話さないので仕事に集中した。
「トーマス…」
十分ほど経っただろうか。オルフェウスが再びトーマスに呼びかける。
「はい、何でしょうか?」
「私の顔は醜く爛れているだろう?」
「それは…」
肯定も否定もできないトーマスだったが、オルフェウスは気にした素振りも見せずに何処かを嬉しそうに見つめている。
「こんな顔でも良いそうだ」
トーマスはクロエのことだと察し、顔が蕩けそうなほど綻んだ。
「そうですか、喜ばしいことですね」
「呪いは必ず解けると…。信じてくれと言われたんだ」
口づけを思い出したのだろう。オルフェウスは自分の唇を撫でていた。
「そうですか…」
トーマスの目には涙が溢れ、オルフェウスに背を向けて涙をハンカチで拭う。
「私にできることは何だろうか…?」
「クロエ様を大事になさってください」
全てを諦めて生きてきたオルフェウスが未来に向かって動き出そうとしている姿を見て、トーマスの涙は止まらなかった。
考えていたクロエは部屋に呪いと書かれている本があることを思い出す。
( 上の段にある本は呪いや怖い話が多かったわよね… )
しかし、いくら探しても呪いの本は無かった。
「どうして…?あんなにいっぱいあったというのに…」
「どうかなさいましたか?」
丁度いいところに来たアビゲイルに聞いてもわからなかった。
「客室にそのような不気味な本は置きませんよ」
だが、クロエは確かに見た。ここに絶対あった。
あの時薄気味悪く思って表紙しか見なかった事が悔やまれる。
( もしかしてこれも呪いだというの…? )
クロエは綺麗になった家具を見て考えた。
塗装が剥げたと思った家具。汚れていたと思った本の背表紙。黒かった食事。暗い表情だった使用人達。
黒いと思っていたものがそうではなくて、変わった事に誰も気が付かなかった。呪い以外に何があるというのか。
綺麗になるようにと願えって拭けばオルフェウスの顔も綺麗になるかもしれない。
クロエは急いでオルフェウスのいる執務室に向かい、濡れた布でオルフェウスの顔を拭いてみる。
( 綺麗になりますように。呪いが解けますように )
いくら拭いてもオルフェウスの顔は変わらない。
「気は済んだか…?」
それよりもオルフェウスを怒らせてしまったようだ。
( 私にはなんの力も無いのね… )
落ち込むクロエだったが、翌朝にオルフェウスの顔をみて歓喜する。
( 目の位置が左右対称になっているわ! )
母の言う通り、強く願えば言葉に力が宿るのだ。
オルフェウスの顔を毎日拭き、最初は不機嫌になっていたオルフェウスだったが今ではクロエの好きにさせている。
一生懸命なクロエの顔を間近に見て、満更でもなかった。
少しずつ顔の形が変わっているのだが、今まで同様に誰も気が付かない。
肝心のオルフェウスは鏡も見ないし自分の顔を触ることもしなくなったので、この変化を知っているのはクロエだけ。
それに、肌は爛れたままだった。
喜ぶクロエだったが、誰も変化に気が付かないということは呪いがまだ働いているという証拠。
まだ解決はしていない。
「楽しいのか?」
ある日、オルフェウスは自分の顔を拭くクロエに尋ねた。
「楽しい、のかもしれませんね」
「こんな顔を見ても気持ち悪いだけだろう…」
今にも泣き出しそうな、辛く悲しい顔をするオルフェウスを見てクロエは心が傷んだ。
「オルフェウス様、もし呪いが解けたら…。その時は私を娶ってくださいますか?」
「何を言っているんだ!これは決して解けない呪いなんだぞ!」
突然のクロエの告白にオルフェウスは驚き固まったが、すぐに立ち上がって後ずさる。
クロエはそっと立ち上がってゆっくりと近付いて震えるオルフェウスの手を両手で包み込み、その手をオルフェウスの顔に持っていく。
「これは…!」
薄っすらとだが、鼻の出っ張りを感じられた。
「そんな…。まさか…?」
驚愕するオルフェウスにクロエは優しく微笑む。
「呪いは必ず解けると言いましたでしょう?」
何度も顔を触って確かめるオルフェウスだったが、肌は未だに爛れたまま。零れ落ちそうな頬の皮を触って浮上した気持ちが沈んだ。
「良くなっているように思えるが呪いはまだ解けていない。たとえこの肌が治ろうとも、短命の呪いが解けるとは限らないだろう。それに、もし醜いままの顔だったらどうする?それでも私と添い遂げたいと思うはずがない…」
「オルフェウス様のお顔がどんなものでも構いません。私は優しいあなたをお慕いしているのです。呪いは私が必ず解いてみせるので、私を信じていただけませんか?」
「だが…」
俯いて自分と目を合わせてくれないオルフェウスにクロエは遠慮がちに尋ねる。
「私のことはお嫌いでしょうか…?」
「そ、そんな事はない!私だって…!」
強く否定するオルフェウスは勢いのままクロエに近付いた。
泣かせたかもしれないとクロエの顔を覗き込む。
目が合って、泣いていないと安堵した時にはもう遅かった。
クロエの顔がすぐ目の前にあると気付いた時には唇に柔らかい感触。
「本当は今すぐにでも嫁ぎたいのです」
耳元でそう囁やき、顔を真っ赤にしたクロエは走り去っていく。
まさかクロエが醜い自分のことを…?
オルフェウスは暫くその場から動けなかった。
執務室に戻ったオルフェウスはぼんやりと何処かを眺めていた。
「トーマス…」
「はい、どうなさいましたか?」
「私は優しい人間か?」
「えぇ、オルフェウス様はとても優しくて立派な主人でございます。使用人達も皆感謝しておりますよ」
「そうか…」
何故いきなりそんなことを聞くのかとトーマスは首を傾げるが、オルフェウスはそれ以上何も話さないので仕事に集中した。
「トーマス…」
十分ほど経っただろうか。オルフェウスが再びトーマスに呼びかける。
「はい、何でしょうか?」
「私の顔は醜く爛れているだろう?」
「それは…」
肯定も否定もできないトーマスだったが、オルフェウスは気にした素振りも見せずに何処かを嬉しそうに見つめている。
「こんな顔でも良いそうだ」
トーマスはクロエのことだと察し、顔が蕩けそうなほど綻んだ。
「そうですか、喜ばしいことですね」
「呪いは必ず解けると…。信じてくれと言われたんだ」
口づけを思い出したのだろう。オルフェウスは自分の唇を撫でていた。
「そうですか…」
トーマスの目には涙が溢れ、オルフェウスに背を向けて涙をハンカチで拭う。
「私にできることは何だろうか…?」
「クロエ様を大事になさってください」
全てを諦めて生きてきたオルフェウスが未来に向かって動き出そうとしている姿を見て、トーマスの涙は止まらなかった。
36
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

「これは私ですが、そちらは私ではありません」
イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。
その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。
「婚約破棄だ!」
と。
その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。
マリアの返事は…。
前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作

【完結】私の嘘に気付かず勝ち誇る、可哀想な令嬢
横居花琉
恋愛
ブリトニーはナディアに張り合ってきた。
このままでは婚約者を作ろうとしても面倒なことになると考えたナディアは一つだけ誤解させるようなことをブリトニーに伝えた。
その結果、ブリトニーは勝ち誇るようにナディアの気になっていた人との婚約が決まったことを伝えた。
その相手はナディアが好きでもない、どうでもいい相手だった。

ループ中の不遇令嬢は三分間で荷造りをする
矢口愛留
恋愛
アンリエッタ・ベルモンドは、ループを繰り返していた。
三分後に訪れる追放劇を回避して自由を掴むため、アンリエッタは令嬢らしからぬ力技で実家を脱出する。
「今度こそ無事に逃げ出して、自由になりたい。生き延びたい」
そう意気込んでいたアンリエッタだったが、予想外のタイミングで婚約者エドワードと遭遇してしまった。
このままではまた捕まってしまう――そう思い警戒するも、義姉マリアンヌの虜になっていたはずのエドワードは、なぜか自分に執着してきて……?
不遇令嬢が溺愛されて、残念家族がざまぁされるテンプレなお話……だと思います。
*カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる