14 / 15
教育完了
しおりを挟む テーブルにずらりと並んだ、屋台メシの数々に、思わずため息が漏れました。
普通の女子なら、全部食べ切れない量です。普通じゃないわたしは、食べちゃいますけれど。
「うわ、なんだかすごいことになっちゃいましたよ」
まずは、たこ焼きをいただきましょう。一番安い、四個入りです。
「ホワ熱熱熱ャ……」
口の中がヤケドしないように、呼吸しながら食べましょう。
「はふはふっ。ああ、罪深い」
これは、いいたこ焼きです。タコの弾力が申し分ありません。生地もカリッとしつつ、しっとりした味わいで。中身はクラーケンですが、味はまごうことなきたこ焼きですね。すばらしい転生ぶりです、クラーケンさん。
シスター・ローラに感想を言おうとしましたが、お忙しそうなので遠慮しておきます。
「お次はジャンボソーセージを。ほう、これも実にいいですね」
噛んだ瞬間、肉汁が溢れてきました。いいお肉です。もっとパサついているものだとばかり。辛子がきいて、最高のソーセージです。
じゃがバターもいいですね。ちょうどいい感じに、バターが溶けています。
タレまみれの焼鳥、実にいいですね。皮は塩でいただきましたが、サッパリして口の中をいい感じにリセットしてくれます。ただ味は、塩の方が濃いんですよね。
焼きとうもろこしに、豪快にかぶりつきます。おしょう油たっぷりの味わいが、口の中に広がってきました。噛み締めながら、うなずいちゃってます。じゃがバターとは違った、穀物の可能性を感じますね。
不足がちなお野菜は、キャベツ焼きとソース焼きそばで補いました。どちらもハーフサイズです。野菜というよりは、炭水化物祭りですが。
これらをラムネで流し込む、と。空になったガラスボトルの中で、ビー玉が風鈴のような音を奏でました。
すばらしい。胃袋がお祭り騒ぎですね。これはもう、追加してしまいましょう。
「おでんをください。それと炭酸を」
こうなったら、とことんいきましょう。大根や卵をいただきます。
「ほふほふ、これも罪深い」
これでお酒が飲めたら、完全にただの酔っ払いに見えるんでしょうね。
「どうだい、クリス。堪能したかい?」
ひと仕事終えたシスター・ローラが、様子を見に来ました。わたしのラムネ瓶が空になったのを知っていたのか、ジョッキ入りの炭酸を持ってきてくれています。
「ありがとうございます。でも、お酒じゃないですよね?」
「酒はこっち」
匂いをかぐと、たしかにローラ先生の方はアルコールが入っているようでした。
乾杯の音頭もなく、ローラ先生はジョッキをわたしの分にカチンと鳴らしてエールを煽ります。
「今日は、ごちそうさまでした
「いいって。いい食いっぷりだね?」
空の容器だけになったテーブルを見て、わたしは苦笑いします。
遠くで光が上がって、大輪の花を咲かせました。
「あ、花火ですね」
ベストポジションとは言い難いですが、花火は屋台のイートインで眺めるのが、わたしにはちょうどいいのかも知れません。
複数のカップルが、花火を見上げながら寄り添い合っています。
「あんなマネは、できそうにありません」
わたしのような人間を、人は『色気より食い気』というのでしょう。
「だろうね。アンタは一生、結婚できないだろうね」
「やはり、そう思いますか?」
ローラ先生の言葉を、わたしは否定しません。
「人当たりも良くて、家事もできる。子供の面倒見もいい。けど、性欲がまるでないもん。全部、食欲に振り切れてる。目の前にイイ男が現れても、アンタはディナーのメニュー表ばかり見ているんだろうさ」
言いながら、ローラ先生はほほえみます。
「それでは、婚期を逃しますね」
つられて、わたしも笑います。
「でも、アンタはそれでいいのさ。一人でも、屋台で花火を見て幸せを感じられるなら」
「わたしも、そういう生き方がいいです」
自分の将来について考えていると、またお腹が空いてきました。
次は、どの屋台を回りましょうかねぇ?
(屋台編 完)
普通の女子なら、全部食べ切れない量です。普通じゃないわたしは、食べちゃいますけれど。
「うわ、なんだかすごいことになっちゃいましたよ」
まずは、たこ焼きをいただきましょう。一番安い、四個入りです。
「ホワ熱熱熱ャ……」
口の中がヤケドしないように、呼吸しながら食べましょう。
「はふはふっ。ああ、罪深い」
これは、いいたこ焼きです。タコの弾力が申し分ありません。生地もカリッとしつつ、しっとりした味わいで。中身はクラーケンですが、味はまごうことなきたこ焼きですね。すばらしい転生ぶりです、クラーケンさん。
シスター・ローラに感想を言おうとしましたが、お忙しそうなので遠慮しておきます。
「お次はジャンボソーセージを。ほう、これも実にいいですね」
噛んだ瞬間、肉汁が溢れてきました。いいお肉です。もっとパサついているものだとばかり。辛子がきいて、最高のソーセージです。
じゃがバターもいいですね。ちょうどいい感じに、バターが溶けています。
タレまみれの焼鳥、実にいいですね。皮は塩でいただきましたが、サッパリして口の中をいい感じにリセットしてくれます。ただ味は、塩の方が濃いんですよね。
焼きとうもろこしに、豪快にかぶりつきます。おしょう油たっぷりの味わいが、口の中に広がってきました。噛み締めながら、うなずいちゃってます。じゃがバターとは違った、穀物の可能性を感じますね。
不足がちなお野菜は、キャベツ焼きとソース焼きそばで補いました。どちらもハーフサイズです。野菜というよりは、炭水化物祭りですが。
これらをラムネで流し込む、と。空になったガラスボトルの中で、ビー玉が風鈴のような音を奏でました。
すばらしい。胃袋がお祭り騒ぎですね。これはもう、追加してしまいましょう。
「おでんをください。それと炭酸を」
こうなったら、とことんいきましょう。大根や卵をいただきます。
「ほふほふ、これも罪深い」
これでお酒が飲めたら、完全にただの酔っ払いに見えるんでしょうね。
「どうだい、クリス。堪能したかい?」
ひと仕事終えたシスター・ローラが、様子を見に来ました。わたしのラムネ瓶が空になったのを知っていたのか、ジョッキ入りの炭酸を持ってきてくれています。
「ありがとうございます。でも、お酒じゃないですよね?」
「酒はこっち」
匂いをかぐと、たしかにローラ先生の方はアルコールが入っているようでした。
乾杯の音頭もなく、ローラ先生はジョッキをわたしの分にカチンと鳴らしてエールを煽ります。
「今日は、ごちそうさまでした
「いいって。いい食いっぷりだね?」
空の容器だけになったテーブルを見て、わたしは苦笑いします。
遠くで光が上がって、大輪の花を咲かせました。
「あ、花火ですね」
ベストポジションとは言い難いですが、花火は屋台のイートインで眺めるのが、わたしにはちょうどいいのかも知れません。
複数のカップルが、花火を見上げながら寄り添い合っています。
「あんなマネは、できそうにありません」
わたしのような人間を、人は『色気より食い気』というのでしょう。
「だろうね。アンタは一生、結婚できないだろうね」
「やはり、そう思いますか?」
ローラ先生の言葉を、わたしは否定しません。
「人当たりも良くて、家事もできる。子供の面倒見もいい。けど、性欲がまるでないもん。全部、食欲に振り切れてる。目の前にイイ男が現れても、アンタはディナーのメニュー表ばかり見ているんだろうさ」
言いながら、ローラ先生はほほえみます。
「それでは、婚期を逃しますね」
つられて、わたしも笑います。
「でも、アンタはそれでいいのさ。一人でも、屋台で花火を見て幸せを感じられるなら」
「わたしも、そういう生き方がいいです」
自分の将来について考えていると、またお腹が空いてきました。
次は、どの屋台を回りましょうかねぇ?
(屋台編 完)
12
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる