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ジュディ編
52 救いとは
しおりを挟む魔王と言えば大魔王ゼグリドのことである。
この世界では誰もが知るおとぎばなしで、観劇や小説、絵本など様々な形で人々に親しまれている。
世界を征服しようとした魔物の王様すなわち魔王が勇者たちに倒される…ありふれた勧善懲悪の物語。
だが、実際は違う。
そもそも魔王とは魔物の王ではない。
魔物は魔力を持った敵対生物の総称であり、獣などの野生生物に近い生態を持った存在であり徒党を組んで世界征服などするようなものではないのだ。
魔王の正体は人の悪しき心の集合体である。
この世界の住人は皆魔力を持っている。
そして魔力と精神力には密接な関係がある。
魔力を扱い世界に力として実体化するには心の力が必要不可欠なのだ。
その為悪しき心は悪しき魔力として世界に放出され続けることになる。
そういった微々たる悪しき魔力が長い年月をかけて集まり形を持ったものがすなわち魔王。
普段はかなり強い魔物として討伐されることが多いのだが、大魔王ゼグリドの時は数十年にわたる戦争などの影響もあり、今までと日にならないほど強大な魔王に育っていたのだ。
「おそらくあれは大魔王ゼグリドの残滓に新たな悪しき魔力が集まった結果生まれた新しい大魔王…ぐっ」
魔王のことを一気に説明したジュディは吐血した。
回復術でかろうじて命をつないでいる状態だ。
「…なぜおまえはそんなことを知っている…魔王については完全におとぎ話となっていて大聖人でさえ知らなかった…」
アレクシスが険しい顔で問う。
そんな彼に対してジュディは美しく笑って言った。
「だって、大魔王ゼグリドを倒した勇者一行にいたもの…私」
ジュディはかつて女神フローリアに使える巫女だった。
女神フローリアは慈悲と慈愛をつかさどり、貧しき者や弱き者たちに手を差し伸べてくれるとされている。
大魔王ゼグリド討伐に歴代最高の巫女と謳われていたジュディが参加するのは当然であった。
激しい戦いと多数の犠牲を出しながらも大魔王に勝利し、ジュディは故郷の王国に凱旋した。
だが、彼女を待っていたのは裏切りだった。
彼女の地位と功績を羨んだ当時の王女のわがままで彼女はすべてを奪われた。
巫女の地位を奪われただけではなく大魔王ゼグリドとの闘いも王女の手柄とされたのだ。
もちろん女神も勇者たちも彼女を助けようとした。
だが、大魔王ゼグリドとの闘いで疲弊していた彼らは後手に回ざるを得ず、彼女をぎりぎりで救いだしたのはかねてからの友人であった魔族のヴァーンズのみであった。
ジュディは本当にすべてを奪われていた。
地位や功績だけ奪うならまだしも、彼女の尊厳や誇りもなにもかも。
ジュディの中から女神への信仰心は失われていた。共に戦った勇者たちへの信頼も。
絶望のままにヴァーンズとともに姿を消し、歴史からも消されてしまう。
彼女を裏切った王国と王女は女神の怒りを買い。罰を受け滅びた。
女神の巫女を不当に貶め苦しめたのだ。それは当然の出来事と言える。
その出来事から女神フローリアは慈悲と慈愛、そして裁きをつかさどる神となった。
「絶望した私は私と同じような子たちに復讐の力を与えることにしたの…すべてを奪われる前に…それが間違っていたとしても」
ジュディの目の焦点はすでにあっていない。
「ヴァーンズはそんな私のそばにずっといてくれたわ…きっといつか私が間違いに気が付くと信じてくれていたのね…」
彼女の目じりから涙があふれる。
「間違っていることは分かっていたの…本当は…復讐させるんじゃなくて救いだすべきだったのよ…わかってたの…でも止まれなかった…」
何かをつかむように手を伸ばすジュディ。
「ごめんなさいヴァーンズ…申し訳ありませんフローリア様…ごめんなさい勇者様…」
ジュディはディートの顔があるであろう場所に顔を向ける。
「…魔王には呪縛の聖霊術を掛けました。しばらくはろくに身動きできないはず…どうかその間に…神器をそろえて…そうすればたおせる…はず…」
ジュディはディートの顔に手を触れる
「全くの他人であるあなた…に言われたからこそ…私は…罪を受け入れられた…あり…とう…ディ…と」
ジュディからすべての力が抜け落ちた。
<ここは…地獄かしら…>
ジュディは真っ暗な道を歩いていた。
<ディ…ジュディ…>
自らを呼ぶ声の方を振り向く。そこには最愛のヒトがいた。
<あ…>
<ジュディ…待っていたよ。ようやく君を救えそうだ>
<ヴァーンズ…私は罰を受けなければ…>
<ああ、我々は償わなければならない…償いはあの方が用意してくれた>
<え?>
ヴァーンズが指さした場所にいたのはーーーーーー
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