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ジュディ編
47 願い
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作戦決行時間は午後2時。
早朝や深夜の決行も当初は考えられていたが、魔族は闇に紛れるのが得意という情報が魔族・グロリアからもたらされたために昼間に作戦を行われることとなったのだ。
第1班のアレクシス、ディート、グロリアは街はずれの空き地の草むらに身を潜めていた。
予定時刻頃に演習予定地の視察という偽の仕事を与えられた浄化対象のキュリア・バージルがやってくることになっている。
「(なんか緊張してきたな…)」
「(魔族って緊張するんだ?)」
「(あたりめーだろ。多少の違いはあれど精神が存在してんだから緊張する奴は緊張する)」
「(はえ~)」
「(もうすぐキュリア女史がやってくる。二人とも真面目にやれ)」
緊張感のないグロリアとディートの会話にあきれるアレクシス。
グロリアとディートが仲良くなっていることにやや複雑な心境ではあるが、これが本来正しい魔族とのありかたなのだと理解している。
今回の参加メンバーは聖獣ハクエイにより魔族の真実について聞かされていたからだ。
だが、だからと言ってかつての魔族と人間の関係にすぐなれるか、と言われれば大聖人のアレクシスでも難しい。
「(アレクシス様!)」
ディートが小声でアレクシスを呼ぶ。
キュリア・バージルがやってきたのだ。
「(…ちょうど時間だ。グロリア、ディート作戦通りに始めるぞ)」
「(はい!)」
「(りょーかい)」
掛け声と同時にグロリアとディートがそれぞれ散る。
先制で攻撃をしたのはディートだった。
「聖・縛・陣」
ディートの掛け声と同時にキュリアの足元に円形の魔法陣が展開されそこから伸びた円柱状の折に彼女を閉じ込める。
これは彼女を操っているであろう禁術使いジュディに動向を知られないようにするための結界である。
「チッ」
閉じ込められたことにより一瞬の混乱の隙にグロリアが禁術・戒めの魂に干渉する。
魔族である彼にとっては目の前にある扉を開ける程度の労力で禁術の術式を引きずり出すことが出来るのだ。
「いまだディート!術式をたたっ斬れ!」
「応!」
両手を胸の前に突き出すように構えるディート。
そんな彼の手元に彼自身の聖霊力が集まり、光で作られた剣が現れた。
「聖霊剣」
聖霊力で形作られたその聖剣はあらゆるものを浄化し両断すると言う。
ディートは母親の大聖女シャーリィや妹のシェリィのような広範囲浄化は実はあまり得意ではない。
その代わり聖霊力による創造という能力を持っており、今しがた形作った聖霊剣のように武器を作り戦う戦士型の聖人である。
「はぁあああ!」
両手でしっかりと握った光の大剣を右斜め下から左上に打ち上げるように斬り上げた。
キュリアの身体から引き出された禁術の術式は両断され、跡形もなく消える。
この間わずか数十秒であり、攻撃されたキュリアは一言も発する暇もなかった。
「ここまで完ぺきにこなすとは…コンビネーションも完璧…この二人は良いバディになれるのかもしれないな」
いざというときのサポートとして控えていたアレクシスだったが、結局なにもする必要が無くただただ2人を見ているだけだった。
まるで十数年来の友のように息の合った2人の動きに半ば見入ってしまっている。
「バージル先生!」
倒れる彼女をディートが受け止める。
術式が解除されたばかりのキュリアはしばらく動けないだろう。
魂を縛られていた関係で精神的な疲弊も見られるので、なるべく早く休ませる必要がある。
だが彼女は自分のことなど関係ないと言わんばかりにディートの服を強く握り口を開いた。
「お…願い…私の…たの…聞いて…」
「無茶してはいけません!術式の影響が心身ともに残っています!」
無茶をすキュリアに慌てるディート。だが、彼女はお構いなしに続ける。
「あの…方を…おばさま…を助けて…!禁術…ジュディは…フローレンシア…ライラッ…侯爵夫人…中にいる!」
早朝や深夜の決行も当初は考えられていたが、魔族は闇に紛れるのが得意という情報が魔族・グロリアからもたらされたために昼間に作戦を行われることとなったのだ。
第1班のアレクシス、ディート、グロリアは街はずれの空き地の草むらに身を潜めていた。
予定時刻頃に演習予定地の視察という偽の仕事を与えられた浄化対象のキュリア・バージルがやってくることになっている。
「(なんか緊張してきたな…)」
「(魔族って緊張するんだ?)」
「(あたりめーだろ。多少の違いはあれど精神が存在してんだから緊張する奴は緊張する)」
「(はえ~)」
「(もうすぐキュリア女史がやってくる。二人とも真面目にやれ)」
緊張感のないグロリアとディートの会話にあきれるアレクシス。
グロリアとディートが仲良くなっていることにやや複雑な心境ではあるが、これが本来正しい魔族とのありかたなのだと理解している。
今回の参加メンバーは聖獣ハクエイにより魔族の真実について聞かされていたからだ。
だが、だからと言ってかつての魔族と人間の関係にすぐなれるか、と言われれば大聖人のアレクシスでも難しい。
「(アレクシス様!)」
ディートが小声でアレクシスを呼ぶ。
キュリア・バージルがやってきたのだ。
「(…ちょうど時間だ。グロリア、ディート作戦通りに始めるぞ)」
「(はい!)」
「(りょーかい)」
掛け声と同時にグロリアとディートがそれぞれ散る。
先制で攻撃をしたのはディートだった。
「聖・縛・陣」
ディートの掛け声と同時にキュリアの足元に円形の魔法陣が展開されそこから伸びた円柱状の折に彼女を閉じ込める。
これは彼女を操っているであろう禁術使いジュディに動向を知られないようにするための結界である。
「チッ」
閉じ込められたことにより一瞬の混乱の隙にグロリアが禁術・戒めの魂に干渉する。
魔族である彼にとっては目の前にある扉を開ける程度の労力で禁術の術式を引きずり出すことが出来るのだ。
「いまだディート!術式をたたっ斬れ!」
「応!」
両手を胸の前に突き出すように構えるディート。
そんな彼の手元に彼自身の聖霊力が集まり、光で作られた剣が現れた。
「聖霊剣」
聖霊力で形作られたその聖剣はあらゆるものを浄化し両断すると言う。
ディートは母親の大聖女シャーリィや妹のシェリィのような広範囲浄化は実はあまり得意ではない。
その代わり聖霊力による創造という能力を持っており、今しがた形作った聖霊剣のように武器を作り戦う戦士型の聖人である。
「はぁあああ!」
両手でしっかりと握った光の大剣を右斜め下から左上に打ち上げるように斬り上げた。
キュリアの身体から引き出された禁術の術式は両断され、跡形もなく消える。
この間わずか数十秒であり、攻撃されたキュリアは一言も発する暇もなかった。
「ここまで完ぺきにこなすとは…コンビネーションも完璧…この二人は良いバディになれるのかもしれないな」
いざというときのサポートとして控えていたアレクシスだったが、結局なにもする必要が無くただただ2人を見ているだけだった。
まるで十数年来の友のように息の合った2人の動きに半ば見入ってしまっている。
「バージル先生!」
倒れる彼女をディートが受け止める。
術式が解除されたばかりのキュリアはしばらく動けないだろう。
魂を縛られていた関係で精神的な疲弊も見られるので、なるべく早く休ませる必要がある。
だが彼女は自分のことなど関係ないと言わんばかりにディートの服を強く握り口を開いた。
「お…願い…私の…たの…聞いて…」
「無茶してはいけません!術式の影響が心身ともに残っています!」
無茶をすキュリアに慌てるディート。だが、彼女はお構いなしに続ける。
「あの…方を…おばさま…を助けて…!禁術…ジュディは…フローレンシア…ライラッ…侯爵夫人…中にいる!」
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