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野菜が長持ちするおまじない

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「まじないそのものにはなにも不備はないな…」



【野菜が長持ちするおまじない】が効かないという依頼を受けたリーベは、早速現場に向かい様子を確認した。


そのおまじないは魔道冷蔵庫などを持つことが出来ない一般市民に古くから使われているおまじないの一つで、野菜の鮮度を通常の期限より7日ほど長く保つことが出来るものだった。


特に今回依頼されたおまじないは保存系のおまじないの中でも特に単純で子供でも扱える類のものである。


一目見てまじないそのものに間違いもないのに全く反応しないのは異常としか言いようがなかった。




「…悪いがシンシアさん。今のままだと情報がなさ過ぎて原因がわからない。もの場所に【野菜が長持ちするおまじない】をすることになった経緯とか教えてもらっても良いかい?」



そういってリーベは背後にいた今回の依頼者・シンシアの方を向いた。




「そうですね…実は少し前に店を改装して大きくしたのですが…」



シンシアは夫婦で定食屋を営んでいる。

素朴な味とアットホームな雰囲気が落ち着くと地元の人や冒険者たちに評判な人気店だ。

そのためすぐに店舗が人であふれるようになったため少し前に改装し、以前の倍の人数を受け入れられるようになった。

客が増えると同時に使う食材ももちろん増える。

元々あった倉庫もそれなりの大きさがあったが、店舗のこともあり早めに倉庫も拡張しておいた方が良いだろうと空き地に倉庫を作ったのが先週。

そして依頼をする前日に【野菜が長持ちするおまじない】をして完成するはずだったのだ。




「保存のおまじないについてはすでに使っている倉庫に1度やったことがありますし、勝手は分かってるつもりだったんですけど…」


そういってシンシアは頬に手を添えながら困った顔をする。

正にお手上げ状態なんだろう。



「…すでに使っている倉庫って、隣のおおきなやつですよね?」

「?ええそうですが、それがどうかしましたか?」



おまじないの効かない倉庫は店舗の裏庭、現食材倉庫の隣の空き地に建てられている。

現倉庫は問題なくまじないの効果が発揮されているところを見ると、土地が悪いわけではなさそうだ。




「じゃあ問題は倉庫の素材のほうか?」



リーベは倉庫の壁に手を当て異常がないか探っていく。

問題無し。



「倉庫自体にも問題なさそうですね」

「では、いったい何がわるいのでしょう?」



まじない、土地、倉庫、これらすべてに何も問題がない場合リーベの中で原因になりそうなことはあと1つしか思い浮かばなかった。


「(でも面倒だからできれば当たってほしくない)…シンシアさん。もしかしてこの店の上に立ってませんか?」


「はい、たしか割と大きめの市場が昔地下にあったとか何とか…」


「そっかぁ…」


当たってほしくない予想が当たり、思わず天を仰いでしまうリーベであった。







ーーーーーーーーーーーーーーー




リーベ達が暮らしている王都はとても広い。


そして地上だけではなく、地下の開発も古くから行われている。


だが開発競争により、人気が無くなった地下街などから人がいなくなり、結果としてしてしまうという事態が近年起こっている。


ダンジョンとは。


この世界でダンジョンを呼ばれているものには大きく2種類ある。


自然の洞窟や放置された建物・遺跡などに魔力が溜まり魔境と変質してしまった【自然型ダンジョン】

魔導士が魔術を使い人工的に作った【人工型ダンジョン】


ダンジョン内では魔力から魔物が生まれたり、魔石が生成されたりするためどこのダンジョンも冒険者たちであふれている。

特に古代の遺跡などがダンジョン化したものは、財宝などが発見されていることも多いので一攫千金を求める者たちがこぞって潜っているのである。



ちなみに王都の地下は一応自然型に分類されるが、ダンジョン化の原因が単純な魔力溜まりではなく、放置され整備されなくなったおまじないや術式のせいであるため半人工型ともいえる。




「…つまり、シンシアさんのとこでまじないが発動しない原因は、地下に放置されたなにかしらのまじないの可能性が高い」



旧地下街ダンジョンの入り口でリーベはため息をついた。

外のダンジョンに比べれば難易度が低いとはいえダンジョンなのだ。

魔物も出るし、放置されたまじないや術式がトラップになることもある。



「はっきり言って潜りたくないが、地上にまで影響を及ぼすまじないなら処理しとかないといけない…はあ」


もう一度大きくため息をついた後にリーベは目的の場所まで歩き出した。

旧地下街なだけあって、正確な地図を手に入れられるのはとても幸運であっただろう。

事前情報のない状態だと、数時間どころか数日かかっていたかもしれない。



たどり着いたところはやけに広い空間だった。


地上の地図と見比べるとこの空間の端っこの一部がちょうどまじないが発動しない倉庫の真下になる用だ。



「現倉庫の方はギリギリこの空間を避けてるな…これは確定か」


リーベは部屋の外のかつては多くの人が行き来していたであろう道に荷物を置くと、解析を始めた。


この部屋の周辺には店舗などが無く、倉庫などが多かった。

何よりこの部屋自体が異様に広い。

スペースの限られる地下においてこれだけのスペースを確保するのは何のため?



「…なるほど、ゴミ処理場か」



地下街にももちろんゴミは出る。

だがそれをいちいち地上にもっていくのは大変だ。

特にいまリーベがいる場所は深さとしては地下5階に相当する。

地下で処理できる場所を作っておいた方が労力を大幅に減らせる。

そのため王都の地下街には魔法式のごみ処理場が多数つくられていたのだ。



「腐敗を促進…いやごみを分解する術式か!しかもかなり高等なだなこりゃ。だから地上まで影響が出たのか」



今回の真相をまとめると以下のようになる。


店の地下には旧地下街のゴミ捨て場があった。


ゴミ捨て場には高度で強力なごみを分解する魔法がかけられていて、それが地上にまでわずかに影響していたのだ。

【ごみを分解する魔法】に対して【野菜が長持ちするおまじない】は真逆の性質を持っているのに加え、【ごみを分解する魔法】のほうが強力なので結果として【野菜が長持ちするおまじない】の効力が無効化されていた。




「あらよっと!壊すだけなら簡単簡単」


リーベはサクッと魔法を破壊して帰路に就く。

こういった魔法の不始末が原因の相談は実は結構多かったりする。

立つ鳥跡を濁さず。撤退するならきちんと片付けてほしいものだ。


リーベはつくづくそう思っている。









ーーーーーーーーーーーーーーー



「できました!できましたよリーベさん!」


幼い少女のようにはしゃぐシンシアは微笑ましい。


「問題ないようですね。それじゃあ依頼達成ということでOKですか?」


「ええ、もちんよ!ありがとうリーベさん」


依頼料を受け取るリーベ。

だが彼にとって一番の報酬は依頼者の笑顔だ。

でも、それを口に出して言うのはちょっぴり恥ずかしいので周りには秘密にしていたりする。




「おまじないで困ったときはいつでも【おまじない相談所】にご相談してください」



次の依頼もダンジョンがらみの仕事だとはこの時のリーベはまだ知らない。
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