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お嫁に行きます。
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「ナタリア様、大変お綺麗で御座います。陛下も大層お慶びになられますわ」
レイナス王国からマーシャル皇国までの婚前旅行(保護者付き)はとても楽しかった。
あれから結婚に反対する親ばかと反対しきれない兄を宥めて、離れ離れだったこれまでの時間を埋めるようにたくさん話をした。
幼い日の落城の状況、母の最後の姿。侍女と逃げて川に落ち運良くゼインの両親に助けられた事。村内での生活や森でカイルを拾ったこと。
アールベルト兄様とカストル父様からは、最後に見送った出陣から今日までの話を教えてもらったけど、カイルの苦いと言うか、視線をさまよわせているのでかなり、かなーり丸くして話をしていることでしょう。
道中は大きな混乱もなく、途中でレイナス王国のシオル王子殿下とも合流した。勿論今回は王子様としてマーシャル皇国皇帝の婚儀に参列するために。
「ミズファありがとうね」
綺麗に磨きあげられた鏡台には、えっ、誰ですか?と問いたくなるような儚げな花嫁が写り混んでいた。この日の為に、ナタリアが行方不明になっている間も、ミズファ主導の元に作製された純白のドレスには、レースや刺繍、宝石がちりばめられており素晴らしい出来だった。
「ううう、よろしゅうございました。式が始まるまでくれぐれも、くれぐれーも大人しくしていてくださいね」
目尻に溜まった涙をハンカチでふきとりながらの念押しに苦笑が浮かぶ。思えばミズファには苦労をかけたので頭が上がらないのだけれども。
「失礼いたします。レイス国王陛下と先王殿下がお見栄でございます」
「お通ししてもよろしいですか?」
ミズファに頷いて返事をすると、扉を開けてアールベルトとカストルを控え室へと通した。扉を開けて現れた彼らは王族としての盛装である紺色の軍服に金糸と銀糸をふんだんにあしらった刺繍は緻密で二人に良く似合う。
「ナターシャ、とても綺麗だね大陸一の花嫁だ。あの男には勿体無いから結婚するのやめないかい?国へ帰ろう」
「兄様、往生際が悪いですよ」
何時ものように黒い微笑みを張り付けたアールベルトとは対称的にカストルはすでに号泣している。そのうち干からびるのではないだろうか。
「ナターシャ綺麗だよ、まるで私のマリアが戻ってきたようだ」
「私母様に似てる?」
「あぁ、マリアにもナターシャの花嫁姿を見せてやりたいよ。だが、あの若造にナターシャをやりたくないなぁ。アールベルトとんずらするか?」
「父上、そうしたいのは山々ですがね、あまり反対してナターシャに嫌いと言われたら私はもう立ち直れません」
「ううむ、私ももう嫌いと言われたくない」
「ふふふっ、兄様も父様も大好きよ」
二人からの抱擁を受け、カストルに手を引かれて大聖堂の扉が開くと、国教の双子神を模したステンドグラスから聖堂にキラキラと光が差し込んでいる。双太陽神を奉る像の前へ真っ直ぐに引かれた深紅の絨毯を踏み締める。
厳かに響くパイプオルガンの音を聞きながら一歩、また一歩と進む先にはナタリアの暮らしていた森で倒れていた青年がいる。
そして幼い頃の婚姻の約束を全力で果たしてくれた最愛の人に愛する家族に祝福されながら嫁げる幸せを噛み締める。
今日、レイス王国のナターシャ姫としてマーシャル皇国皇帝カイル・アーレイ・マーシャル陛下の元へ嫁ぎます。
レイナス王国からマーシャル皇国までの婚前旅行(保護者付き)はとても楽しかった。
あれから結婚に反対する親ばかと反対しきれない兄を宥めて、離れ離れだったこれまでの時間を埋めるようにたくさん話をした。
幼い日の落城の状況、母の最後の姿。侍女と逃げて川に落ち運良くゼインの両親に助けられた事。村内での生活や森でカイルを拾ったこと。
アールベルト兄様とカストル父様からは、最後に見送った出陣から今日までの話を教えてもらったけど、カイルの苦いと言うか、視線をさまよわせているのでかなり、かなーり丸くして話をしていることでしょう。
道中は大きな混乱もなく、途中でレイナス王国のシオル王子殿下とも合流した。勿論今回は王子様としてマーシャル皇国皇帝の婚儀に参列するために。
「ミズファありがとうね」
綺麗に磨きあげられた鏡台には、えっ、誰ですか?と問いたくなるような儚げな花嫁が写り混んでいた。この日の為に、ナタリアが行方不明になっている間も、ミズファ主導の元に作製された純白のドレスには、レースや刺繍、宝石がちりばめられており素晴らしい出来だった。
「ううう、よろしゅうございました。式が始まるまでくれぐれも、くれぐれーも大人しくしていてくださいね」
目尻に溜まった涙をハンカチでふきとりながらの念押しに苦笑が浮かぶ。思えばミズファには苦労をかけたので頭が上がらないのだけれども。
「失礼いたします。レイス国王陛下と先王殿下がお見栄でございます」
「お通ししてもよろしいですか?」
ミズファに頷いて返事をすると、扉を開けてアールベルトとカストルを控え室へと通した。扉を開けて現れた彼らは王族としての盛装である紺色の軍服に金糸と銀糸をふんだんにあしらった刺繍は緻密で二人に良く似合う。
「ナターシャ、とても綺麗だね大陸一の花嫁だ。あの男には勿体無いから結婚するのやめないかい?国へ帰ろう」
「兄様、往生際が悪いですよ」
何時ものように黒い微笑みを張り付けたアールベルトとは対称的にカストルはすでに号泣している。そのうち干からびるのではないだろうか。
「ナターシャ綺麗だよ、まるで私のマリアが戻ってきたようだ」
「私母様に似てる?」
「あぁ、マリアにもナターシャの花嫁姿を見せてやりたいよ。だが、あの若造にナターシャをやりたくないなぁ。アールベルトとんずらするか?」
「父上、そうしたいのは山々ですがね、あまり反対してナターシャに嫌いと言われたら私はもう立ち直れません」
「ううむ、私ももう嫌いと言われたくない」
「ふふふっ、兄様も父様も大好きよ」
二人からの抱擁を受け、カストルに手を引かれて大聖堂の扉が開くと、国教の双子神を模したステンドグラスから聖堂にキラキラと光が差し込んでいる。双太陽神を奉る像の前へ真っ直ぐに引かれた深紅の絨毯を踏み締める。
厳かに響くパイプオルガンの音を聞きながら一歩、また一歩と進む先にはナタリアの暮らしていた森で倒れていた青年がいる。
そして幼い頃の婚姻の約束を全力で果たしてくれた最愛の人に愛する家族に祝福されながら嫁げる幸せを噛み締める。
今日、レイス王国のナターシャ姫としてマーシャル皇国皇帝カイル・アーレイ・マーシャル陛下の元へ嫁ぎます。
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