拾った迷子は皇太子!?

紅葉ももな(くれはももな)

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帰ってきたレオンハルト

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 ナタリア達がレイナス王国の美食を堪能していた頃、マーシャル皇国は騒然としていた。

「ナタリアとアールベルト陛下の居場所はまだ掴めないのか!?」

「陛下、落ち着いてください」

 落ち着きなくぐるぐると、ひたすらぐるぐるとテーブルの廻りを回りつづけるカイルの姿に溜め息をつきながらロデリックは頭を抱えていた。

 まさかやっと見付けた正妃候補をこうも易々と持ち逃げされるとは思ってもみなかったのだ。

「まぁ、元々はナタリア様にきちんとお客様を教えていなかった事が原因とは言え、こうも情報が無いのが不思議ですね」

 本当にまさかここまで煙に巻かれるとは思ってもみなかった。

「おい!ねぇちゃんまだ見つかんないのかよ!?」

 苛立ちを隠そうともせず部屋にやって来たゼインが今度はブツブツと何か言い始めたカイルを見付ける。

「ちょっと、あれヤバイんじゃないの?目がいってない?」

「やっぱりそう見えますよね~?大分ナタリア様を持ってかれたのがショックだったみたいですよ」

「まぁ、自業自得だろ?自分の好きな人を信じられずに色々と悪巧みした結果、隣の国の残虐王にあっと言う間に持ってかれてまた行方不明。ざまぁみろだ!付き合わされる近衛やら国軍の連中の身にもなりやがれ」

 ゼインは自分が眼を離した隙の出来事に対して言いたい放題嫌みをぶつけていた。

「ゼイン殿すみませんねぇ、姉君をこんな騒動に巻き込んでしまって」

「国王があれだと臣下が苦労するわな」

「いーわーせーてーおーけーばー!」

「なんだよ?文句あんのか?いくらでも聞いてやるからさっさとねぇちゃん連れ戻せや?」

 バチバチと火花を飛ばさんばかりに睨み会う二人の元にランティスがやって来るなり両者の頭に握りこぶしを落とす。

「いで!?ランティス師匠何すんだよ!?」

「つっ!今目の前が真っ白になったぞ」

「御二人とも仲が宜しいのは結構ですが、はっきり言って迷惑です。辞めてください」

 抗議するゼインにランティスが二発目の鉄拳を落とす。

「それで、何か手掛かりは掴めたのか?」

 半ば諦め半分でカイルは視線を上げずに問う。

「そうでした、早馬をレイスとの国境まで走らせましたが、ナタリア様の姿とレイス国王陛下の一行は確認できませんでした」

 ランティスの報告に分かりやすくカイルは落胆して見せる。

「あと、レオンハルト殿が戻りました」

「それを早く言え!」

「レオンどこ!?師匠!?」
 
 鬼のような形相の二人に詰め寄られ、ランティスは再度頭上に握り締めた拳をおろす。

「ふたりとも冷静にならなければ教えません」

「流石はランティス殿!」

 国王相手に平気で拳骨をおろせるのはランティスくらいだろう。仁王立ちしたランティスにロデリックが拍手喝采を送る。

 頭を冷やすためなのだろう。深く息を吸い込んでゆっくりと吐き出すと言う行為を数回繰り返すと、先程までのダメ子から立ち直った。

「取り乱してすまなかった」

「やっと現実に戻ってきましたね?落ち着きました?」

「駄目ならもう一発・・・・・・」

 握り拳を見せるランティスから距離を取る。

「大丈夫だ。間に合っているから、ところでレオンハルトは?」

「騎士寮で昼寝をしてますよ」

「騎士寮だね!?」

 騎士寮なら中庭を突っ切った方が速い。通路に続く扉ではなくバルコニーへ走ると、そのまま軽い感じにひょいっと石垣を乗り越える。と側に植えられた樹木に飛び移り勢いを相殺しながら地面へ着地する。

「おいゼイン!せめて扉から、って陛下!真似しないでください!」

 止めるランティスを振り切りゼインに続いて飛び降りたカイルは身体を捻ることで上手く落下速度をおとした。

 若さあってこそなし得る軽業に、ランティスは溜め息しか出てこない。

「陛下はお変わりにならないな、昔のままひたすら真っ直ぐだ」

「ふふふ、ランティス殿にはそう見えますか、そうでも無いですよ?」

 去っていく後ろ姿を眺めながらロデリックがゆっくり口を開いた。

「幼い頃から何処までも真っ直ぐに国や民の行く末を考え行動する事を求められてきた陛下ですが、ナタリア様が絡むと年相応の青年に戻りますから」

「そうだなぁ、はじめて会った時から若年寄だったからな」

「さぁ、我々もレオンハルト殿の所へ向かいますか、扉から」

 苦笑いを浮かべたランティスのために通路へ続く扉を開けて促す。

「そうだなぁ、あんな真似はもうできん」

「私はもうどころか出来ません」

 二人で通路を進みながら、過ぎた年月を思い出していた。
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