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突然の来訪者
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「レイス王国、国王アールベルト陛下がお着きになられました!」
なんの前触れもなく突然やって来た来訪者に動転した門番が、ロデリックの元に駆け込んできた。
それはカイル皇太子が妃を迎え、それに伴い王位継承の儀を執り行うことを記した親書を周辺諸国に送ってからわずか二週間後の事だった。
「あの、・・・・・・どうしたら」
「直ぐに一番上等な応接間にお通ししてください」
慌てて城門に駆け戻った門番が持ち込んだ情報は、やっと花嫁を迎える気になった皇太子の為に開かれる戴冠式とお披露目を兼ねた舞踏会の準備に追われていた城内を騒然とさせる物だった。
「殿下はどちらに!?」
「で、じゃなくて陛下はナタリア様と中庭にいらっしゃいます」
ナタリア付きの侍女であるミズファはナタリアの居室に取り乱しながら駆け込んできたロデリックに驚きながら、中庭を指し示した。
ナタリアが中庭を気に入ったのと、ナタリアの家族である大狼のレオンハルトや大鷹のオルソードが羽を伸ばすことが出来るため、改めてナタリアに与えられた部屋からはそのまま中庭に出ることが出来るようになっていた。
「ありがとう、ミズファ」
短く礼を述べて中庭に通じる硝子の扉を開けると、ロデリックはカイルを探して広い中庭に飛び出した。
「殿下ぁ~、で・ん・かぁ~。どちらにいらっしゃいますかぁ?」
遠くから聞こえてきた声に、中庭の泉の回りをカイルと散策していた足を止めてナタリアは声のした方角に振り向いた。
「ちっ、邪魔が入ったか」
「邪魔はひどいでしょ」
「苦労してやっと小舅追い払って、仕事を抜け出してきたのに邪魔以外の何者でもないだろう」
不機嫌に顔を歪めたカイルに苦笑しつつ、一向に返事を返そうとせず、ナタリアの背中を押して更に中庭の奥に進もうとする。
小舅ことゼインは武術の才能があるらしく、表向きジェリコに稽古をつけてもらっている。
又はジェリコへの生け贄とも言うが、武術の才能云々は本当の様なので問題は無い。ただ強くなりたい動機がカイル倒してナタリアと村に帰ると言うものなので気が抜けない。
「ロデリックさん、こっちに居ますよ」
「ばっ!気付かれるだろうが」
「気付かれるように呼んでるんです。諦めてお仕事戻りましょう」
不満げなカイルに満面の笑みを向けるナタリアに一瞬怯んだカイルは、諦めの溜め息を吐くとナタリアの顎先を捉えて口づける。
「分かったよ、戻ろう」
「ちょっと!いきなり何するんですか!?」
ナタリアから飛んでくる平手打ちを余裕で躱し、腕の中に抱き込むと、仕返しとばかりに唇を重ねる。
抵抗しようにも身動きがとれないナタリアの唇を堪能したカイルは渋々とロデリックの声のした方角へ歩き出した。
「どうした?行かないのか?」
足に力が入らず地面に座り込んでしまったナタリアにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、カイルはゆっくりとナタリアの側まで戻り、視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「う、うるさい。ロデリックさん呼んでるんだからさっさと行けば」
「素直じゃないな」
「ほっとけ」
赤面した顔を見られないように背ける。
「ほら、ロデリックを待たせるぞ?」
カイルはナタリアに右手を差し出して立たせると、膝の後ろに腕を回して一気に持ち上げてしまった。
「きゃー!ちょ・・・・・・!?」
「暴れるなよ?落ちるぞ」
「降ろしてー!」
「却下」
ドレス程では無いにしても、それなりに布地が使われているワンピースはナタリア本体の重さも加わるとかなりの重量になっているはずなのだが、カイルは気にした様子もなく担いだまま、ナタリアの部屋に向かって歩き出した。
なんの前触れもなく突然やって来た来訪者に動転した門番が、ロデリックの元に駆け込んできた。
それはカイル皇太子が妃を迎え、それに伴い王位継承の儀を執り行うことを記した親書を周辺諸国に送ってからわずか二週間後の事だった。
「あの、・・・・・・どうしたら」
「直ぐに一番上等な応接間にお通ししてください」
慌てて城門に駆け戻った門番が持ち込んだ情報は、やっと花嫁を迎える気になった皇太子の為に開かれる戴冠式とお披露目を兼ねた舞踏会の準備に追われていた城内を騒然とさせる物だった。
「殿下はどちらに!?」
「で、じゃなくて陛下はナタリア様と中庭にいらっしゃいます」
ナタリア付きの侍女であるミズファはナタリアの居室に取り乱しながら駆け込んできたロデリックに驚きながら、中庭を指し示した。
ナタリアが中庭を気に入ったのと、ナタリアの家族である大狼のレオンハルトや大鷹のオルソードが羽を伸ばすことが出来るため、改めてナタリアに与えられた部屋からはそのまま中庭に出ることが出来るようになっていた。
「ありがとう、ミズファ」
短く礼を述べて中庭に通じる硝子の扉を開けると、ロデリックはカイルを探して広い中庭に飛び出した。
「殿下ぁ~、で・ん・かぁ~。どちらにいらっしゃいますかぁ?」
遠くから聞こえてきた声に、中庭の泉の回りをカイルと散策していた足を止めてナタリアは声のした方角に振り向いた。
「ちっ、邪魔が入ったか」
「邪魔はひどいでしょ」
「苦労してやっと小舅追い払って、仕事を抜け出してきたのに邪魔以外の何者でもないだろう」
不機嫌に顔を歪めたカイルに苦笑しつつ、一向に返事を返そうとせず、ナタリアの背中を押して更に中庭の奥に進もうとする。
小舅ことゼインは武術の才能があるらしく、表向きジェリコに稽古をつけてもらっている。
又はジェリコへの生け贄とも言うが、武術の才能云々は本当の様なので問題は無い。ただ強くなりたい動機がカイル倒してナタリアと村に帰ると言うものなので気が抜けない。
「ロデリックさん、こっちに居ますよ」
「ばっ!気付かれるだろうが」
「気付かれるように呼んでるんです。諦めてお仕事戻りましょう」
不満げなカイルに満面の笑みを向けるナタリアに一瞬怯んだカイルは、諦めの溜め息を吐くとナタリアの顎先を捉えて口づける。
「分かったよ、戻ろう」
「ちょっと!いきなり何するんですか!?」
ナタリアから飛んでくる平手打ちを余裕で躱し、腕の中に抱き込むと、仕返しとばかりに唇を重ねる。
抵抗しようにも身動きがとれないナタリアの唇を堪能したカイルは渋々とロデリックの声のした方角へ歩き出した。
「どうした?行かないのか?」
足に力が入らず地面に座り込んでしまったナタリアにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、カイルはゆっくりとナタリアの側まで戻り、視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「う、うるさい。ロデリックさん呼んでるんだからさっさと行けば」
「素直じゃないな」
「ほっとけ」
赤面した顔を見られないように背ける。
「ほら、ロデリックを待たせるぞ?」
カイルはナタリアに右手を差し出して立たせると、膝の後ろに腕を回して一気に持ち上げてしまった。
「きゃー!ちょ・・・・・・!?」
「暴れるなよ?落ちるぞ」
「降ろしてー!」
「却下」
ドレス程では無いにしても、それなりに布地が使われているワンピースはナタリア本体の重さも加わるとかなりの重量になっているはずなのだが、カイルは気にした様子もなく担いだまま、ナタリアの部屋に向かって歩き出した。
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