拾った迷子は皇太子!?

紅葉ももな(くれはももな)

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クライシスの処遇

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 ナタリア一行が帰城した頃には、夜空が微かに明るさを取り戻し、辺りを白霧が包み込んでいた。冷えた空気中に大地の熱が放出され、白い筋となって空へ昇っている。

 城にはまだ煌々と松明が焚かれ、夜明け前だと言うのに沢山の装備を整えた兵が武器を携えて城下や周辺地域を捜索していた。

「何かあったのかな?」

「有ったんだろうな」

 不思議そうに首をかしげるナタリアの様子に、苦笑いを浮かべながらカイルが頭を撫でる。

「少なくとも未来の皇太子妃と現皇太子は行方不明でしたからねぇ」

 馬を並べて進むロデリックが二人の様子を観察しながら教えてくれた。

「すいません」

「すまん」

 二人で頭を下げる。

 自業自得だが、それによって少なくない者達に迷惑を掛けたことは間違えようがない。

「殿下!御無事でしたか!」

 巨体を物ともせずに駆け付けたジェリコの迫力に立ち上がりかけた馬を宥める。
 厳つい巨体が迫ってくれば馬でなくても逃走したくなるのは仕方ないだろう。

「留守にしてすまなかった。何があった?」

 馬上から降りると、カイルは城を見上げた。先ほどロデリックが指摘した内容も理解できるが、警備の兵が尋常ではない。黒騎士だけに留まらず、貴族の子息が多い白近衛が城下を走り回っているのだ。

「実はロジャース皇帝陛下殺害未遂で逃亡中のミスティル后妃、罪人ミスティルを捜索中なのだ」

 あえて罪人と呼び直したジェリコの表情は暗い。

 ジェリコと彼の息子であるドルテゥアはミスティルが罪人となった今、可愛がっているクライシスが微妙な立場に立たされていることに心を悼めていた。

 ミスティルが逃亡した今、動機はどうあれ皇帝の暗殺未遂は三親等斬首でもおかしくない重罪だった。

「クライシスは!?」

 カイルの声に緊迫感が混じる。

「クライシス殿下は、現在自主的に軟禁されておられます。護衛兼見張りとしてランティス殿が付いています」

 ジェリコ後ろから現れた彼の息子であるドルテゥアの言葉にカイルはホッと胸を撫で下ろした。

 自主的に軟禁されると言うことは逃走の意思がないことを示し又、ミスティル后妃の企てに一切関与していないと暗に示しているのだ。

 少しでも反抗を示せば途端に立場が怪しくなるこの状況で最善の判断とも取れる。ランティスが護衛として同行しているならば余程でなければ直ぐに危機的状況に陥る心配はないだろう。

「陛下は?」

「ミスティルに盛られていた無限の夢は、ほぼ解毒が済んでいます。殿下がお戻りになり次第お連れするようにと」

 解毒が不可能とされていた無限の夢の中和、それを可能にす知識を持つものはまだ発見されておらず生死の有無も定かではない。

 もしミスティルが生きていて無限の夢を無秩序拡げてしまえば、大陸中が脅威に曝される事になりうる。無限の夢はそれだけ危険な薬物だった。

「わかった。ナタリア行くぞ。ロデリック」

「はい?」

 いそいそと馬を同行していた黒騎士に任せて、カイルに同行するための準備を整えていたロデリックは突然名前を呼ばれて首をかしげる。

「はい?じゃない。クライシス連れてきてくれ」

 ロデリックの反応に苦笑いを浮かべながらカイルが指示を出すと、ジェリコとドルテゥアの顔が曇る。

「連れてくるのは構いませんが、大丈夫ですか?仮にも」

「マーシャル皇国第2皇子殿下をお連れしろ」

 ロデリックの言葉を遮るようなカイルの言葉に、ジェリコとドルテゥアの緊張が緩和するのがわかる。

 ロデリックの懸念もジェリコとドルテゥアの心配もわかる。

 だが、現状のまま軟禁を続けていてもクライシスの立場は緩やかに悪化するばかりだった。

「仰せのままに」

 ロデリックは右手の拳を胸元に当てて礼をとると、クライシスが軟禁されている彼の居室へと向かい歩き出した。

「ドルテゥア、案内してくれ」

「殿下!某が案内致しますぞ!」

「しなくていい!」

 案内を買って出たジェリコの後頭部に張り手を加えたドルテゥアに苦笑しながら、ナタリアとカイルは正門を潜った。

 
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