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再会

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 レオンハルトは屋根から屋根へと跳び移りながら、城内に併設されている庭園へと向かっている。

「レオン!ゼインも一緒なの?」

 ナタリアはレオンハルトの口に咥えられたまま話し掛ける。

「ナタリア、喋らない方が良い。舌噛むぞ」

 もちろんレオンハルトは言われている事は理解しているようだが人語は話せない。

 レオンハルトの背中にしがみ付いたカイルが答える。

 加えている力加減を間違えれば、ナタリアに傷を負わせてしまうだろうが、レオンハルトは絶妙な噛み加減をで運んでいるようだ。

 広大な庭園は庭師が丁寧に手入れを施しているのだろう、かなり奥まった場所にナタリアとカイルを降ろすと、レオンハルトは又王宮へと戻っていった。

「だいじょうぶなの?これ・・・・・・」

 王宮の騒ぎはナタリアの所にも聞こえてくる。

「あぁ、何とかするしかないだろう・・・・・・」

 カイルと共に王宮を眺めていると、遠目に銀色の煌めきが屋根の上に姿を現すのが見える。

 レオンハルトは真っ直ぐナタリア達がいる方角へは進まずに反対へと降りたようだ。

「レオンは流石だな、撹乱してやがる」

 遠吠えを聞きながら、カイルは鮮やかな手並みに感嘆する。
「無断侵入って罰重いの?」

「重いな、だが幸い怪我人は出ていないようだったしな」

「ゼインとレオンを助けてください!お願いします!」

 カイルに向き直り、ナタリアは深く頭を下げる。

 本来ならば不法侵入は懲罰の中でも謀叛と近い処罰が与えられるのだ。

 謀叛の代償は処刑、減刑されても、一族郎党の国外追放である。

 王宮を護る城壁は外部から攻められた際に対抗できるようにと、高く建造されているのだ、まさかその壁をこうも易々と越えられてしまうとは思っても見なかった。

「どうしたものか」

 未だに騒ぎが収まらないって王宮を見詰めながらカイルは思案する。

「本当にごめんなさい‼あたしが後できっちり叱っておくから‼」

 必死に頭を下げるナタリアの頭を軽く二回叩く。

「まぁなんとかするさ」

 ナタリアが恐る恐る顔を上げると、カイルの不敵な笑みを浮かべたカイルと目が合った。

「これで貸し1つだな」

「えっ!?この前助けたので相殺でしょ!?」

「おっと、時間切れだ」

 ガサガサと音をたてて白銀の毛皮が顔を出した。

 口にはナタリアの時と同様に子供を咥えている。

「ゼイン!」

 ナタリアが駆け寄ると、レオンハルトはゆっくりとゼインを地面に下ろした。

「ゼイン!ゼイン!大丈夫!?」

 ナタリアがゼインの首の後ろに手を入れて支えてやる。

「ねぇちゃん・・・・・・?ねぇちゃん!!」

 瞳を閉じてぐったりとしていたゼインは、自分を呼ぶ声の主を確認すると勢い良く起き上がり、そのまま目眩を起こしたようにナタリアの腕の中に倒れ込んでしまった。

「もう、なにやってるのよ、こんな無茶して!」

 ゼインの額を軽く叩くと、ゼインは額を押さえて嬉しそうに撫でた。

「ねぇちゃんひどいよー、なにも寝てる間に置いてくことないじゃないかぁ」

 どこか甘えたような声音で抗議するゼインの顔色は優れない。

「何言ってるの、打撲で動けないくせに!こんな無茶して悪化したんじゃないの?」

 カイルはゼインの隣にしゃがみ軽くゼインの腹部に触る。

「痛っ!」

「あの打撲で此処まで移動すれば当たり前だ。その調子だとレオンハルトに乗って此処まで来ただろう」

 どうやら図星のようだ。

「レオン、ゼインを守ってくれてありがとう」

 ナタリアに鼻先を撫でられて、レオンハルトは嬉しそうに小さく鳴いた。

「さて、とりあえず事態の収拾だな」

 ゼインをこのままにしては置けないだろう、何にしても、王宮に押し入った事実は曲げられない。

「なんとかなるの?」

 ゼインとレオンはこれからどうなるのだろう?

「俺に任せておけば良い」

 良からぬ事でも思い付いた様に笑うカイルを見上げながら、ゼインはナタリアをなにがなんでもカイルの魔の手から逃がそうと心に誓った。
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