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二日酔い

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 気分は最悪だった。いつの間にか寝台に横たえられているのはいいとして、頭がズキズキと痛む。

 ドレスを着ていたはずなのに、夜着に着替えているのも眼を瞑ろう。

「なっ!」

「ん?起きたのか?おはよう」

「なんで隣に寝てるのよー!」

 寝台の上で飛び起きたナタリアは自分の発した声で悪化した頭痛に頭を抱える。

「二日酔いだな、もう少し休んだ方が良いぞ?」

 成人が五人並んで寝ても余剰がある広い寝台に、カイルが横たわっている。

 何故そうなったのか記憶にないが、ナタリアは目のやり場に困ってしまう。

「なんで裸」

「この方が暖かかっただろう?」

 暖かかっただろうって、確かに暖かかったけど、寝具の上で見上げるようにナタリアを見つめる彼は、見事に上半身を露出させている。

 裸は助けた時に確かに見ているが、体躯に巻かれた包帯が痛々しい。

 本来なら蹴落としていただろうが、包帯を付けた姿がナタリアの衝動をかろうじて堪えた。

「暖かいのは認めるけど」

 裸で寝るのはやめてほしい、真面目に。

「ここどこ?」

 触り心地の良い毛布を抱き寄せてナタリアは出来る限り寝台の上を後退る。

「俺の部屋」

「そう・・・・・・じゃなーい!」

 ナタリアは近くにあった枕を掴むと振りかぶってカイルに投げつけた。

「何だ、照れるな照れるな」

 柔らかな羽毛で作られた枕では大きなダメージは与えられなかったらしい。カイルは飛んできた枕を片手でうけとめる。

 どこか楽しんでいる気配に腹が立ち、ナタリアは手近にあった触り心地が良い毛布を丸めて投げつけた。

「一体昨日のあれはなんなのよ」

 寝台の横に設えられたチェストから硝子の小瓶をカイルに投げる。

「あれとは?」

 飛んできた小瓶を左手で掴み、自分の隣に置く。

「あたしはナターシャ姫じゃない!」

 水差し用のカップを掴みカイルに狙いを定める。

「なんだ、そっちか」

 つまらなそうに肩を竦めて見せたカイルはナタリアがまたもや投げ付けたカップを手に取り脇に置く。

「それ以外何があるってのっ、よっ!」

 カップが乗っていた陶器の皿を投げると皿はカイルをそれてチェストに当たり、パリンっと音を立てて砕けた。

「殿下!失礼します!」

「どうした」

 突如勢い良く寝室の扉から飛び込んできた兵士が帯剣に手を掛けて寝室内を確認する。

「不審な音が聞こえてきましたが」

「大事ない、我が姫が駄々を捏ねただけだ」

「駄々じゃない!」

 ブン!と香炉を投げつける。 

 投げつけられた香炉を嬉しそうにで受け止めるカイルに、曲者が侵入したと思い入室した兵達は困惑してしまう。

 どんな理由であれ皇太子に手を上げた者を捕まえるのが彼らの仕事である。

 皇族に危害を加える者を捕まえなければならない。ならないのだが、カイルは同衾したと思わしき少女が投げ続ける調度品を楽しそうに受け止めている。

「殿下ー、朝ですよー。ってうわ~」

 兵士がの脇から顔を出して除きんだロデリックは目の前の寝台で飛び交う攻防戦に頭を掻いた。

「どう致しましょう・・・・・・?」

「まぁ、とりあえず仕事に戻って良いですよ、ここは私がなんとかします」

 ロデリックは右往左往している兵士達を退出させると、ゆっくりとナタリアの後ろに回り込む。

 小物から始まった攻防は段々と大きさをましてナタリアの手には革張りの厚い本が構えられている。

「ハイハイ、ナタリア様そこまでてお願いしますよー」

 後ろから両手で構えていた本を取り上げられて、腕だけが勢いそのままに降り下ろされる。

「おう!ロデリック」

「おはようございますロデリックさん、それください」

 ロデリックに取り上げられた本を所望するが、駄目です。とナタリアの届かない後方へ放おってしまう。

「殿下、お楽しみの所申し訳ありませんが、陛下がお呼びですので準備をお願いいたします」

「ああ、分かった」

 カイルは名残惜しげに寝台から立ち上がる。どうやら裸なのは上半身だけだったようでナタリアは安堵する。

「ナタリア様もですからね」

 もぞもぞしながら触り心地が良い掛布に潜り込み始めたナタリアにロデリックが釘を指すのと、何人もの侍女が色々な物品を引っ提げて寝室になだれ込んだのはほぼ同時だった。
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