拾った迷子は皇太子!?

紅葉ももな(くれはももな)

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第二皇子

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「兄上ー!」

 ミスティルと別れたあと、何度か階段を下り慣れないヒールにナタリアが四苦八苦していた頃、軽い足音を響かせながら小さな影がナタリア達の前に飛び出してきた。

「兄上!兄上!お帰りなさいませ」

 小さな影は前を歩いていたカイルの腕にしがみつくと大きな瞳を輝かせながら見上げる。

「あぁ、だだいま。変わりないかクライシス」

「はい!兄上が帰っていらっしゃるのをお待ちしていました」

 尻尾があればきっと振り切れんばかりに振っていそうな少年の身体を持ち上げてカイルは視線を合わせる。

「ロデリックさん、誰?」

「殿下の弟君、クライシス様です」

 年の頃は、ナタリアの記憶が正しければ4歳だったはずだ。

「クライシス、一体どこを走ってきたんだ?蜘蛛の巣が一杯ついてるぞ?」

 ふわふわとした髪の毛に張り付いた蜘蛛の糸をカイルが払い落とすと、クライシスは嬉しそうにカイルの首に飛び付いた。

「兄上が留守の間に秘密の通路を見つけたんです!兄上がお戻りだと聞いて走り抜けてきました!」

 元気一杯といった様子のクライシスはカイルの背後に控えた見知らぬ顔の客人と目が合うと固まったように動かなくなってしまった。

「初めてお目にかかります、クライシス様。私はナタリアと申します。仲良くして頂けますか?」

 ナタリアが声を掛けると、クライシスはカイルとナタリアを見比べる。

「うーん、兄上のお友達?」

「いや、お前の姉になる人だぞ?」

「お姉様?」

「ちょっと、違います!」

「えー、違うんですか・・・・・・」

 目に見えてしょんぼりとしてしまったクライシスに、一瞬ゼインのふてくされた印象が重なる。

「あーもー、取り敢えず仲良くして頂けますか?クライシス様?」

 ナタリアはドレスの裾を気にせずにその場にしゃがみこむと、クライシスの視線の高さに合わせてクライシスの手を取った。

「はい!ナタリア姉様!一緒に行きましょう!」

 満面の笑みを浮かべて跳び跳ねたクライシスはナタリアの手を引きながら来た道を引き返す。

「ぎゃ!」

ドレスの裾を盛大に踏みつけて地面と接吻するのを覚悟する。

「もう少し落ち着いて歩かないと鼻が潰れて無くなるぞ?」

 ナタリアの腰にはカイルの腕がしっかりと回り込み、強い力で抱き起こされる。

「あっ、ありがとう」

「どういたしましてじゃじゃ馬姫」

「さ、さぁクライシス様行きましょう」

 優しい笑顔にナタリアは背を背けると、クライシスを急かして歩き始めた。

 なぜかカイルの顔がナタリアの心臓に負荷をかけ、熱まで上がって来るのは、長旅で疲れているのかもしれない。

 クライシスに手を引かれながら、これまで病気という物に馴染みのないナタリアは自分の反応を頭のすみに追いやった。

「ナタリアお姉様!あのねあのね!」

 貴賓室に部屋を与えられたナタリアの元には、すっかりなついたクライシスが当然の様に同室している。

「ナタリア居るか?」

 すっかりうち解けたナタリアとクライシスを残して席を外していたカイルは部屋の扉を開けた。

「兄上お帰りなさいませ」

 ナタリアの側から立ち上がると、クライシスはそのままカイルに向かっていた走りだした。

「だだいま。ちゃんとナタリアを守れたか?クライシス」

「はい!クライシスは兄上の言う通りナタリア姉様を守りきりました!」

 カイルに抱き上げられながら報告するクライシスは自慢気に胸を張って見せた。

「そうか、ありがとうな。ナタリア、クライシス出かけるぞ」

「どこに行くの?」

「食事だ」

 カイルもロデリックも衣服を改めている。

 旅の汚れを落としただけにしては、少々装飾過多な衣装は王宮では普段着なのだろうか。

「食事は賛成だけど、それってもしかして」

「皇帝陛下主催の晩餐会」

「留守番してます」

 皇太子に后妃、第二皇子。自国の皇族と面識を得ることは、平民にとって名誉な事だが、ナタリアは正直疲れたのでクライシスと寝てしまいたいのが本音だ。

「却下だ。クライシス、お前も着替えも用意させてある。ナタリアと一緒に着替えてこい」

 有無を言わさずお仕着せを来た侍女達が次々と部屋に衣装箱を運び込み始めた。

「うわ、なんかこの展開見覚えが・・・・・・」

「ナタリア姉様?」

 いつの間にやらカイルの手からナタリアの元に戻ってきたクライシスに見上げられ、ナタリアは抵抗を諦めた。

 
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