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「へぇ、それでどうなったの?」
馬車の不規則な揺れはナタリアの睡魔を呼び起こしていく。
カイルの少年時代の話に耳を傾け、当時のカイルと今も護衛として馬車を守るランティスの話はとても興味深く、思いがけずナタリアの旅の楽しみになっている。
「闘技場を任された後、その日の試合は中止された、後日改めて開催することになったんだが、陛下がランティス達全員を皇太子を守った功績を認めて正式に奴隷から解放したんだ」
解放された戦士達はそれぞれ、故郷に帰る者や城下に残る者が沢山居るなかで、ランティスとロブサムだけは闘技場に残った。
「俺は皇太子だったし、陛下同様に自分だけの黒近衛を見付けなきゃならない。容赦なく苦言してくれるランティスとロブサムには柄じゃないの一言で断られたしな」
改めて開催された武道大会に出場したランティスは国中から集まった参加者を次々と倒していった。
「やっぱり強いんだねぇランティスさん」
「あぁ、すんなり優勝したよ、勝者は皇帝陛下より褒美が貰える」
「褒美かぁ。ランティスさんなにもらったの?」
「あいつは賞金も地位もすべて断りやがった」
普通に暮らせば三年以上暮らせる賞金も陛下の黒近衛の地位もかなぐり捨ててランティスが欲したものはマーシャル皇国の奴隷制度廃止だった。
「陛下は観戦に来ていた国民の前でランティスの願いを叶える為に奴隷制度廃止を宣言したんだ」
カイルは当時を思い出したのか ナタリアが見たことがない柔らかな表情を浮かべている。
奴隷から国民への解放。
国から最低限の生活の保証と、家が与えられる。これまで奴隷は医師にかかることは難しかったが、国民になれば可能になる。
「いきなり奴隷制度廃止の報せが村に届いたのはそう言うことだったんだぁ」
実際にはロジャースが制度廃止を宣言してからナタリアの村に報せが届くまでにはかなりの日数が経っていたのだ。
「まぁうちの村には奴隷居なかったからなぁ」
「失礼いたします」
幌布を捲り上げ御車席からロデリックが顔を覗かせる。「お話し中失礼します、そろそろ城下に入りますので入城の準備を御願いします」
「ロデリックさんはランティスさんが殿下の師匠になったときってもう殿下付き?」
「ん?はい?」
脈絡なく話を振られ、首を傾げたロデリックが面白かったのかカイルは笑いを堪えて震えている。
「今、殿下がランティスさんに出会った時の話をしてもらってたの」
「あぁ、なるほど。ランティスに殿下が付きまとって口説き落とした時の話ですね」
口説き落としたのはともかく付きまとうとはどういう事だろう。
「ロデリック、人聞きの悪い言い方をするな、ナタリアが誤解するだろうが。俺はランティスが了承をするまで与えられた仕事を全うしただけだぞ」
「当時の殿下が与えられた仕事は確かに闘技場の管理でしたが、他の公務を抜け出しては通い詰め、終いにはランティスが頷くまで城へは帰らないと言い出した時には困りましたよ私」
「そうだったか?」
「はい、他の側近にも泣き付かれて殿下の護衛の任を渋々引き受けた時にはランティスかなり窶れてましたし」
ランティスの時もカイルに諦めと言う二文字は存在しなかったらしい。
行方不明のナターシャを探し続けていたと言いカイルの忍耐強さはどうやら子供の頃から培われたもののようだ。
「ナタリア様もそろそろ入城となりますのでご準備を御願いしたいのですが」
どうやら楽な男物の衣服とは御別れらしい。
「城下で待ってちゃ駄目ですよね?」
「駄目です」
「駄目だな」
声の重なったロデリックとカイルを交互に見比べナタリアは盛大な溜め息を吐いた。
馬車の不規則な揺れはナタリアの睡魔を呼び起こしていく。
カイルの少年時代の話に耳を傾け、当時のカイルと今も護衛として馬車を守るランティスの話はとても興味深く、思いがけずナタリアの旅の楽しみになっている。
「闘技場を任された後、その日の試合は中止された、後日改めて開催することになったんだが、陛下がランティス達全員を皇太子を守った功績を認めて正式に奴隷から解放したんだ」
解放された戦士達はそれぞれ、故郷に帰る者や城下に残る者が沢山居るなかで、ランティスとロブサムだけは闘技場に残った。
「俺は皇太子だったし、陛下同様に自分だけの黒近衛を見付けなきゃならない。容赦なく苦言してくれるランティスとロブサムには柄じゃないの一言で断られたしな」
改めて開催された武道大会に出場したランティスは国中から集まった参加者を次々と倒していった。
「やっぱり強いんだねぇランティスさん」
「あぁ、すんなり優勝したよ、勝者は皇帝陛下より褒美が貰える」
「褒美かぁ。ランティスさんなにもらったの?」
「あいつは賞金も地位もすべて断りやがった」
普通に暮らせば三年以上暮らせる賞金も陛下の黒近衛の地位もかなぐり捨ててランティスが欲したものはマーシャル皇国の奴隷制度廃止だった。
「陛下は観戦に来ていた国民の前でランティスの願いを叶える為に奴隷制度廃止を宣言したんだ」
カイルは当時を思い出したのか ナタリアが見たことがない柔らかな表情を浮かべている。
奴隷から国民への解放。
国から最低限の生活の保証と、家が与えられる。これまで奴隷は医師にかかることは難しかったが、国民になれば可能になる。
「いきなり奴隷制度廃止の報せが村に届いたのはそう言うことだったんだぁ」
実際にはロジャースが制度廃止を宣言してからナタリアの村に報せが届くまでにはかなりの日数が経っていたのだ。
「まぁうちの村には奴隷居なかったからなぁ」
「失礼いたします」
幌布を捲り上げ御車席からロデリックが顔を覗かせる。「お話し中失礼します、そろそろ城下に入りますので入城の準備を御願いします」
「ロデリックさんはランティスさんが殿下の師匠になったときってもう殿下付き?」
「ん?はい?」
脈絡なく話を振られ、首を傾げたロデリックが面白かったのかカイルは笑いを堪えて震えている。
「今、殿下がランティスさんに出会った時の話をしてもらってたの」
「あぁ、なるほど。ランティスに殿下が付きまとって口説き落とした時の話ですね」
口説き落としたのはともかく付きまとうとはどういう事だろう。
「ロデリック、人聞きの悪い言い方をするな、ナタリアが誤解するだろうが。俺はランティスが了承をするまで与えられた仕事を全うしただけだぞ」
「当時の殿下が与えられた仕事は確かに闘技場の管理でしたが、他の公務を抜け出しては通い詰め、終いにはランティスが頷くまで城へは帰らないと言い出した時には困りましたよ私」
「そうだったか?」
「はい、他の側近にも泣き付かれて殿下の護衛の任を渋々引き受けた時にはランティスかなり窶れてましたし」
ランティスの時もカイルに諦めと言う二文字は存在しなかったらしい。
行方不明のナターシャを探し続けていたと言いカイルの忍耐強さはどうやら子供の頃から培われたもののようだ。
「ナタリア様もそろそろ入城となりますのでご準備を御願いしたいのですが」
どうやら楽な男物の衣服とは御別れらしい。
「城下で待ってちゃ駄目ですよね?」
「駄目です」
「駄目だな」
声の重なったロデリックとカイルを交互に見比べナタリアは盛大な溜め息を吐いた。
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