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なぜお前がここにいる!?
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どうやら風花はあの後朝まで爆睡したようで、朝食の焼いたトーストとベーコンエッグの良い匂いに釣られて目が覚めた。
今日は出かける予定もないため寝癖もそのまま、長い背中まである髪を放置してポリポリと頭をかきながら二階にある私室を出て階段を下りていく。
「おはよう……なんであんたが家でご飯食べてるのよ!」
「風花おはよう、よく眠れたか?」
リビングにおかれたテーブルでサラダを食べながら、右手をあげている明良君の姿に驚き声を上げる。
「明良く~ん、コーヒーと紅茶と緑茶なにが良い?」
「風子さん、コーヒーでお願いします」
風子と言うのは風花の母の名前だ。
(馴染んでる……なんかスゲー馴染んでる)
「明良君は何か趣味があるのかい?」
「そうですね……身体を動かすのが好きですね」
「明良さん! ここの問題が解らないんですが」
「ん~これかぁ、これはこの方程式を使って……こうだよ」
「すげぇ! うちの姉貴と比べ物にならないくらい解りやすい」
ちなみに前者が風花の父の幸人で後者が弟の空也だ。
「ほらいつまでも突っ立ってないで明良君にコーヒー運んで、風花も早く食べてちょうだい、ちっとも洗い物が片付かないんだから」
そう言って風子からブラックコーヒーを手渡され、冷蔵庫からコーヒーミルクポーションとスティックシュガーを取り出してしぶしぶ明良のところへ運んだあと、風花は自分の指定席に座り、自分用のホットミルクを口に含む。
少しだけ加えた蜂蜜がミルクに溶けていて風花は少しだけ落ち着くことが出来た。
「しかし風花も隅に置けないぁ、男の子に興味ないのかと思っていたが、まさかこんな格好いい彼氏を連れてくるなんてなぁ」
「彼氏じゃない!」
「またまたぁ、照れるな照れるな。 なぁ母さん?」
「そうねっ、あら! もうこんな時間、幸人さん映画遅れちゃうわ! それじゃ明良君はゆっくりしていってね」
「本当だ、明良君またいつでも来なさい」
「はいありがとうございます。 いってらっしゃい」
にこやかにお見送りする明良の外面の良さに、風花は危うく食べかけの食パンを落とすところだった。
(誰だお前!)
母達は出かけるようだが、空也が居るから二人きりはないだろうと油断していると、部活用のリュックを担いでしまった。
「姉ちゃん俺部活行ってくるから」
「いやぁー! 行かないで!」
助けを求めて伸ばした手は、空也が憎らしくなるほどに華麗に躱されて空を切る。
「それじゃ明良さん、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「のぉー!」
空也に救いの手を求めて伸ばした手は握られることはなく、無情にも部活のユニフォームやスパイクが入ったリュックを持った空也は、姉を王子の皮を被った魔王から救うことなく、それどころか魔王に愛想を振りまいて出ていってしまった。
「さて、風花? 酷いんじゃないかな、いくら優しい俺でもご家族の前で邪険にされるのは傷付くなぁ」
「ウギャー!」
背中から抱きつかれて耳元に呟かれ、吹き掛けられてピキッと身体が硬直した。
(近いなんてもんじゃない、ゾワッといったよいま!?)
地味でオタクな風花にとって異性と触れ合った経験など、弟と夕飯の唐揚げの争奪戦で取っ組み合いをしたくらいしかないのだ。
「……風花?」
反応が帰ってこない風花を訝しんだ明良は気を良くしたようにしつつ、頭頂に顔を近づけるとチュッと小さなリップ音を立てて唇を寄せた。
「うわぁー!?」
風花は我に返り拘束を外してソファーを飛び越えて隠れる。
(なんだ、なんだ、何なんだぁ!?)
「アハハハっ、やっぱり風花は面白いね」
「面白くない!」
「ほらご飯を食べたら出かけるよ?」
「どこに!?」
「ないしょ~」
とぼける明良のペースに振り回されて、食事を済ませると、着替えておいでとリビングから追い出された。
「ちょっ、まだ食器下げてないんだけど!」
「早くね~」
リビングに入ろうとしたら内側から引っ張られて入れず、風花は渋々私室へと戻った。
「着替えろって言われても何を着ろと?」
取り敢えずクローゼットを開けて衣装箪笥を覗き込む。
中には楽だからと買っておいた裏起毛のパーカーとジーンズが数点……メンズ物の服ばかりでデートに来て行くようなおしゃれな服がほとんど見当たらない。
「……これでいっか?」
黒いフード付きのパーカーを取り出して、着ていた服を無造作に脱ぎ捨てる。
(外套も着るけれど中、にもう一枚着たほうが良いかな……)
見せるわけじゃないからと適当に引っ張り出した好きなアニメキャラクターが描かれた痛Tシャツを着ようと袖を通した所で、ガチャリと私室の扉が開いた。
ブラジャー姿で両腕を上げたまま、入ってきた明良と目があった。
「準備でき……おっと意外と有るな……役得、役得」
名残惜しげに閉まっていく扉……
(みっ、見られた……)
「ギャー!」
今日は出かける予定もないため寝癖もそのまま、長い背中まである髪を放置してポリポリと頭をかきながら二階にある私室を出て階段を下りていく。
「おはよう……なんであんたが家でご飯食べてるのよ!」
「風花おはよう、よく眠れたか?」
リビングにおかれたテーブルでサラダを食べながら、右手をあげている明良君の姿に驚き声を上げる。
「明良く~ん、コーヒーと紅茶と緑茶なにが良い?」
「風子さん、コーヒーでお願いします」
風子と言うのは風花の母の名前だ。
(馴染んでる……なんかスゲー馴染んでる)
「明良君は何か趣味があるのかい?」
「そうですね……身体を動かすのが好きですね」
「明良さん! ここの問題が解らないんですが」
「ん~これかぁ、これはこの方程式を使って……こうだよ」
「すげぇ! うちの姉貴と比べ物にならないくらい解りやすい」
ちなみに前者が風花の父の幸人で後者が弟の空也だ。
「ほらいつまでも突っ立ってないで明良君にコーヒー運んで、風花も早く食べてちょうだい、ちっとも洗い物が片付かないんだから」
そう言って風子からブラックコーヒーを手渡され、冷蔵庫からコーヒーミルクポーションとスティックシュガーを取り出してしぶしぶ明良のところへ運んだあと、風花は自分の指定席に座り、自分用のホットミルクを口に含む。
少しだけ加えた蜂蜜がミルクに溶けていて風花は少しだけ落ち着くことが出来た。
「しかし風花も隅に置けないぁ、男の子に興味ないのかと思っていたが、まさかこんな格好いい彼氏を連れてくるなんてなぁ」
「彼氏じゃない!」
「またまたぁ、照れるな照れるな。 なぁ母さん?」
「そうねっ、あら! もうこんな時間、幸人さん映画遅れちゃうわ! それじゃ明良君はゆっくりしていってね」
「本当だ、明良君またいつでも来なさい」
「はいありがとうございます。 いってらっしゃい」
にこやかにお見送りする明良の外面の良さに、風花は危うく食べかけの食パンを落とすところだった。
(誰だお前!)
母達は出かけるようだが、空也が居るから二人きりはないだろうと油断していると、部活用のリュックを担いでしまった。
「姉ちゃん俺部活行ってくるから」
「いやぁー! 行かないで!」
助けを求めて伸ばした手は、空也が憎らしくなるほどに華麗に躱されて空を切る。
「それじゃ明良さん、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「のぉー!」
空也に救いの手を求めて伸ばした手は握られることはなく、無情にも部活のユニフォームやスパイクが入ったリュックを持った空也は、姉を王子の皮を被った魔王から救うことなく、それどころか魔王に愛想を振りまいて出ていってしまった。
「さて、風花? 酷いんじゃないかな、いくら優しい俺でもご家族の前で邪険にされるのは傷付くなぁ」
「ウギャー!」
背中から抱きつかれて耳元に呟かれ、吹き掛けられてピキッと身体が硬直した。
(近いなんてもんじゃない、ゾワッといったよいま!?)
地味でオタクな風花にとって異性と触れ合った経験など、弟と夕飯の唐揚げの争奪戦で取っ組み合いをしたくらいしかないのだ。
「……風花?」
反応が帰ってこない風花を訝しんだ明良は気を良くしたようにしつつ、頭頂に顔を近づけるとチュッと小さなリップ音を立てて唇を寄せた。
「うわぁー!?」
風花は我に返り拘束を外してソファーを飛び越えて隠れる。
(なんだ、なんだ、何なんだぁ!?)
「アハハハっ、やっぱり風花は面白いね」
「面白くない!」
「ほらご飯を食べたら出かけるよ?」
「どこに!?」
「ないしょ~」
とぼける明良のペースに振り回されて、食事を済ませると、着替えておいでとリビングから追い出された。
「ちょっ、まだ食器下げてないんだけど!」
「早くね~」
リビングに入ろうとしたら内側から引っ張られて入れず、風花は渋々私室へと戻った。
「着替えろって言われても何を着ろと?」
取り敢えずクローゼットを開けて衣装箪笥を覗き込む。
中には楽だからと買っておいた裏起毛のパーカーとジーンズが数点……メンズ物の服ばかりでデートに来て行くようなおしゃれな服がほとんど見当たらない。
「……これでいっか?」
黒いフード付きのパーカーを取り出して、着ていた服を無造作に脱ぎ捨てる。
(外套も着るけれど中、にもう一枚着たほうが良いかな……)
見せるわけじゃないからと適当に引っ張り出した好きなアニメキャラクターが描かれた痛Tシャツを着ようと袖を通した所で、ガチャリと私室の扉が開いた。
ブラジャー姿で両腕を上げたまま、入ってきた明良と目があった。
「準備でき……おっと意外と有るな……役得、役得」
名残惜しげに閉まっていく扉……
(みっ、見られた……)
「ギャー!」
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