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失業保険が受けられない!?
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第38話 失業保険が受けられない!?
先頃の大手の機械メーカーが経済界にもたらした損失ショックと、石油産出国でおきた内乱は遠く離れた日本で俺の元いた会社のように小さな会社を押し流し、綺麗な更地になるほどの勢いでさらっていった。
そのおかげで毎日のようにネットやテレビなどの情報配信では仕事を求める人々が公園で夜を明かしたり、収入がなく食事を採れない人のために、炊き出しなども行われているようだった。
テレビを見て美枝子の用意してくれたこんがりトーストを噛りながら経済成長が低迷しているこちらと、昨日までいた異世界とのギャップの激しさを思い出した。
あまりに違うこちらとあちらの世界が自由に行き来出来るようになれば良いなぁと、思いながら時計を見ればいつの間にか八時半を過ぎていた。
初回認定日は九時から始まるから間に合うよう来所するようにと言われていたのだ。
「まずい! 出遅れた!」
前回貰った雇用保険受給者のしおりと筆記用具を鞄に入れる。
途中で履歴書やパスポート用の写真を撮れる撮影機に寄って行く予定だから本当にギリギリだ。
混雑を見込んで朝早く来る予定だった職業安定所はラッシュ時の通勤列車並みに混んでいた。
人混みを掻き分けて、失業保険の認定を受ける人のために目線よりも高い壁に貼られた案内にしたがって、会場である二階へと階段に足をかけた。
「おっ! 沖田じゃないか?」
人混みから声を掛けられて振り向けば、小太りなオヤジがやってくる。
登頂部を守る筈の髪は薄くなり大変心もとない。
こんな知り合い居たっけか?
「どちら様でしょうか?」
「はぁ、俺だよ。 白河、白河彰吾(しらかわしょうご)! 中学まで一緒だったろうが」
白河彰吾と言う名前には覚えがある……幼稚園から中学までの同級生で、確か噂では大学まで出たあと、他県の大手自動車生産会社に就職したはずだ。
昔は女子からカッコイイと騒がれていた白河も、今ではすっかり良いオヤジだ。
まぁ、俺も人の事は言えないけどな、しかしお互いに年取ったなぁ。
「悪い悪い、あんまりに中学の頃から雰囲気が変わってるから気が付かなかったんだよ」
「あーあー、わかってるよどうせ、薄くなったって言いたいんだろ?」
「あははははっ、所でなんでこっちに居るんだ? 県外に就職したって聞いてたけど」
腕組みをしたまま、憮然として見せる彰吾を促して二階の会議室へ入った。
「この間の経済ショックの余波をもろに食らったんだよ。 同じ職場だった妻も一緒にクビになったからさ、心機一転、実家のあるこっちに帰ってきたんだ」
へぇ、結婚してたんだな、てか夫婦二人で失業とか災難な。
「はい、それでは皆様お待たせいたしました。 初回認定を始めさせていただきます」
室内に現れた職員の人声で彰吾との昔話はお開きになった。
そして判明したのは、俺は失業保険が受けられないと言う衝撃的な事実だった。
なんでも起業する人は就職しているものと見なされるらしい。
不正受給することも可能かもしれないが、俺の性格上もしバレたらと思うと無理だった。
だぁー! 予定が狂った! こうなったら仕方がない! とっとと会社を作るしかない。
彰吾とのは後日改めて会う約束をして連絡先を交換した。
起業について色々調べてみたが、今ひとつ分からない。
必要な書類は近場の総合事務所さんに確認したら、すぐに作ってくれるらしいので、お願いした。
実印と印鑑証明が必要だということなので、美枝子から実印を借りようとしたが、新しく作るように言われて判子屋さんへ行って作ることにした。
昔は手彫りが主流で時間が掛かった実印だが、今では数時間もあれば作れるらしい。
会社用の判子も必要だと言われたので作っておく。
う~ん、どうしよう。 会社名は入っていなくても問題ないらしいが、色々悩んで会社名を異世界の英訳で『スピリットワールド』とした。
捻りもセンスもないかもしれないが、これから異世界(スピリットワールド)を相手に商売をしていくからこの社名にした。
出来上がった実印を片手に市役所に行って実印登録と印鑑証明をとり、ついでに新しく銀行口座も作った。
書類の中に、「定款」という、事業内容を明記する部分があって会社で今後どういう事業を行うか書かなくてはいけない項目があったので、総合事務所さんに勧められた通り後々応用が効くようにある程度おおざっぱに色んな事業をとりあえず書いておく事にした。
食品生産から国家運営までと、世界を又にかける大手の書いた事業内容を参考に書いたので、ほぼすべての商売を網羅できるだろう。
書類が出来上がったと言う連絡を受けて、書類に記載して社判を必要な箇所にポンポン押していく。
ちなみに今回は個人事業主として起業することにした。
株式会社にすると初期費用が高額になるらしく、無職の俺にはとてもじゃないが払えない。
必要な金額の収入印紙を貼り付けて、書類を公証役場に提出した。
電子定款(でんしていかん)と言うデータディスクと、冊子をもらったのでその足で法務局へ提出に行く。
時間的にギリギリだったので間に合うか怪しかったが、滑り込みセーフで間に合った。
受け取って貰えるか不安だったが、案外あっさり受理されて、拍子抜けだった。
紙の封筒に入った受け取り証明書を手渡され一週間後に確認に来るように言われた。
審査や処理などでどうしても時間がかかるらしい。
青色申告と言うものがあるらしく、家族の給料を経費に出来ると教えられたのですることにした。
人手が足りないときは蛍にバイトをして貰うこともあるかもしれないしな。
色々詰め込みすぎてぐったりしながら、家族の待つ暖かな自宅へと帰路についた。
先頃の大手の機械メーカーが経済界にもたらした損失ショックと、石油産出国でおきた内乱は遠く離れた日本で俺の元いた会社のように小さな会社を押し流し、綺麗な更地になるほどの勢いでさらっていった。
そのおかげで毎日のようにネットやテレビなどの情報配信では仕事を求める人々が公園で夜を明かしたり、収入がなく食事を採れない人のために、炊き出しなども行われているようだった。
テレビを見て美枝子の用意してくれたこんがりトーストを噛りながら経済成長が低迷しているこちらと、昨日までいた異世界とのギャップの激しさを思い出した。
あまりに違うこちらとあちらの世界が自由に行き来出来るようになれば良いなぁと、思いながら時計を見ればいつの間にか八時半を過ぎていた。
初回認定日は九時から始まるから間に合うよう来所するようにと言われていたのだ。
「まずい! 出遅れた!」
前回貰った雇用保険受給者のしおりと筆記用具を鞄に入れる。
途中で履歴書やパスポート用の写真を撮れる撮影機に寄って行く予定だから本当にギリギリだ。
混雑を見込んで朝早く来る予定だった職業安定所はラッシュ時の通勤列車並みに混んでいた。
人混みを掻き分けて、失業保険の認定を受ける人のために目線よりも高い壁に貼られた案内にしたがって、会場である二階へと階段に足をかけた。
「おっ! 沖田じゃないか?」
人混みから声を掛けられて振り向けば、小太りなオヤジがやってくる。
登頂部を守る筈の髪は薄くなり大変心もとない。
こんな知り合い居たっけか?
「どちら様でしょうか?」
「はぁ、俺だよ。 白河、白河彰吾(しらかわしょうご)! 中学まで一緒だったろうが」
白河彰吾と言う名前には覚えがある……幼稚園から中学までの同級生で、確か噂では大学まで出たあと、他県の大手自動車生産会社に就職したはずだ。
昔は女子からカッコイイと騒がれていた白河も、今ではすっかり良いオヤジだ。
まぁ、俺も人の事は言えないけどな、しかしお互いに年取ったなぁ。
「悪い悪い、あんまりに中学の頃から雰囲気が変わってるから気が付かなかったんだよ」
「あーあー、わかってるよどうせ、薄くなったって言いたいんだろ?」
「あははははっ、所でなんでこっちに居るんだ? 県外に就職したって聞いてたけど」
腕組みをしたまま、憮然として見せる彰吾を促して二階の会議室へ入った。
「この間の経済ショックの余波をもろに食らったんだよ。 同じ職場だった妻も一緒にクビになったからさ、心機一転、実家のあるこっちに帰ってきたんだ」
へぇ、結婚してたんだな、てか夫婦二人で失業とか災難な。
「はい、それでは皆様お待たせいたしました。 初回認定を始めさせていただきます」
室内に現れた職員の人声で彰吾との昔話はお開きになった。
そして判明したのは、俺は失業保険が受けられないと言う衝撃的な事実だった。
なんでも起業する人は就職しているものと見なされるらしい。
不正受給することも可能かもしれないが、俺の性格上もしバレたらと思うと無理だった。
だぁー! 予定が狂った! こうなったら仕方がない! とっとと会社を作るしかない。
彰吾とのは後日改めて会う約束をして連絡先を交換した。
起業について色々調べてみたが、今ひとつ分からない。
必要な書類は近場の総合事務所さんに確認したら、すぐに作ってくれるらしいので、お願いした。
実印と印鑑証明が必要だということなので、美枝子から実印を借りようとしたが、新しく作るように言われて判子屋さんへ行って作ることにした。
昔は手彫りが主流で時間が掛かった実印だが、今では数時間もあれば作れるらしい。
会社用の判子も必要だと言われたので作っておく。
う~ん、どうしよう。 会社名は入っていなくても問題ないらしいが、色々悩んで会社名を異世界の英訳で『スピリットワールド』とした。
捻りもセンスもないかもしれないが、これから異世界(スピリットワールド)を相手に商売をしていくからこの社名にした。
出来上がった実印を片手に市役所に行って実印登録と印鑑証明をとり、ついでに新しく銀行口座も作った。
書類の中に、「定款」という、事業内容を明記する部分があって会社で今後どういう事業を行うか書かなくてはいけない項目があったので、総合事務所さんに勧められた通り後々応用が効くようにある程度おおざっぱに色んな事業をとりあえず書いておく事にした。
食品生産から国家運営までと、世界を又にかける大手の書いた事業内容を参考に書いたので、ほぼすべての商売を網羅できるだろう。
書類が出来上がったと言う連絡を受けて、書類に記載して社判を必要な箇所にポンポン押していく。
ちなみに今回は個人事業主として起業することにした。
株式会社にすると初期費用が高額になるらしく、無職の俺にはとてもじゃないが払えない。
必要な金額の収入印紙を貼り付けて、書類を公証役場に提出した。
電子定款(でんしていかん)と言うデータディスクと、冊子をもらったのでその足で法務局へ提出に行く。
時間的にギリギリだったので間に合うか怪しかったが、滑り込みセーフで間に合った。
受け取って貰えるか不安だったが、案外あっさり受理されて、拍子抜けだった。
紙の封筒に入った受け取り証明書を手渡され一週間後に確認に来るように言われた。
審査や処理などでどうしても時間がかかるらしい。
青色申告と言うものがあるらしく、家族の給料を経費に出来ると教えられたのですることにした。
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