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味噌味のすいとん
しおりを挟む 城の厨房は二ヶ所で管理されている、王族の食事を用意する管理が厳重な特別厨房、そして城に勤める全ての者達の食事を一手に引き受けている大食堂だ。
既に食事時のピークは過ぎているため、食事をとっている人数は少ない。
「料理長は厨房にいるかな?」
「料理長ですか、それなら……殿下!」
空いているテーブルを拭き清めているエプロン姿の女性に声を掛けると、こちらに気がついた途端に驚いたように頭を下げた。
「もっ、申し訳ございません。殿下が大食堂にいらっしゃるとは思わず失礼いたしました」
「あ、気にしなくていいよ。 城の皆が元気に働けるのは君や食堂を管理している皆が頑張ってくれているからだからね。 ところで料理長は厨房にいるかい?」
「はい、そろそろ夕食の準備に取り掛かっている時間かと……すぐに呼んで参ります!」
持っていた布巾を洗い桶に置き、厨房へ駆け込んでいくと中から料理長らしい男性がやって来た。
「これは殿下、お初にお目にかかります、大食堂料理長ブルックスと申します」
突然現れた私に慌てて王族に対する礼をしようとしたので慌てて止める。
「ブルックス、突然来てすまなかったね、実はお願いがあって来たんだ」
「お願いでございますか?」
「うん、実は小麦を外皮ごと擦った小麦粉が身体に良いらしくてね、美味しく料理できないかと言う話になったんだ」
冷害や飢饉について、大食堂で仕入れをする際に少しずつ麦やその他の食物の価格が上がっていることは大量の食材を扱うブルックスは熟知しているだろう。
まだ兆しだけだと言うが、既に飢饉は始まっているのだ。
「そうですね、外皮ごと擦った小麦粉の料理ですか、パンやパンがゆくらいしか思い出せないんですが」
「うん、実は他国で食べた食事の中に、パンを焼く前ように水で練り上げて細長く切ったものを茹でてスープに浸したものがあってね」
「ほうほう、そのような料理が」
真剣に聞いてくれる料理長には悪いが、私が今世で訪れた事があるのはレイス王国、ドラグーン王国、そしてヒス国だけで、その全てで説明した料理は出てきていない。
それは前世の母国、日本で食べられていた郷土料理だった。
とはいっても全粒粉ではなくて薄力粉で作るのが主流だった事もあり、食味は落ちるだろう。
「ほうほう、殿下が持ち込まれたミソなるあの茶色い物体を使用するのですか」
「そうなんだ、今後あの茶色い調味料ミソを国内で量産しようと検討しているから全粒粉と一緒にレシピ開発に協力して欲しいんだ」
「あー、私どもは構いませんが、特別厨房の料理長の方がよろしいのではありませんか」
「勿論特別厨房の料理長にも開発の依頼はするつもりだけど、大衆に受け入れられる料理を目指しているからね」
全粒粉だけで食料事情が緩和されなければ、ドングリでも広い集めてクッキーでもなんでも作らなくちゃならない。
飢饉が避けれないなら出来る限りの多くの国民を救えるように足掻くしかないだろう。
「とりあえず試作品で構わないから十人前ほど作ってほしい」
そう告げれば、料理長は本日の仕込みを部下に任せて、自ら厨房の奥に進むと倉庫から事前に粉末に加工してあった全粒粉を取り出して来た。
「これをどうするのですか?」
「そうですね……では」
流石に王子自ら料理は出来ないので、指示だけ出して後はお任せだ。
気候に左右されず道端でもわさわさ生えてくる厄介者の雑草は、ドラグーン王国では貴重な食料となっているらしく、一緒に煮込んで味噌の風味と肉で出汁をとった汁の中に薄く伸ばした全粒粉が浮いている。
ドラグーン王国で見つけた漆職人が作った朱塗りのお汁茶碗に出来たすいとん擬きをよそって執務室へ戻れば、話を聞き付けたらしい母上がやって来ていた。
「健康に良い料理をいただけると聞いてまっていたの!」
成人を迎えた子供がいるようには見えない若々しい母上に最初の一杯を手渡した。
「食べてみて感想をお願いします、出来れば母上とキャロラインにはこの小麦粉を社交界のご婦人がたに広めていただきたいので」
続いてキャロラインに手渡す。
「まさかのはっと」
「鳩?」
陛下や宰相等に次々と渡していく。
「違うわ、はっと! 郷土料理の名前よ」
同じ小麦を使った麺料理でもうどんや素麺、ほうとうなど呼び方が違うのとおんなじかな。
「それじゃあ食べようか!」
陛下の許しを得て皆、無言で食べていく。
はじめは器に口をつけるなどと渋った者もいたけれど陛下が率先して食しているため諦めたようだ。
「ふむ、素朴な味付けだが野菜と肉の旨味がスープに溶け出しているし、そのスープが染み込んだこの平たいものも旨いな」
綺麗にスープを飲み干してチラチラと視線を寄越すため、私の分を進呈する。
「この小麦だんご以外と腹持ちしそうだな」
「汁を吸って嵩が増えるんですよ」
「まぁ陛下、ずるいですわ!」
ぷりぷりとしたすいとんの食感が気に入ったのか母上の反応も上々だ。
「小麦の外皮ごと擦った小麦粉で作っておりますからお腹の調子を整えてくれますよ」
キャロラインの言葉に室内にいた侍女や女官が色めき立つ。
「不要な物を外に出すことで肌艶が良くなり、食べ過ぎなければスタイルも良くなります」
「ひ、姫様。そちらの料理はどちらでいただけますか?」
我慢しきれなかったらしい若い侍女がキャロラインに声を掛けベテランの女官に注意されている。
「食べたいのであれば料理長にお願いして見ましょう」
キャロラインが告げるとわぁっと歓声が上がる。
「とりあえず受け入れられそうかな」
「そうですね、王公貴族から広めれば民に広がるのも早いですよきっと」
既に食事時のピークは過ぎているため、食事をとっている人数は少ない。
「料理長は厨房にいるかな?」
「料理長ですか、それなら……殿下!」
空いているテーブルを拭き清めているエプロン姿の女性に声を掛けると、こちらに気がついた途端に驚いたように頭を下げた。
「もっ、申し訳ございません。殿下が大食堂にいらっしゃるとは思わず失礼いたしました」
「あ、気にしなくていいよ。 城の皆が元気に働けるのは君や食堂を管理している皆が頑張ってくれているからだからね。 ところで料理長は厨房にいるかい?」
「はい、そろそろ夕食の準備に取り掛かっている時間かと……すぐに呼んで参ります!」
持っていた布巾を洗い桶に置き、厨房へ駆け込んでいくと中から料理長らしい男性がやって来た。
「これは殿下、お初にお目にかかります、大食堂料理長ブルックスと申します」
突然現れた私に慌てて王族に対する礼をしようとしたので慌てて止める。
「ブルックス、突然来てすまなかったね、実はお願いがあって来たんだ」
「お願いでございますか?」
「うん、実は小麦を外皮ごと擦った小麦粉が身体に良いらしくてね、美味しく料理できないかと言う話になったんだ」
冷害や飢饉について、大食堂で仕入れをする際に少しずつ麦やその他の食物の価格が上がっていることは大量の食材を扱うブルックスは熟知しているだろう。
まだ兆しだけだと言うが、既に飢饉は始まっているのだ。
「そうですね、外皮ごと擦った小麦粉の料理ですか、パンやパンがゆくらいしか思い出せないんですが」
「うん、実は他国で食べた食事の中に、パンを焼く前ように水で練り上げて細長く切ったものを茹でてスープに浸したものがあってね」
「ほうほう、そのような料理が」
真剣に聞いてくれる料理長には悪いが、私が今世で訪れた事があるのはレイス王国、ドラグーン王国、そしてヒス国だけで、その全てで説明した料理は出てきていない。
それは前世の母国、日本で食べられていた郷土料理だった。
とはいっても全粒粉ではなくて薄力粉で作るのが主流だった事もあり、食味は落ちるだろう。
「ほうほう、殿下が持ち込まれたミソなるあの茶色い物体を使用するのですか」
「そうなんだ、今後あの茶色い調味料ミソを国内で量産しようと検討しているから全粒粉と一緒にレシピ開発に協力して欲しいんだ」
「あー、私どもは構いませんが、特別厨房の料理長の方がよろしいのではありませんか」
「勿論特別厨房の料理長にも開発の依頼はするつもりだけど、大衆に受け入れられる料理を目指しているからね」
全粒粉だけで食料事情が緩和されなければ、ドングリでも広い集めてクッキーでもなんでも作らなくちゃならない。
飢饉が避けれないなら出来る限りの多くの国民を救えるように足掻くしかないだろう。
「とりあえず試作品で構わないから十人前ほど作ってほしい」
そう告げれば、料理長は本日の仕込みを部下に任せて、自ら厨房の奥に進むと倉庫から事前に粉末に加工してあった全粒粉を取り出して来た。
「これをどうするのですか?」
「そうですね……では」
流石に王子自ら料理は出来ないので、指示だけ出して後はお任せだ。
気候に左右されず道端でもわさわさ生えてくる厄介者の雑草は、ドラグーン王国では貴重な食料となっているらしく、一緒に煮込んで味噌の風味と肉で出汁をとった汁の中に薄く伸ばした全粒粉が浮いている。
ドラグーン王国で見つけた漆職人が作った朱塗りのお汁茶碗に出来たすいとん擬きをよそって執務室へ戻れば、話を聞き付けたらしい母上がやって来ていた。
「健康に良い料理をいただけると聞いてまっていたの!」
成人を迎えた子供がいるようには見えない若々しい母上に最初の一杯を手渡した。
「食べてみて感想をお願いします、出来れば母上とキャロラインにはこの小麦粉を社交界のご婦人がたに広めていただきたいので」
続いてキャロラインに手渡す。
「まさかのはっと」
「鳩?」
陛下や宰相等に次々と渡していく。
「違うわ、はっと! 郷土料理の名前よ」
同じ小麦を使った麺料理でもうどんや素麺、ほうとうなど呼び方が違うのとおんなじかな。
「それじゃあ食べようか!」
陛下の許しを得て皆、無言で食べていく。
はじめは器に口をつけるなどと渋った者もいたけれど陛下が率先して食しているため諦めたようだ。
「ふむ、素朴な味付けだが野菜と肉の旨味がスープに溶け出しているし、そのスープが染み込んだこの平たいものも旨いな」
綺麗にスープを飲み干してチラチラと視線を寄越すため、私の分を進呈する。
「この小麦だんご以外と腹持ちしそうだな」
「汁を吸って嵩が増えるんですよ」
「まぁ陛下、ずるいですわ!」
ぷりぷりとしたすいとんの食感が気に入ったのか母上の反応も上々だ。
「小麦の外皮ごと擦った小麦粉で作っておりますからお腹の調子を整えてくれますよ」
キャロラインの言葉に室内にいた侍女や女官が色めき立つ。
「不要な物を外に出すことで肌艶が良くなり、食べ過ぎなければスタイルも良くなります」
「ひ、姫様。そちらの料理はどちらでいただけますか?」
我慢しきれなかったらしい若い侍女がキャロラインに声を掛けベテランの女官に注意されている。
「食べたいのであれば料理長にお願いして見ましょう」
キャロラインが告げるとわぁっと歓声が上がる。
「とりあえず受け入れられそうかな」
「そうですね、王公貴族から広めれば民に広がるのも早いですよきっと」
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