あの頃の君に…

百千藤(もちと)

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第四話 

金髪の優等生と浮かんでくるピース

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葉「よーし!手当て完了!!顔の傷も見た感じ残りそうじゃないし大丈夫だと思うよ。」

百合依「ありがとう…」

葉「うん。てか、この後どーする?学校サボって抜け出しちゃう?」

百合依「バカじゃないのw」

(ガラガラッ)

会話の途中で後ろの扉が開いた。

椛「あれ…?楸君?」

葉「あっ!椛先生おはようございます。先生、サボってる訳じゃないすよ!人助けっす。」

先生「人助け?誰を…」

百合依「おはようございます。」

僕の後ろから彼女が顔を出し先生に挨拶をした。

先生「あなたは…確か一年の一本百合依さん。」

先生は彼女の姿を見た後僕に目を移し何も言わずにそのまま自分のデスクに向かった。

先生「本当に人助けみたいね!先生はてっきり楸君がまた女の子を保健室に連れ込んでるのかと思っちゃったよw」

コイツ…ありもしない冗談を言いやがって!
先生のその言葉に彼女がすぐに反応し僕の方をじっと睨んでいる。

葉「いやっ!一本さん嘘だよ。先生が面白くない冗談を言ってるだけだからね。」

先生「あら!そうだっけ?この間だってカーテン開けたら」

葉「そんな事一度もねーよw」

先生「うそー!だってあの時私が避妊具あげたでしょw」

葉「もらったことねーよ!逆にその光景を見たなら止めんかい。」

そんなくだらないやりとりをしてると可笑しかったのか、彼女が大声で笑い出した。

百合依「アッハッハッハ!おもしろい」


涙を拭いながら笑ってる彼女の顔は、先ほどいじめられていたとは思えないくらいに綺麗に見えた。

百合依「あー久しぶりにこんなに笑ったかも。」

葉「そう…ならよかった。」

先生「ねぇ一本さん、聞いちゃうけどその怪我はどーしたの?」

百合依「…何でもありません。自分で解決できるのでご心配をなく。でもたまに保健室に来るかもしれないのでその時はお世話になるかもです。」

先生「わかったわ。いつでもここにいらっしゃい、先生はいつでもここに居るから。」

百合依「はい…ありがとうございます。」

椛先生は彼女の発した言葉におそらく悟ったのだろう。そこから先は、何も聞かずに二人で別の会話をしている。
この人は、二日酔いで学校に来るほど酒癖が悪いが生徒の心情を理解している良い先生だと思う。
きっと、彼女の味方にもなってくれるだろう。

そう思いながら二人の会話を聞いていると突然扉が開いた。


「やっぱりここにいたか楸!!」

葉「はっ!」

「お前何俺の授業サボってんだ!」

椛「あら橘先生、おはようございます。」

橘「これはこれは椛先生おはようございます。お仕事の邪魔してしてすみません!すぐにこいつを連れて行くので。楸早く行くぞ!」

葉「先生!僕サボってる訳じゃないすから!まぁバスケだるいなと思ってましたけど。」

橘「やっぱり思ってたんじゃねーか!早く行くぞ。」

葉「でも体操服今彼女に貸してるのでないっすよ!」

橘「彼女…?お前、六組の一本じゃねーか。」

椛「一本さんが困っている所を助けてあげたらしいですよ。それで授業に出ずに彼女の手当てをしてたんです。そうですよね?」

橘「そうか…だったら良い。でも授業に出ないのは駄目だ単位もあるんだから見学でもしとけ。」


あの頑固な橘がすんなりと人の話を受け入れた?なぜかおかしい。
彼女に何かあるのか?

 「早く行くぞ!」

葉「はーい。あっ!一本さんまたね。」

そう言い僕は、保健室を後にした。体育館に向かってる途中足を止め橘が険しい顔をしながら話しかけてきた。


橘「楸…」

葉「何すか?」

橘「お前、一本と仲が良いのか?」

葉「…?いいや、朝初めて彼女の存在を知りました。だからさっき仲良くなったというか…」

橘「そうか…ならいいんだ。」

葉「どうゆう意味すか?一本さんに対して何かあるんですか?何か彼女に対しての雰囲気がおかしいというか椛先生もそうですけど。」

橘「…」


橘は黙ったまま何も言わずに歩き始めた。
だが、明らかにいつもと様子が違う橘の背中を見ながらきっと一本百合依と教師の間に何かあるに違いないと思いながら僕等は体育館へと向かって行った。


バスケットボールが弾む体育館へ着きシューズの履き替え中に入ると佑や真白達が僕のところへ歩み寄ってきた。

佑「バレちゃったみたいだね。先生に怒られなかった?」

葉「対して怒られなかったよ。」

真白「橘が珍しいな。あの子は調子どんな感じよ?」

葉「傷も大したことなかったから大丈夫かな。後頭から濡れてたから体操服貸してあげたよ。それに、状況を説明したら橘が体育は見学してて良いってさ。」

橘「おい!お前ら、今から試合を始めるからさっさと来い!」

真白「やべー早く行かないと怒られちまうぞ!じゃあ葉俺のプレー見とけよ!」


皆が去って僕は、すみの方で座って試合を見ながら彼女のことを考えていた。
てか、入学してから二ヶ月くらい経つが彼女を一度も見た事がなかった!あれくらいの綺麗な子なら目に入っててもおかしくは無いと思うし皆が噂もするだろう。
そんなことを考えていると誰かに呼ばれて気がし頭をあげると星が目の前に立っていた。

星「葉!さっきから何ボーとしてる?」

葉「え?そんなボーとしてた僕?」

星「ずっと呼んでたんだが…一本百合依の事を考えてたのか?」

葉「まあそうだね…てか待て、星はなんであの子の名前知ってんだ?僕はさっき知ったんだけど!」

星「は?お前覚えてねーの?」

葉「何を?」

星「お前マジかよ…鈍感過ぎねーか?」

葉「は?絡んだ記憶なんてねーよ。」

星「絡んでねーけど俺らはあの女を入学式ん時見ただろ?」

入学式?
僕が思い出せなくて惚けた顔をしていると

星「アイツだよ!遅れて入学式に来て成績トップで新入生代表の挨拶をしてたあの金髪女だよ!!」

金髪…?

葉「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

体育館中に僕の声が鳴り響きみんなが試合中に足を止め僕達の方を見ている。

橘「楸!柊!お前らうるせーぞ!お前らも試合再開しろ。」

葉と星「すいませーん!」

星「葉!お前声でけーよ。」

葉「でかくもなるだろそりゃ!全然気づかなかったんだけど。」

星「挨拶の時名前言ってただろ!」

葉「それよりも金髪に目が行き過ぎて名前なんて覚えてねーよ!え?てか、薺達みんなも気づいてんの?」

星「知ってる!気づいてないのお前だけだぞ。」

葉「マジかよ…」
どーりで気づかないわけだ、でも驚いた!彼女があの金髪の子だったなんて。

星「俺は知っててあの女を助けたんだと思ったんだが違ったか!?」

葉「どーゆう意味?」

星「あの女、いじめてた女子達が言ってたようにいい噂を聞かないぞ。」

葉「星は何か知ってんのか?彼女のこと?もしかして、この学園が絡んでる?」
この言葉に星が少し唇を噛んだ!おそらく当たったみたいだ。

星「俺も詳しいことまで知らないがどーやらこの学園の理事長や教育委員会の人間と繋がってるみたいだぞ。だからあの女はたまにしか出席して来ないみたいだしテストも常に満点みたいだぞ!この意味わかるか?」

葉「テストの答案用紙をもらってるてことか?」

星「そうだ!他の生徒が休日に理事長と二人でいる所を見たらしくて売りやってんじゃねーかとか色々と噂が尽きないぞ。深くはあんま関わらねー方がいいんじゃねーのか?」

なるほど、そういう訳か。
どーりで橘達が彼女を見たときに様子がおかしかった訳か。
少しずつだけど彼女に対してのピースが埋まっていっている気がした。
でもこれはあくまで噂だから本人の口から聞くしかないが…


葉「言ってくれなさそうだなぁ」

星「ん?今なんて言った?」

葉「何でもない!まあその辺はうまくやるよ!何かあったら相談するよ。」

星「お前がそう言うなら止めないけど無理すんなよ。」

葉「ありがとよ!男前」

星「何だそれw」

橘「おーい!お前らもうすぐ授業終わるから片付けろ。」



橘の掛け声で星は片付けに向かい僕も戻る準備を始めた。
みんなより先に体育館を出て僕は保健室に向かったが彼女の姿はそこには既に無かった。
椛先生は教室に戻ったんじゃないかと言っていたが六組の教室にも彼女は戻ってなどなかった…
それ以来彼女が学園に来る事はなかった。

次に僕が彼女に会ったのは、それから二ヶ月後のあの場所だった…






百合依…あの音楽室での事を覚えてるかな?
君のおかげで僕等は夢を見つける事ができたんだ。

あの時作った歌も、そして今も僕は君を思い歌うんだ…

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