あの頃の君に…

百千藤(もちと)

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第一話

始まりの日

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十二年前

初夏の朝方
「ピピピ…ピピピ…ピッガチャン」

「あっちぃ…」
午前六時半、毎朝この時間に目覚ましから起こされて一日が始まる。
僕の名前は楸葉(ひさぎ)、十六歳の高校一年生。

僕の朝はシャワーから始まる。
のんびり浴びた後は朝食の準備をしながら学校に行く支度をして朝のテレビのニュースを見る!
これが僕の日課だ。
かと言って別に時事ネタが好きだという訳でもなく単なる時間潰しの一部に過ぎなくてただ、時間が過ぎるのを待っているだけだ。

「七時過ぎか…そろそろアイツらが来る時間だな。」
そうこう言っていると、インターホンが鳴りいつものメンバーが僕の家に来る。

「鍵開いてるから勝手に入って来い。」そう言うといつもの五人が入って来た。

「葉、おはよーーー!」

「毎朝本当うるさいな、お前ら!なんでいつもそんなに元気なんだよ?」

「そんなクールぶっちゃって言ってるけど、いつも私たちに会いたいくせに!!」
そう言いながら抱きついてくるコイツは楸薺(ひさぎなずな)、僕の妹だ。

「朝からだるいし暑いから離れろ!」

「良いじゃん兄妹なんだし。」
それは関係無い気がするが言うと後がめんどくさくなる気がして話をやめた。
兄妹といっても血が繋がっているわけじゃなく五歳の頃、僕の本当の家族が亡くなり僕一人だけが残され、親戚中をたらい回しにされて最後に辿り着いたのが両親の親友である楸家だった。

薺のおじさんとおばさんが僕をとても可愛がってくれて、僕を養子として迎え入れてくれた。
彼女とは年も同じだったため、家族ぐるみでよく一緒に遊んでいた記憶がある。
家族を失いいじめられていた僕を、励ましそばにいてくれたのはいつも彼女だった。
そんな僕を救ってくれた彼女には、一生頭が上がらない。

薺とは今は一緒に住んでなくて僕だけ一人暮らしをしていて、できるだけおじさんとおばさんに負担をかけたくなくて高校に入ったら少しでも早く自立しようと思い、中学生の頃からアルバイトをしてお金を貯めていた。

両親が僕に残してくれた遺産もあるが、簡単に一人暮らしなんてさせてくれないだろうと思い少しでも働いている姿を見せて、
了承を得ようと思っていた。
そして、高校に入るときにおじさん達に一人暮らしがしたいと半分諦めで頭を下げてお願いすると。

「…おい!!やっと葉が初めて俺たちに頼み事をしてくれたぞ!」と言い、かなり喜んでいた。
僕が、キョトン?とした顔で二人を見ているとおじさんが僕に向かって、「葉!お前俺たちに負担がかかると思って誕生日の時も何も要らない、お年玉も自分の分は薺にあげてと言って今まで一度も受け取らなかっただろ!」

「そんなお前が初めて俺たちに頼み事をしてくれたんだ。だめだなんて言う訳がないだろ!」

おじさんがそう言うとおばさんが僕の方に歩み寄ってきて僕の頭を撫でながら
「葉の好きなように生きなさいと。」と言われた。

頭なんて撫でられたのは母さん以来でそれが懐かしくて嬉しくて鼻の奥がつんと痛み、涙が溢れそうになった。

「ありがとう。」

そう言うと二人は、笑顔で頷くだけだった。
僕は、その言葉だけを告げて部屋に戻り今まで沢山の幸せに触れていたことを思い出しながら涙を流したことを忘れないでおこうと思った。

「佑(たすく)!ほんとあの二人仲良いよね!」

「そうだな。いつも薺が面白がってわざとウザ絡みをして嫌がってる姿を楽しんでんだろう。見てるこっちは飽きないけどな。」
そんな会話をしている小動物のような可愛い顔をした男は榎剣(えのきつるぎ)そして、サラサラな髪をした金髪頭は椿佑(つばきたすく)

「葉!コーヒー勝手に飲むよ!」
そう言って毎朝いつもコーヒーを飲んでいるこの男の名前は、柊星(ひいらぎせい)

「おいおい!○○と○○が熱愛だってよ!全然興味ないけど…星!俺にもコーヒー頂戴。」
そして、最後に黒縁の伊達メガネを掛けてるいつもマイペースなコイツは、梔真白(くちなしましろ)だ。
こいつら四人とは、中学からの付き合いでたまたま好きなロックバンドが一緒で気が合いジャケットやアルバムを全て持ってる僕ん家に毎日来るようになりそれから連むようになった。


「甘め?」

「うーん…?今日は、ブラックがいい。」

「りょーかい!」

そんなやりとりを僕の家でこいつらは、ほぼ毎日のようにやっている。

薺「あっ!!葉の運勢今日、一位じゃん!夢に導いてくれる人との出会いありだって!!良かったね葉。」

葉「そんな相手直ぐに出てくるかよ。てか、お前らあんまりのんびりしてる時間ないんだけど。」

星「え?もうそんな時間?」

剣「ヤバ!」

佑「橘(たちばな)のジジイにまた怒られるぞ!」

真白「星!やっぱコーヒーいらねー!俺先に行くわ!」

薺「ズルい真白!私も怒られたくないから先に行こっと。」

四人「アイツら抜け駆けしやがった!」

星「俺たちも行くぞ!葉急げ」

葉「ちょっと待てって!今鍵閉めてるから。」

剣「みんな走れーー!」

佑「お前こんな暑い中走れっかよ。」

星「ん?どした?葉。」

葉「ううん、なんでもない…」

バタバタした忙しない毎日
でも、それでも楽しくてコイツらとの時間が永遠に続けばいいと思ったんだ。




そして、出逢ってしまった。
僕を…僕らを導いてくれた彼女に…
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