あの頃の君に…

百千藤(もちと)

文字の大きさ
上 下
1 / 7

プロローグ

しおりを挟む
どれくらいの間、僕はその花束を見ていただろうか…




ライブが始まる10分前、トイレを済ませた僕に花束を持ったマネージャーの真白(ましろ)が声を掛けてきた。
「葉(よう)!!ここに居たのか。」

「真白?!どうした?」

「実はな、さっき差出人がわからない花束がお前達に届いたんだ!」

「花束?」

「あぁ、誰か心当たりはあるか?」

「百合の花……なんてくれる人は俺の周りにはいないだろ!普通に俺達のファンの子じゃないか?」

「まぁそうだよなー」

そんなやり取りをしながらも僕は、百合の花から目が離せないでいた。


すると背後から「葉さん!葉さん!!こんな所でなにしてるんですか!?みんなで探してたんですよ!もうすぐ始まります行きましょう。」

スタッフの声で我に返った僕は、その場を後にしステージ場へと歩き始めた。
「Boheme(ボエム)の皆さん、あと3分で始まります!凱旋ライブ頑張って下さい。」
袖でスタッフの方に言われ改めて帰って来たのだと実感した。

「葉!遅いぞ!!何してた?」

「悪い佑(たすく)ちょっと花を見てた。」

「花…?なんだそれ!もうライブ始まるんだぞ。」

「まぁまぁ揃ったし良いだろ。ヨシ!お前ら、時間だ行ってこい!」
後ろからマネージャーの真白が僕等にそう言い順番に背中を叩いて後押ししてくれた。

「行ってくる!」
真白にそう告げ四人はステージへと階段を上がっていった。
鳴り止まない歓声がこだまし手を振り泣いている人達もいる。
「葉、剣(つるぎ)、佑、やっと此処に帰って来たな。薺(なずな)も会場に来てくれてるみたいだぞ!さっき連絡があった。」

メンバーの星(せい)からそう告げられると僕らは、顔を合わせ何も言わずに前を向き自分達の位置について曲を奏で始めた。
一曲また一曲と終わるにつれて僕は、一人の女性のことを思い出していた。黒髪のショートカットが似合う少し切れ長の大きな瞳の女性。
歌うたびに映し出される彼女との思い出たち。

「もうこの手を離していいよ。私は、一人で歩いて行けるから…」

「葉の夢が叶う日を楽しみにしてるね…バイバイ。」

そう言って君は僕の前から去って行った。
ただ、君を繋ぎ止めておく言葉も見つけられずにあれから十ニ年も経った…

「百合依(リリイ)……君も見にきて来れてるかな?そうだと嬉しいな。だって君に聴いてもらいたい歌がたくさんあるんだ。」



そう思い、歌いながら僕は彼女との出会いを思い出していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

処理中です...