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第一六章 光をサす陰

光をサす陰(04)◆

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「――ああぁあ゛ぐぅぁあ゛あ゛っ!」

 体に異常が起きたのは、穏やかに眠りについてすぐのことだった。
 ぐっすり寝ていたはずなのに、明人は全身を走る痛みと息苦しさでハッキリと目を覚ました。

「あぁああ゛っ! ぁあ゛っ! ああ゛っ! ぐぁああ゛っっ!」

 鼠に噛まれた指先が完全に壊死えししていた。そして、その指先を起点にして痛みが血流に乗るように全身を巡っていた。

 息苦しさの原因はそれだけではない。
 鼠を口に含んだ際、少量だが体内に入れてしまった毛、肉、骨、そして血液が完全に異物と判定され、体外に吐き出させようと内臓に働き掛ける。

 ただでさえ弱っていた内臓がさらなる苦しむを負わされて悲鳴を上げる。発汗、発熱、目眩めまい喘息ぜんそく嘔吐おうと、悪寒、痙攣、頭痛、腹痛、筋肉痛――

 体中が以上を訴え、明人の脳みそを完全に故障ショートさせる。

「う゛っ、おえ゛っ! お゛ぇえ゛っ!」

 吐いても吐いても、胃の中が空になっても、胃液と血液が逆流して口から吐き出される。喉には焼けるような痛みが走り、痛みが限界に達して一瞬だけ意識を失う。
 そして、再び別の痛みで目を覚まさせられる。ギュルギュルとお腹は鳴り続け、息が詰まって白目になるほどお腹が締め付けられる。

「あぁ゛、あぁっ……ああ゛っ!」

 心臓は激しく脈打ち、いつ止まってもおかしく無いほど締め付けられる。全身の細胞が酸素を欲して血液がドクドクと急速で巡り続ける。

「ぐぶっ、ごぼっ゛……う゛っ゛、がほっ゛」

 その貴重な血液がどんどん失われていく。
 血液が行き渡らない筋肉は、力を入れられなくなり、痺れに近い感覚で体の活動が部分的に停止していく。

「う゛ーっ、う゛ーっ……」

 もはや「痛み」も分からなくなる。

 自分がどこにいるか分からなくなる。
 自分が自分で無くなっていく――
















「――明人くん」

「ほの、か……っ」

「明人くん、きもちいい?」

「う、ん……」

「どうしてほしい?」

「くっ……そのまま、舐めて」

「うんっ、んちゅ、れろっ……」

「くあ、うっ……」

「んっ、んちゅ、んっ、んちゅる……」

「穂乃夏っ、咥えてっ……」

「ん゛っ、んぐじゅっ、んぼっ、ん゛っ、ん゛っ、ん゛ーっ……んぐっ、んじゅるるっ、んじゅぽっ」

「穂乃夏っ、う゛っ……」

 ――ドクっ、ドクっ……


「ん゛ごぼっ、ん゛ぐっ…ん゛っ、ん゛あぁ……」

「穂乃夏、我慢できないっ」

「んやっ、明人くん、いきなりっ……んんいやあ゛っ!」

「はぁ、はぁ……穂乃夏のお尻、きもちいいよ」

「明人くん、わたしも、きもちいいっ……イっちゃう、すぐイっちゃうよおっ」

「穂乃夏っ、穂乃夏っ!」

「んっ、んああ゛っ、あ゛ーっ゛!」

 ――ドクっ、ドクっ……


「穂乃夏、まだ…上になって……」

「んやっ、あっ、イったばっ、かっ……んああ゛っ!」

「はぁ、はぁ……」




「……アキ? もうおしまい?」

「くっ、姉さん……」

「どうしたの? きもちい、いいのっ…? んっ……」

「姉さん、だめだよっ……このままだとっ、膣内なかに……」

「いいわ、アキ……アキの濃いのをちょうだい? いっぱい、アキをちょうだいっ、んああ゛っ!」

「姉さんっ」

 ――ドクっ、ドクっ……


「はぁ、はぁ……」

 足りない。蛋白が足りない。
 まだまだ、これからだというのに……


 死線を彷徨っていた明人は、走馬灯に興奮を覚えていた。勃起した自身の肉棒を擦り続け、何度も射精を繰り返す。

「はぁ……はぁ……」

 射精の度に、葉柴の『毒』が大量に精製され、全身を巡る。吐息にも混じって体外に放出された。

 疲労困憊こんぱいの肉体には少々酷な行動だったが、毒のお陰で全身の痛みは和らいでいき、失いかけていた「自我」を取り戻し始める。

 明人の意識を最後に繋ぎ止めたのは、奇しくも姉の裸体であった。

「はぁ、はぁ……くっ、うっ……」

 ――ドクっ、ドクっ……


 足りない蛋白を探し、明人は依然倒れたまま周囲を見渡した。そして、今度は運が味方してくれる。
 投げ捨てた鼠の死骸に蟻が大量に群がっていた。蛆は未だ湧いていない。貴重な蛋白源の確保に成功した。

 ――バリッ、ボリッ……

 体力がみなぎってくる。味も慣れたら病み付きになる。なのに、おかしい。涙が溢れてくる。哀しくもないのに、嬉しいはずなのに、涙が流れてしまう。

 紫色の涙が、ゆっくりと頬を伝う。
 明人は、再び自身の肉棒を手で包んだ。




 ***




 葉柴明人が廻廊窟に閉じ込められ、ちょうど4週間が経過した。
 隔離期間である30日まで残すところ2日――交代シフト制での見張り役であったが、終始退屈な仕事であった。
 廻廊窟の門番を任された男は、時刻が正午になったことを確認すると、気怠そうに水筒と風呂敷を持って腰を上げた。

 今日の食糧は米だった。ちょうど拳大のおにぎりを風呂敷から取り出して、数メートル離れた位置にある筒穴を通して地中深くへと落とす。
 門番の仕事の中でも、最も心が痛む瞬間であったが、今となっては慣れたものだった。
 手元のわずかな食料と心ばかりのぬるま湯で、人間が1カ月も生きながらえるとは到底思えなかった。修行として、仕組みそのものが破綻している。
 葉柴明人はとっくに死んでいる。死体と垂れ流しにされた排泄物の処分を思うと憂鬱でしかない。今では事後作業が心配で憂鬱だった。 

「腐った人間を見たい人間が、居てたまるか」

 食糧を投下してからしばらく待ち、そして異変に気づいたのは水筒のお湯を筒穴に注ごうとした瞬間だった。

「ん? 何だこの匂い」

 かぐわしい、それでいて鼻を刺す、甘くも辛い怪しい匂いが周囲に漂っていた。空気にもほんのり紫色が掛かっている気がする。
 匂いを嗅いでいると、体が浮くような感覚に囚われ、汗が噴き出すとともに呼吸が荒くなっていく。

「はぁ、はぁ……なんだ、これ」

 匂いの原因は、どうやら筒穴から漏れ出していた。確かな原因は想像がつかないが、筒穴の下には葉柴ヤツしか居ないはずだった。

「まさか、な……うっ――」

 葉柴明人は生きている――
 男は匂いに耐えきれず、倒れる直前に確信した。

「何事ですか?!」

「天音、様……」

 今日も飽きもせず、天音は廻廊窟を訪れていた。結果は変わらないというのに――
 ちょうど通りかかったようで、天音は慌てて男に駆け寄った。

「天音様、いけません……」

「どうされたのですか、今すぐ医師を呼びますね」

「ああ、そうか……」

 亜御堂の血に、植人の力は効力を持たない。ならば、やはりこの匂いは葉柴明人で間違いなかった。

 ――葉柴明人は生きている。

 それも、恐らく最良の状態で……

 男は確信していたが、未だ天音には打ち明けたくなかった。




 ***




「――本当に生きてるのか……?」

 重厚なガスマスクを装着し、数人で廻廊窟の奥へと進む。その内の誰かが思わず呟いていた。その疑問に応えるように、地下深くに進めば進むほど目に見えて空気が紫色になっていた。

「クソっ、前が見えない」

「まさか種人にでもなってるんじゃ――」

「うろたえるなっ」

 先頭を進む亜御堂衛門だけ、ガスマスクを装着していなかった。目も開けず、落ち着いてゆっくりと螺旋階段を降りていく。

「衛門様、わざわざ出向かなくても良かったのでは」

「案ずるな。それに、もう着いたじゃろう」

 衛門の言う通り、螺旋階段の終わりが既に見えていた。そして、見えたところで男の呼吸音が微かに下から響いてきた。

「なっ……こいつ――」

 男たちは言葉を失った。
 衛門も細い目で牢の中を見下ろした。


「――はぁ、はぁ……うっ!」

 葉柴明人は、牢の中であぐらをかき、背を向けていたが、何をしているかは後ろ姿だけでもすぐに分かった。
 薄汚れた衣服と髪を纏い、うめき声に合わせて体をビクビクと震わせる。既にヌメり気を帯びた床に、白濁した粘液を追加で飛び散らしていく。

 周囲には数匹の鼠の死骸、それに群がる大量の蛆と蟻、その上を大量の蝿が騒がしく飛び回る。

 男たちは、ガスマスクがきちんと装着されているか、無意識に手を掛けていた。
 葉柴明人は、1ヶ月振りの他人には全く気づく様子はなく、我関せずで手淫を再開する。

「頼む」

「はっ――」

 衛門の合図で1人が牢の鍵を開け、1人が水の入ったバケツを構えた。そして、未だ背中を向ける明人に向かって、ありったけの水を被せた。

「……なんだよ」

 明人は、濡れた髪を下げ、ゆっくりと後ろを振り向いた。
 そして、残念そうに衛門を見上げる。

「髪が伸びたな、葉柴よ」

 衛門の言う通り、1ヶ月とは思えないほどに紫色の髪の毛が伸びていた。それよりも驚いたのは、明人の顔立ちだった。体は痩せこけ、衣服や髪の毛はだらし無くとも、その美貌だけは変わらない。監禁されていた人間とは思えないほどの美しさを放っていた。

「結果は……聞くまでもなさそうじゃな」

「出してくれるのか?」

「まずはその薄汚れた髪を洗い流すぞ、連れて行け」

「はいっ」

 周囲を浸す粘液は踏まないよう、男たちは恐る恐る明人の体を抱えて牢の外に抜け出した。
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