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第〇一章 タネ宿す命
タネ宿す命(02)
しおりを挟む朝の情報番組ーー
夜の公園で学生カップルが惨殺されたと、朝からずいぶん暗いニュースが流れる。
「うえー おばあちゃーん。また2人ともだって……」
真由乃は、朝ご飯を前に畳の上で正座する。白飯に鮭、味噌汁という和テイストの朝食を姿勢正しく頬張りながら呟いた。
環日家の長女である真由乃は、祖母の益子と二人暮らし――
祖母に厳しく育てられながらも体は華奢で、大きな胸にふわっとした薄紅色のセミロング姿は、天然な香りを匂い立たせる。
「しかもこの公園、結構近いなー」
「ブツブツ言ってんで早くお食べ! 間に合わんじゃろ!」
「だっておばあちゃん、今日のお稽古キツすぎだよ~」
腰を抑えながら苦しそうに訴えるも、祖母は心配な素振り1つ見せない。
環日家には、母屋に隣接して道場が設けられている。大勢が集まって大会を開けるような規模ではないが、満足に練習ができ、古臭さも感じられない、更衣室もある立派な道場だ。
真由乃は物心ついたときから、道場での剣道の稽古が日課になっていた。
稽古の内容は竹刀だけではない。
時には木刀、更には真剣まで――
主な講師は祖母であり、いつもは数十分で終わる朝稽古も何故かか今日は、普段以上に厳しかった。
「ほれほれ、今日ん朝飯は終いじゃ! 学校に行き!」
「んー! いっへきまーふ!」
ありったけのご飯を慌てて口に詰め込み、真由乃は早々に家を出ていく。
確かに遅刻ギリギリの時間だった。
本当は、もっと味わって食べたかった。
祖母は、そんな真由乃を横目にお茶を啜ると、ボソッと一言呟いた。
「うまくいけばいいんじゃが――」
***
「うー、いたたたたた……」
熱だろうか、朝稽古のせいだろうか――
体が火照って頭痛もする。
真由乃は登校中、急に調子が悪くなって今も学校の机に突っ伏していた。
授業中もこの調子だった。
「まゆのーん、朝のニュース見た?」
休み時間に入ってすぐ、後ろの席からツンツンと背中が突かれる。
誰かが声をかけてきた。
「うーん……みたよー」
真由乃は、机に突っ伏したままダルそうに答える。
それどころじゃなかった。
「亡くなったの、すぐ近くの学校の子だって」
親友の美嶋 明里――
根っからのゴシップ好きで、その度合いは趣味の域を超えている。
近隣の学校のゴシップネタは粗方押さえており、その情報量は警察をも凌駕すると専らのウワサだ。
そんな明里とは、今年からクラスが一緒になり、たまたま席が近かったというだけで話すようになり、何となく息も合った。
それに、明里にとっては真由乃が可愛くて仕方がないらしい。
真由乃からすれば明里も十分可愛いが、明里は自分を「特徴がない」と言い張り、そんな自分とも比較して真由乃は特別可愛いのだそうだ。
明里から一方的に話しかけることが多いが、真由乃もそれを好意的に受け取っている。
「怖すぎるよねえ、ニュースも見た?」
「うーん……」
ただ、今は真由乃の反応が悪い。
体調が悪いから当然だった。
「――って、どうしたのまゆのん?!」
明里は異変に気づき、真由乃の後ろの席から隣の席に移動する。
クラスが変わって以来、隣の席は何故かずっと空いていた。明里は誰の席かを知っているらしいが、教えてはくれなかった。
そのことが、このクラスになってからずっと心残りだった。
「あかりーん、何だか朝から調子悪くて……」
「だいじょうぶ? ほら、おいで」
「うーん……」
涙目になりながら明里に抱きつく。
そんな真由乃を明里はヨシヨシと受け止め、優しく頭を撫でてくれる。
温かい、落ち着く――
それでも頭痛は収まらなかった。
「帰ったほうがいんじゃない? 次で最後の授業だし、先生にはテキトーに言っとくよ」
「うーん……そうしようかなー」
だるい体を持ち上げ、フラフラと立ち上がる。
「気をつけてねー」
「うーん……」
フラフラな状態のまま、真由乃は教室を出ていった。
「――大丈夫かなあ」
明里はついて行くかとも迷ったが、2人していなくなるのも後々面倒になり兼ねない。
真由乃のフラフラな後ろ姿を、心配そうに目で追いかける。
明里は親友として、真由乃のことが常に心配で心配でしょうがない。
可愛らしいルックスにおっとりして優しい性格、いつ誰が声をかけてきてもおかしくない。
悪い男に騙されないか――
怪しい男について行かないか――
明里は尾行したい気持ちを抑え、真由乃の姿が見えなくなるまで見守った。
教室を出て姿が見えなくなり、しばらく経って明里は、ふとあることに気づいた。
「……あ、カバン――」
手ぶらのまま家に帰るつもりだろうか。
カバンに気づかないほど体調が悪かったのかもしれない。
すぐに帰ってくるだろう――
そう思い明里は最後の授業の準備を始めた。
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