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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~

(16)最強チーム ~formation~

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 第2クォータ――
 前回同様、スタート時にはリオラとレイジーが対峙する。しかし、先ほどとは明らかに様子が違っていた。

「どうなってるんシュウ? 前に3人もおるで」

「ああ、聞いてたより早いな……」


『――おおっと、早くもアトラータ名物「トライアングルアタック」の陣形が見えますね』

『リオラ選手対策でしょう。懸命な判断ですよぉ』


 今の状況についても、あらかじめルヴィから説明があった。
 アトラータフェレースはクォーターの節目で陣形を変え、敵を惑わしてくることが多い。特に、ガンナーであるドルハが前方に上がり、アタッカー3人体制を組んできたときは要注意だ。相手に魔法球が渡ってしまったとき、得点を奪われる確率が格段に上がる。魔法球をいかに奪取し、薄くなったディフェンスをどれだけ突けるかが勝敗の分かれ目となる。
 しかし、陣形を変えてくるのは第3又は最終クォータが多いとシュウたちは聞いていた。

「リオラちゃん、私もアタッカーに?」

「いや、ディフェンスを手薄にしたら相手の思うツボだ。リンは今まで通りで何としても得点を防ぎたい」

「うん、わかった」

 ガンナーを務めていたドルハが前線に上がり、グロリアと合わせて3人がアタッカーとなり、相手チームの圧迫感は一気に増す。
 現状、アトラータフェレースと互角に渡り合えているのは、ひとえにリオラの活躍のお陰だった。2対1のハンデを背負いながらアタッカー同士の力が拮抗していたからこそ戦えてきたが、ここからは今まで通りとはいかない。

「3人も相手してくれるとは嬉しいねえ」

「言ってなさい。次こそアマチュアとの違いを見せてあげる」

 リオラとレイジーの睨み合いが続く。
 そして、試合開始の合図とともに魔法球が天高く放たれる――

「んりゃぁあ!」
「はぁああっ!」

 今まで以上の気迫でお互いが魔法球を奪いに行く。ここでもリオラは引けを取らない。しかし、魔法球にはレイジー以外の2人も距離を詰めてくる。

「ふんっ、力試しだ小娘」

 中でも俊敏な動きを見せたのはドルハだった。
 リオラの次に≪衝撃≫の魔法陣を張り、魔法球を掌握しに掛かる。当然、リオラの≪衝撃≫が負ける訳もなかった。
 だが、ドルハは惜しむことなく前に進み、リオラの横を通り過ぎていく。

「リン! 後ろのカバーは頼んだぞ!」

 リンは、ドルハの動きに警戒して抑えに行く。リオラは魔法球を抱えて前に進もうとするが、そこにレイジーとグロリアが2人で襲う。

『せーのっ!』

 同時にロッドを振り回し、2人掛かりで魔法球を奪いに来る。助走が不十分なリオラのロッドは呆気なく押され、魔法球も後ろに押し出されてしまう。

「んぐっ……くっそー! リン、そっちに行った――」

 ドルハとリンが同時に魔法球を奪いに向かう。
 突然のエース対決と相成ったが、重い体からは想像つかない高速移動でドルハに軍配が上がる。

「させないっ!」

「遅いっ!」

 ドルハは、魔法球を上空に弾き飛ばす。リンは、ドルハの頭上に≪防壁≫を張って止めようとするが、パスにしては早すぎる威力で間に合わなかった。

 上空では息をつく間もなくレイジーとグロリアが2手に分かれてゴールへと進む。リオラはレイジーを注視マークして追っていたが、ドルハはしっかりと見切ってグロリアにパスを出していた。

「シュウ! ウチはどこ行けばいいん?」

「おれにも分からんっ――」

 そこからはあっという間だった。
 アタッカー3人は三角形トライアングルを描き、パスを巧みに回しながらゴールに進む。リオラとリンが後れを取り、シュウとソアンでは守り切れるはずもない。

「む、むむ無理ですーっ!」

 3カ所のどこからシュートが飛んでくるかもわからず、カホも慌てふためいていた。
 そして、ゴール手前で魔法球を持ったレイジーだけ残し、ドルハとグロリアは自陣に向かって一気に下がる。カホは、ゴールの中心を守るのが精いっぱいで簡単に青色の円ブルーラインを許してしまう。

「ごごごごめんなさいーっ!」

「カホのせいじゃない! 次に備えよう!」

 リオラも点を奪われたことは気にせず、次の魔法球を取りに行く。後ろからはドルハとグロリアがすぐ近くに迫る。とてもリンだけではカバーできなかった。

「取られてばっかでいるか!」

 リンの後方支援もあり、ときにはカウンターで点を取れることもあった。
 しかし、リオラも3人相手は対処しきれずに魔法球を奪われる機会が格段に増えた。そのたびに、確実に得点を決められてしまう。
 第2クォータは、学園セントラル勢が劣勢を極める――




 ○○○○○○




「こんなん勝てっこないやんなぁ……」

 ソアンの呟きが、チームの気持ちをさらに沈ませる。
 第2クォータだけで得点は20pt近く差を付けられていた。せっかくのインターバルにも関わらず、みんな疲労も溜まって口数が減る。

「あいつらめ、寄ってたかりやがって」

「リオちゃん、ちょっと可哀そうやったわぁ」

「シュウくん、何か考えはある?」

「ひとまずはリンとおれも前に出れば――」

「あかんよぉ、ウチ1人置いてく気?」

「そ、そういうわけじゃ……」

 作戦を立てようにも埒が明かない。最適解がまるで分らなかった。

「今まで通りでいい、今は休むぞ」

「でも、シュウくんの言う通り――」

「うるせえ、やるしかないだろっ」

「リオラ、落ち着いて」

「落ち着いてられるかっ!」

 思えばリオラばかり動いており、1番疲れているのはリオラのはずだった。残りの魔力にも心配が残る。

「やるしか、ないだろ……」

 重い空気が全体に伸し掛かる中、突如その空気を押し退けるように声が響く。

「――あーら、ずいぶんと疲れた顔しておりまして?」

「「あっ?!」」

 控えの後ろから降り掛かる高飛車な声――
 5人が口を開けて驚く中、エリスとシャエラが薄汚れた制服姿で登場する。

「うわーん、待ちくたびれたわぁ……」

「エリスちゃん! どこに行ってたの?!」

「け、け怪我? だだ大丈夫です、か?」

「ごめんなさい。トラブルに巻き込まれちゃって……」

「とんだ災難ですわ」

「何でもいいけどよ、こっちも災難なんだ」

 エリスとシャエラが戻り、全員に少しだけ活気が戻る。しかし、エリスたちは掲示板に表示された点差を眺めて苦い顔を作る。

「次はサードよね? アタッカーはもう3人なの?」

「そうなんだ。肝心のリオラに対抗してきて……」

「でしたら、わたくしがシュウさんと交代してアタッカーに入りますわ。リオラさんだけでは不甲斐ないですから」

「んだとっ!」

 こんな時までバチバチに睨み合う2人――
 案外いい相性を見せてくれるかもしれない。

「エリちゃんはウチと交代でフェンダーやんなぁ?」

「ええ、まずは得点を取らせないことに注力しましょう。そして、隙が生まれるのを見計らって薄くなった守備を一気に叩く」

「わ、わたしも変わったほうが……」

「カホちゃんはそのままお願い。キーパーとしてすっごく動けてる」

「おい、もう始まるぜ」

「早く着替えに行きますわ」

 インターバルはバタバタのまま終わり、ロクな作戦会議もできない。
 それでも、シュウには一筋の希望が見えた。

「行きましょう。ここまで来たら必ず勝ってみせる」

『おー!』

 エリスを先頭に新生チーム学園セントラルが入場する。エリスたちを連れてきたルヴィとロイも観客席に座り、祈るようにコートを見つめた。




 ○○○○○○




『あっれぇ? 選手交代みたいですよぉ?』

学園セントラル、劣勢の今ここで新たに2名の選手が加入です!』

 第3クォータ――
 今までと同じく先頭にはリオラが立つが、その後ろには新たにシャエラが構える。

「ここからが本気ってわけ?」

「今までも本気だったさ」

 レイジー含め、相手チームは一気に警戒心を高める。レイジーの後ろで構えるドルハは特に警戒し、全体をキョロキョロと見回していた。

「悪いけど、負けないわよ」

「こっちこそな――」

 レイジーは、放たれる魔法球に対して今日1番の反応を見せる。今までの試合の中で、リオラは初めて遅れを取った。

「もらった……ドルハさんっ!」

 ドルハとグロリアが三角形に展開し、レイジーからドルハに向かってパスが飛ぶ。
 シャエラがカバーに向かうが間に合わない。

「進めっ! 一気に決める」

 ドルハの掛け声に合わせ、パスを回しながら一気に前に出る。そのドルハは、ガンナーのリンが抑えに掛かった。ドルハを完全マークしてもアタッカーがまだ2人いる。
 しかし、エリスは怯まずに魔法球を持つレイジーに突っ込んでいく。

「は、はやっ!」

 あまりの浮遊速度に、レイジーは慌ててパスを出してしまう。エリスが近づいてくる横で≪相転≫の魔法陣を繰り出していることに気づけなかった。

「シャエラさん、そっちに送ったわ」

「かしこまりましてっ!」

 レイジーのパスは見事に魔法陣に吸い込まれ、シャエラの近くに浮かんだ魔法陣から飛び出してくる。
 シャエラは魔法球を受け取ってまっすぐゴールへと進む。

「この距離の≪相転≫をこの短時間で、化け物かっ……シャク!」

「行かせないっ」

 フェンダーのシャクは、対リオラでは≪衝撃≫の強さに対応しきれないでいた。しかし、その≪衝撃≫さえなければ持ち前の反応でフェンダーの本領を発揮する。
 何も知らないシャエラは、無謀にも正面に魔法球を放った。

「どういうこと……?」

 シャエラの口元が緩む。
 シャクが、魔法球を放った時、浮かぶ魔法陣が「紫色」だったことに気づくのは後のことだった。

「ごめんあそばせ」

「うくっ、ごめんトピー!」

 シャエラの≪波動魔術ジグラクタブレイカ≫によって、激しい微振動を繰り返す魔法球――
 その魔法球をシャクが正面から受け止めようとしても、不規則な動きをする魔法球はロッドにぶつかった途端に明後日の方向に飛んでいく。

「決めるぜ」

「この距離は、きついサ」

 飛んで行った魔法球には、すぐさまリオラが喰い付いた。
 トピーの≪防壁≫空しく、リオラの放った魔法球がゴールのブルーラインにぶち当たる。




『第3クォータ先制点は学園セントラルが決めたぁ!』

『みんな驚くべき詠唱スピード、これからどうなっちゃうのかしらぁ!』




「――最強チームの完成やんなぁ」

「だな」

 シュウとソアンは眩しい目で試合を眺める。
 会場全体が再び熱量を帯びていく――
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