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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(11)若さより年の功 ~wisdom~
しおりを挟む「くっそー、エリスっ!」
「行かせませんよ」
エリスのサポートのため、後ろに下がろうとしたリオラの前にはトメさんが立ちはだかる。完全マークでリオラは身動きを封じられる。
「婆さん、どきな。容赦しないぞ」
「あらやだ、私も負けていられないわ」
バチバチに睨み合う2人――
親子以上に歳が離れていても、トメさんはリオラの動きを読み切って互角に渡り合う。
後方では、魔法球を持ったヒコさんとエリスが対峙していた。
「ふんっ! ワシは止まらぬぞ」
エリスは行く手を阻もうと≪防壁≫を張るが、ヒコさんは動じることなくその『壁』に足を掛ける。とても老人とは思えない動きで上へと駆け上がっていくが、エリスもその動きに合わせて浮遊する。
「手加減してくれんかのぉ」
「悪いけど、お断りします」
エリスは、魔法球目掛けて容赦なくロッドを振るう。しかし、これまた老人とは思えない反応で魔法球が真下に飛ばされる。真下にはもう1人の老人が待ち構えている。
「させないっ」
エリスには、ヒコさんの後ろからパス相手が近づいてくることも認識していた。このパスの瞬間を狙って急降下する。
「ほーれっ!」
「そんなっ」
下にいた老人は魔法球を直接奪いに来ようとはせず、その真下で≪相転≫の魔法陣を準備していた。
魔法球は、エリスの手が届く前に魔法陣の中へと吸い込まれていく。
「エリスさんっ! シュウさん! 上ですのっ!」
「かぁーっ、かなわんかなわん」
シャエラが声を掛けたときには、もう一方の≪相転≫の魔法陣がヒコさんのすぐ上に張られていた。ヒコさんは着実に魔法球を受け取って前線へと再び進む。
ゴール前、最後にシュウがディフェンスとして立ちはだかる。
「はーはっはっ! 少年よ、まだ抗うというかっ!」
「ほんとにさっきと同じ爺さんか?」
シュウは、戸惑いながらもヒコさんの動きに集中する。
エリスでも止められなかった動き――このままゴールを決められる可能性も十分にある。
試しに警戒しながら近づくと、ヒコさんは案の定ロッドを大きく振り被った。
「受けてみろ少年っ! 若さだけが強さでないと思いしれっ」
「キャラが変わってる……」
「ほりゃぁあ――ぁあ゛っ!」
――ボキィッ!
骨だか関節が外れる音が、離れたシュウにも聞こえるほど大きく鳴り響く。
シュウがは焦って≪防壁≫を張り、隙を探りながら構えていたが、ヒコさんはロッドを振る途中で固まっていた。
魔法球はゆっくりと地面に落ち、何も起きずに光を失ってしまう。
「あ、ぁあっ、ぁぅあっ……」
「じ、爺さん?!」
ヒコさんも力なく地面に落ちていくので、シュウは慌ててヒコさんの体を受け止めた。
リオラと対峙していたトメさんも慌てて近づいてくる。
「ヒコさん、無茶するからぁ」
「すまんのぉトメさん、歳にはかなわんわい……」
試合会場に本日初めての救急サイレンが鳴り響く。後からルヴィに聞いた話では、『マジック・ボール』は激しいスポーツであり、サイレンが鳴るのは珍しくもないらしい。ただ、原因が過度な運動というは初耳だそうだ。
ヒコさんは、担架の上に横たわって会場の外へと運ばれていく。だが、途中で救助隊の足を止め、弱々しく口を開く。
「お主ら、ここから先は一筋縄では行かぬぞ」
「(おい、爺さん頭までヤっちゃってないよな?)」
「(ああ、恐らくな)」
「シュウくん、リオラちゃん」
リンは目上の方の話に耳を傾けるよう、大人の対応を見せる。
「お主らは1人1人は確かに強いな。ここからは、その強さだけでは勝てんぞ」
ヒコさんは、一体何者なのか――
それが気になりすぎて、いまいち話が入ってこない。
「特に少年よ!」
「はっ、はい!」
「お主からは特別強いチカラを感じたぞ。その強さは、きっとチームを勝利に導くことじゃろう」
「あ、ありがとうございます」
「お主らはこれからも――」
「ヒコさん、そろそろ行きますよ」
「ま、まて。まだ話の途中じゃ……」
ヒコさんは頭を下げ、担架を連れて立ち去っていく。マジック・ボールの実力は趣味の域を超えており、最後まで正体が分かることは無かった。
「ラッキー、だったのか?」
対戦チームの『ユーユー倶楽部』は途中棄権となり、無事に2回戦も突破することができた。ヒコさんの体調は心配だが、順調に試合を運んでいることに違いはない。
「次はいよいよ……」
3回戦準決勝は、初めてのプロチームとの試合になることであろう。
ヒコさんの言う通り、ここからは一筋縄ではいかない――
○○○○○○
「レイジー、ぶつけてやれ!」
「サーっ!」
ガンナーであるドルハからの的確なパス――
レイジーもしっかりと魔法球を受け取って力強いシュートを決める。
『アトラータフェレース』は、相手チームを完膚なきまでに追い詰めていた。
「グロリア!」
「はいよっ!」
レイジーからもう1人のアタッカーであるグロリアへのパス――
チームが誇る2大アタッカーの猛追に、相手はなすすべ無く点差が開いていく。
結果、稀に見る大差をつけて『アトラータフェレース』が勝利を収めた。
「次は、学園か……」
ドルハは、息を切らしながら控え室に戻る。ドルハも全盛期に比べたら体力が落ち込んでいる。レイジーは並んでその体調を案じていた。
「仲良しごっこは無しだぞ? 本気で叩きのめす」
「任せてください。遊びは嫌いだし、仲良くもないですし」
レイジーの冗談とも取れない発言に、ドルハは口元を緩ませてみせた。
○○○○○○
会場の外は夕暮れを見せ、試合会場の盛り上がりはすっかり鎮まっていた。
シュウたちは出口から離れた芝生の上に集まり、ルヴィを筆頭に今後の予定と作戦を立てていた。
「次はいよいよ『アトラータフェレース』、世界1位のチームとの対決よ」
「世界1位……」
結局、2回戦でもプロチームが危なげなく勝ち進んだ。準決勝に進んだアマチュアチームは、シュウたちだけとなる。これまで大きな活躍を見せられていないシュウには、「世界1位」という言葉が重くのしかかった。
「勝てるかは分からないけど、やれるだけやりましょう」
「来週はチーム数が減るんだろ? 試合外で『サンルナール』に会えるんじゃないのか?」
「準決勝からはスポンサーも増えて、人気の実況解説も付く。会場は今日以上の混乱が予想されるからあんまり期待しないで」
「そうか……」
今日1日、『サンルナール』のメンバーとはすれ違うことすらなかった。試合前後は、チーム専用の控え室にすぐ引きこもってしまう。
試合中も付けていた『血の涙の仮面』がシュウの頭に浮かぶ。
「次の集合はまた放課後ね。参加できる人だけでなるべく集まって、プロ対策をみっちり教えるわ」
「ごめんなさい。申し上げておきますと、週末は予定がありまして……」
「エリスからも聞いてるわ、2人で出掛けるのよね? 前日は練習もそこそこで終わりにしようと思っていたし、とにかく無茶はしないで」
「かしこまりましたわ」
ルヴィの声掛けに、エリスも小さく頷いた。
シュウは、その用事とやらを聞かされていない。エリスとシャエラの絡みが珍しい組み合わせなので、なおさら気になっていた。
「じゃあ今日は解散としましょう」
「いやーっ、疲れたぜ! 早くメシだ、メシ!」
「お兄様、お疲れ様です。お荷物お持ちしますよ?」
「シュウくん、そんなことまで……」
「させてる訳ないだろっ!」
「エル、そちらの生活は不便ありませんこと?」
「うん! お兄様が優しくて教えてくれるから大丈夫だよ! おねえちゃんもまた来てね」
「へぇ、何を教えてるのかなぁ」
「リン! そんな目でおれを見るな!」
「早く助け出さんと、このままやと……」
「誤解だぁ!」
ソアンに至っては軽蔑を通り越し、シャエルの将来を心配そうに見据える――
こうしてマジック・ボール親善大会の1日目を無事終えた。
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