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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(04)特訓開始 ~training~
しおりを挟む放課後のグラウンドには、約束通りソアンを除くメンバーが集結していた。特進クラスの生徒が放課後に6名もスポーツウェア姿でいる異様な光景に、グラウンドにいる他の生徒は恐れおののいていた。
特進生たちの前にはルヴィとロイが講師として立ち、シュウも「1時間は清掃の仕事をする」という許しを得て参加していた。
「これで全員ね?」
「すごいメンツだな……」
ルヴィは驚きながらも、あくまで淡々と進めようとする。一方のロイは事前にメンバーを聞かされていなかったため、錚々たる顔ぶれに戸惑いを隠しきれなかった。
ところで2人とも翼のマークが描かれたゴツい靴を履き、先端がスプーンのように丸まった細長いロッドを手に持っている。
「それで、みんなはどのくらいマジック・ボールを知ってるのよ?」
「ロッドを使うスポーツでしたわよね?」
「球を使うんだろ? 球を」
「み、み、みた、見たことは、あります……」
「……そう、まったく知らないってことね」
ルヴィから思わずタメ息が漏れる。「約束が違う」といった具合でリンを睨みつけ、リンは苦笑いでその場をごまかした。
エリスはエリスで予習をしてきたらしく、余裕の表情で腕を組んでいた。
「まあいいわ、基本的なルールから説明していくわね――」
ルヴィは咳払いを1つ、改めて説明を始める。
手に持ったロッドで、背後にある大きな円形の板を指示した。
「マジック・ボールは5人1組で行われるわ。試合はクォータ制で1クォータは10分――クォータの合間で2名までの選手交代が許されている」
「その後ろにある板はなんだ?」
リオラも気になった直径5m以上はある円形の板――
全体的に薄い青色で塗られており、真ん中には濃い青で円が、そのさらに中心に50cmほどの真っ赤な点が描かれている。
「これがゴールよ。球を相手のゴールに当てたらポイントが入る。この青色の円に当てたら2ptで、赤い中心点に当てたら3pt入る」
「真ん中を狙えばいいんだな。簡単じゃねーか」
「プロ同士の試合でレッドポイントが決まることは滅多にないわ。キーパーは大体真ん中にいるしね」
「それでルヴィさん、その球とおっしゃるのは?」
「ロイ、お願い――」
いつの間にか遠くに離れていたロイは、大砲のように遠目からでも仰々しい機械をいじくっていた。
ルヴィの指示を受けてロイが右手を挙げると、機械から「ポンッ」という音に合わせて『玉』が放出される。
ルヴィは、その球を手持ちのロッドで器用に受け取ってシャエラに見せる。
「これが球――魔法球よ」
魔法球は黄緑色の光を放ち、その場の全員が思わず見惚れてしまう。大きさは30cmほどだろうか――材質は柔らかそうに見え、ギリギリ片手で掴めそうだ。
「魔法球をゴールに当てるだけ、簡単でしょ?」
試しにルヴィは、魔法球をゴールのブルーラインに当てる。するとゴールが青く光った代わりに、魔法球自体は光を失って地面に落ちた。
「かか、簡単、ですね……」
「そうね、単純なルールだけど……もう1つ、重要なポイントがある」
ルヴィはもう1度ロイに合図をし、魔法球が再度放出される。今度は、それをロッドのスプーン部分に乗せたままリオラの前に移動させ、まるで叩きやすい位置に掲げてみせた。
「リオラ、この魔法球に≪衝撃≫を加えて思い切りシュウにぶつけてちょうだい」
「分かった」
「なっ、ちょっと待てぇ!」
リオラは光を放つ魔法球を前に、早々に力を込めて拳を構える。まさかとは思いつつ、シュウの心にはには不穏な空気が立ち込める。
「リオラ、落ち着けよ? 少しは手加減をだな」
「シュウ、今までありがとな」
「おい! やめっ、やめてっ!」
リオラは、そこそこ全力で≪衝撃魔術≫を魔法球に向かって放つ。その≪衝撃≫をモロに受けた魔法球は「何故か」破裂することなく、目に見えないほどの爆速でシュウに向かい放たれる。
「――んぐぇえ゛っ!」
魔法球はシュウの体に当たり、シュウの体に風穴を――空けはしなかった。体に触れる間際で光を失い、球が持つ力をすべて失って地面に落ちた。
「んえっ……あれ?」
「魔法球はこの競技用ロッドか、魔法陣以外に触れると、その瞬間で魔力を失って、運動が1度ゼロになるの。中でも相手チームの体に魔法球を当てたとき、『ノックポイント』と言って1pt得点が入るの」
「へぇ……得点のチャンスがいっぱいあるな」
「ちなみに魔法球はどれだけ強力な≪衝撃≫を加えても割れることなく、≪衝撃≫の分だけ威力が増すわ」
「ロッドで直接攻撃すんのはダメか?」
「物騒なこと言わないで、ダメに決まってるでしょ。
ロッド同士が触れる行為は問題ないけど、相手の体を傷付ける行為や、相手のロッドに魔法を掛ける行為は禁止行為よ。最悪は退場になる」
「なんだ……」
その一言が、つまらなそうにも見えたリオラが怖い。
「なあ、ちょっと待てくれ……」
シュウは、リオラがせっかく力を込めた魔法球を取り上げ、ふとした疑問をルヴィに投げ掛ける。
「ゴールに当てるっていうけどさ、≪防壁≫をゴール前に張っておけば無敵じゃないのか?」
シュウの言葉をきっかけに≪防壁魔術≫を得意とするカホに視線が集まる。カホは訳も分からず、顔を真っ赤にして俯いた。
「よく考えてみて……さっきも言ったけど、魔法球は魔法陣に触れても魔力を失わないの」
「……つまりは?」
「考えてないでしょ?」
「すまん……」
確かに考えていなかった。
罰としてリオラに足を踏みつけられ、声にならない声が体内を巡る。
「いい? プロの世界における本気のシュートは音速を超えてくるのよ」
「ま、マッハ?!」
「その速さに負けず、瞬時且つ的確な位置に≪防壁≫を張らないといけないし、厚めの≪防壁≫を張れたところでマッハの≪衝撃≫を受け止め切れられるわけもなく、運が良くて弾くのが精一杯なのよ」
「そ、そうなのか……」
さっきまで恥ずかしがっていたカホまで自信を無くしてしまう。シュウは、足先の痛みに耐えながら「申し訳ない」と心の中で反省した。
「ルール説明に戻るわね、試合はこのグラウンドと同じくらいの大きさで戦うわ」
「ずいぶん広いですわね……」
サッカーコート以上はある。当然ながら、素早い移動――それに、浮遊の技術は必須になってくる。
「まて、おれは浮遊が得意じゃないぞ」
「安心して、試合中は浮遊をサポートする魔法靴が支給される」
「なんとっ!」
「微少な魔力でも十分な浮遊が可能になるわ、宙に浮くだけならね。素早く動くには相応の魔力とコントロールが必要よ」
魔法靴とは、ルヴィが履いている翼が描かれた靴のことだろう。シュウは失いかけた自信を少しだけ取り戻した。
「これだけ広いコートだから、参考までに役割分担も説明しておくわね」
「ポジション? 移動できる範囲が決まってるのか?」
「いいえ、ゴールゾーンを除いて自由な移動ができるわ。あくまで参考――」
――1つ目は、話にも出たばかりのキーパー
試合中、ゴールゾーンに入れ、ゾーン内で魔法を使える唯一の存在であり、やはり≪防壁≫を得意とする人物が最適だ。
全員の視線が再びカホに集まり、カホはまたも恥ずかしくなって俯いてしまう。
――2つ目は、フェンダー
ゴール前でのディフェンスと魔法球の長距離投球、つまりは精密な≪防壁≫と≪相転≫が大事になってくる。
移動は少ないが、補助として大事なポジションになる。
――3つ目は、ガンナー
中距離でのディフェンスとオフェンス援護を担う。マジック・ボールにおいて最も重要なポジションとされ、各チームで『エース』と呼ばれる存在が担うことが多い。
唯一の競技経験者かつ、≪変形≫を得意とするリンが最適だった。
――最後は、アタッカー
正確なパワーでシュートを決める。
実にシンプルであり、リオラはまず確定だった。
「各チーム様々なフォーメーションを組んで試合を展開してくるわ。まずは魔法球の扱い方を学んで、最適なポジションを決めていきましょう」
ルヴィ先生指導の下、それぞれが距離を取って魔法球に触れる。
みんな真剣な表情で練習に取り組んだ――
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