上 下
39 / 78
CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~

(09)取締最終日 ~trigger~

しおりを挟む

 取締最終日――
 学園内は、最大級にピリついていた。
 生徒会が取締りを行っている様子はない。生徒たちの会話はシャエラの噂で持ち切りで、シャエラ本人が横切れば、その背中を多くの生徒が睨みつける。

 特進クラスの教室でさえ、シャエラは浮いてしまっていた。シャエラ本人も話しかけづらいオーラをにじませる。
 シュウとリンは、一旦廊下に出て作戦を練る。

「大変だよ、クーデターを起こそうみたいな過激な人もいるみたいで……」

「取り返しがつかなくなってきたな……」

 結局はシャエラを説得するしかないのだろうが、何を話せば思いが伝わるのかも分からない。リンも頭を抱えて悩む。
 そんなシュウたちの横を、ド派手な女子生徒がジャラジャラと音を鳴らしながら通り過ぎた。そのまま、半自動で開く扉を力づくで押し開けて教室へと入る。
 シュウたちも慌てて教室に戻った。

「――シャエラっ!」

 ドでかい黒のサングラスに真っなリップ、派手なネックレスと指輪をジャラジャラ身に着けて、サラサラの金髪をなびかせる――
 いつも以上にファッションに力を入れたリオラが、挑発するようにシャエラの前に立った。

 教室にいる全員が注目する中、リオラはシャエラが座る机の上に片足を乗せる。

「ミス・リオラ……」

「どうした? 容赦しないんだろ?」

 挑発にしてもやり過ぎだ。
 シャエラは流石に怒ったのか、シュウたちが止めるよりも前に机を強く叩いて立ち上がった。リオラの目の前まで顔を近づけ、冷たい目をまっすぐ向ける。

「……わたくしは今、忙しいんですの」

「あ゛?」

「また今度ですわ、覚悟しておきなさい」

 拍子抜けだった。
 シャエラは、リオラを無視して教室から出ていこうとする。

「おい、どこに行くんだよ」

「お手洗いですわ、それでは……」

 シャエラは、扉の前で律儀りちぎにお辞儀をして教室から出ていく。結局、誰も説得をできないまま放課後を迎えてしまう。




 ○○○○○○




「――困ったちゃんだねぇ」

 シュウは清掃の作業着に着替えた後、保健室を訪れていた。リンも部活動を休んで集まってくれる。
 保健室のワネット先生は、生徒たちの相談役であり、良き理解者でもあった。
 今回は、どうすればシャエラに分かってもらえるか、何かヒントを貰えればと思ってワネットのもとを訪れていた。

「このままシャエラちゃんが孤立したら、よくないことが起きる気がして……」

 シュウも同意見だった。もしかしたら、既に起こっているのかもしれない。

「そうねぇ……残念だけど、何か起きるまで待つしかないかもねぇ」

「それは、あんまりじゃないですか」

「仕方ないんだよ……そんなに理解が良くないの、人間って――」

 ワネットは、自身の過去を振り返っているようにも見えた。自身の経験からシュウたちにも厳しく言い放つ。
 だが、強く続ける――

「だから、その何かが起きたとき、誰かが支えてあげないとね」

 そして、ワネットは優しく微笑んだ。

 直後、保健室の扉がゆっくりと開く。1人の女子生徒が遠慮しがちに保健室の中を覗く。

「あれ、たしか……マイカだっけ?」

 シュウには見覚えがあった。
 前より物腰が柔らかくて違和感を覚えるが、生徒会室でシャエラの隣にいた副会長のマイカだった。

「シュウ殿、リン殿……少し相談が――」

 マイカは、浮かない顔で保健室の中へと進む。




 ○○○○○○




 放課後、シャエラはひっそりと生徒会室に向かう。生徒会室の扉には、生徒たちによる抗議の張り紙がビッシリ貼られている。
 さらに、部屋の電気が点いている。扉を開けると中には書紀のアドリーだけがいた。

「シャエラちゃん! よかった、今ちょうど書類整理から始めてて、マイカちゃんもこのあと集まる予定なんだけど……」

「アドリー……」

 シャエラは胸の苦しさをこらえる。
 そして、冷たくアドリーをあしらう。

「必要ないわ、すぐに帰りなさい」

「でも、すごい量だから……私とマイカちゃんも一緒に――」

「帰りなさい」

「う、うん……」

 最後はアドリーを言い負かして帰らせる。
 シャエラは、生徒会室でまた1人になる。

 机の上に残された大量の誓約書、その他書類――
 外の張り紙もがしておかなくては――

「負けませんわ」

 生徒会長として最後の仕事になるかもしれないと、今日もシャエラは黙々と作業を進める。




 ○○○○○○




『――会長のことが、心配なんです』

 シュウは廊下の窓縁まどぶちきながら、保健室での会話を思い返していた。
 マイカは、特進クラスの生徒――シュウたちもシャエラのことを心配していると聞きつけて保健室に来たそうだ。
 シャエラは、自分1人で責任を負うような行動にどうして出たのか――マイカも気になっていたが、お互い有力な情報は持ち合わせていなかった。

「会長は生徒のみんなを、学園を本気で良くしようと頑張っていただけでした。
 誓約書も、実は正式な書類ではなくて、停学にさせる効力なんてありません。抑止力のつもりで、良かれと思って導入したに過ぎません」

 生徒会のメンバーは、シャエラの本当の気持ちを知っている分、一部の生徒たちに罵倒ばとうされる姿を見ていられなかった。
 どうすればこの状況を打開できるか――
 マイカは、1つ確かな方法を思いついていた。


 女子生徒を磔にした本当の・・・犯人を捕まえる――


「ただ、それには私1人の力では到底及ばず……」

 マイカのお願いに、シュウたちは快諾かいだくした。
 ただ、寮暮らしが多い学園の生徒は、休日前に実家に帰る者が多い。リンもその1人だった。

「わたしなりにも調べてみるから、何か分かれば連絡して!」

 そうしてマイカとは別れた。まずは、休日の間に真相を突き止める。
 シュウの清掃する手にも力が入る。

「……んよしっ!」

 いつもより力が入り、予定よりも早く終わらしたつもりが窓の外は真っ暗だった。
 校舎の外を眺めていると、ふと生徒会室のことが気になる。早朝にダイモンが清掃済みなので、当然行く用事は無い。
 それでも、気になってしまった。

「見るだけ、見るだけと……」

 閉門まで残された時間も少ないが、シュウの足は自然と生徒会室に向かっていた。




 ○○○○○○




「ふわぁ……さすがに眠いですわね」

 ここ最近は考えることが多く、数日間まともな睡眠が取れていない。
 散らばっていた書類は丁寧にまとめ、扉に貼ってあった張り紙も片付けた。満足に足るほど生徒会室が綺麗に片付いた。
 シャエラは、欠伸あくびを手で押さえながら帰る準備を進める。

「……お別れ、でございますかね」

 すべては自身の不徳の致すところ――
 生徒会のみんなには申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 シャエラが生徒会室の電気を落とすと、辺りは真っ暗になる。足元に気を付けながら廊下に出る。

「――ひっ!」

 生徒会室を出てすぐ、暗い廊下に松葉杖まつばづえをついた女子生徒の姿が浮かぶ。
 突然で驚いたが、あまりにハッキリとした姿を前に、恐怖よりも戸惑とまどいが勝つ。

「な、なんですの……?」

 杖を突きながらゆっくりとシャエラに近づいてくる。女子生徒はうなだれており、暗さもあって顔がハッキリと見えない。

「あなた、まさかっ……」

 手が届く距離まで近づいた女子生徒は、ふいに松葉杖を離し、シャエラに飛びついてくる。
 そしてシャエラの腰をまさぐり、ロッドを抜き出したと思えばシャエラを突き飛ばして距離を取る。

「今よっ! やっちゃって!」

 女子生徒の合図を皮切りに、シャエラを囲むように大きな段ボール紙が飛んでくる。段ボール紙には≪衝撃魔術ウェイトブレイカ≫の魔法陣が描かれていた。

「うくっ……!」

 段ボール紙はシャエラを包み、周りから身動きを封じる。背後からは、2人の男子生徒が現れる。
 2人とも右手を差し出し、段ボールに≪衝撃≫の魔法を加えていた。周りからの圧力に耐えきれず、シャエラは動きを封じられたまま床にひざまずいた。

「まったく、いつまで待たせんのよ。首が折れちゃうじゃない……」

 女子生徒は、取締り3日目の朝――十字架にはりつけにされていた女の子だった。体は万全ではないようで、首や手首には包帯が巻かれている。
 シャエラから奪い取ったロッドを背後に投げ捨て、包帯を巻いた手を、包帯を巻いた首に当ててポキポキ音を鳴らす。

「私、やられっぱなしってイヤなのよね」

「あなた! こんなことしてタダで済むと――」


 カチャッ――


 女子生徒はひざまずくシャエルの前に立ち、黒い拳銃を構えた。身動きが取れないシャエラの眼前に、その銃口が突き付けられる。
 シャエラだけでなく、後ろの男子生徒たちまで体がこおる。

「安心して、子供の玩具おもちゃよ。弟に借りてきたの」

 拳銃の引鉄ひきがねに指が置かれる。
 シャエラと女子生徒が睨み合う。

「でもね、一緒に魔法を使うと……結構イタイかもって」

 銃口にも≪衝撃≫の魔法陣が浮かび上がる。
 シャエラは、決して女子生徒から目をらさない。

「怪我したら、ごめんね……?」

 女子生徒が引鉄を引く。
 同時に、拳銃は玩具とは思えない音をとどろかせ、プラスチックの玉を勢いよく放つ――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

神々の仲間入りしました。

ラキレスト
ファンタジー
 日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。 「私の娘として生まれ変わりませんか?」 「………、はいぃ!?」 女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。 (ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい) カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...