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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~
(09)取締最終日 ~trigger~
しおりを挟む取締最終日――
学園内は、最大級にピリついていた。
生徒会が取締りを行っている様子はない。生徒たちの会話はシャエラの噂で持ち切りで、シャエラ本人が横切れば、その背中を多くの生徒が睨みつける。
特進クラスの教室でさえ、シャエラは浮いてしまっていた。シャエラ本人も話しかけづらいオーラを滲ませる。
シュウとリンは、一旦廊下に出て作戦を練る。
「大変だよ、クーデターを起こそうみたいな過激な人もいるみたいで……」
「取り返しがつかなくなってきたな……」
結局はシャエラを説得するしかないのだろうが、何を話せば思いが伝わるのかも分からない。リンも頭を抱えて悩む。
そんなシュウたちの横を、ド派手な女子生徒がジャラジャラと音を鳴らしながら通り過ぎた。そのまま、半自動で開く扉を力づくで押し開けて教室へと入る。
シュウたちも慌てて教室に戻った。
「――シャエラっ!」
ドでかい黒のサングラスに真っ紅なリップ、派手なネックレスと指輪をジャラジャラ身に着けて、サラサラの金髪をなびかせる――
いつも以上にファッションに力を入れたリオラが、挑発するようにシャエラの前に立った。
教室にいる全員が注目する中、リオラはシャエラが座る机の上に片足を乗せる。
「ミス・リオラ……」
「どうした? 容赦しないんだろ?」
挑発にしてもやり過ぎだ。
シャエラは流石に怒ったのか、シュウたちが止めるよりも前に机を強く叩いて立ち上がった。リオラの目の前まで顔を近づけ、冷たい目をまっすぐ向ける。
「……わたくしは今、忙しいんですの」
「あ゛?」
「また今度ですわ、覚悟しておきなさい」
拍子抜けだった。
シャエラは、リオラを無視して教室から出ていこうとする。
「おい、どこに行くんだよ」
「お手洗いですわ、それでは……」
シャエラは、扉の前で律儀にお辞儀をして教室から出ていく。結局、誰も説得をできないまま放課後を迎えてしまう。
○○○○○○
「――困ったちゃんだねぇ」
シュウは清掃の作業着に着替えた後、保健室を訪れていた。リンも部活動を休んで集まってくれる。
保健室のワネット先生は、生徒たちの相談役であり、良き理解者でもあった。
今回は、どうすればシャエラに分かってもらえるか、何かヒントを貰えればと思ってワネットのもとを訪れていた。
「このままシャエラちゃんが孤立したら、よくないことが起きる気がして……」
シュウも同意見だった。もしかしたら、既に起こっているのかもしれない。
「そうねぇ……残念だけど、何か起きるまで待つしかないかもねぇ」
「それは、あんまりじゃないですか」
「仕方ないんだよ……そんなに理解が良くないの、人間って――」
ワネットは、自身の過去を振り返っているようにも見えた。自身の経験からシュウたちにも厳しく言い放つ。
だが、強く続ける――
「だから、その何かが起きたとき、誰かが支えてあげないとね」
そして、ワネットは優しく微笑んだ。
直後、保健室の扉がゆっくりと開く。1人の女子生徒が遠慮しがちに保健室の中を覗く。
「あれ、たしか……マイカだっけ?」
シュウには見覚えがあった。
前より物腰が柔らかくて違和感を覚えるが、生徒会室でシャエラの隣にいた副会長のマイカだった。
「シュウ殿、リン殿……少し相談が――」
マイカは、浮かない顔で保健室の中へと進む。
○○○○○○
放課後、シャエラはひっそりと生徒会室に向かう。生徒会室の扉には、生徒たちによる抗議の張り紙がビッシリ貼られている。
さらに、部屋の電気が点いている。扉を開けると中には書紀のアドリーだけがいた。
「シャエラちゃん! よかった、今ちょうど書類整理から始めてて、マイカちゃんもこのあと集まる予定なんだけど……」
「アドリー……」
シャエラは胸の苦しさをこらえる。
そして、冷たくアドリーをあしらう。
「必要ないわ、すぐに帰りなさい」
「でも、すごい量だから……私とマイカちゃんも一緒に――」
「帰りなさい」
「う、うん……」
最後はアドリーを言い負かして帰らせる。
シャエラは、生徒会室でまた1人になる。
机の上に残された大量の誓約書、その他書類――
外の張り紙も剥がしておかなくては――
「負けませんわ」
生徒会長として最後の仕事になるかもしれないと、今日もシャエラは黙々と作業を進める。
○○○○○○
『――会長のことが、心配なんです』
シュウは廊下の窓縁を拭きながら、保健室での会話を思い返していた。
マイカは、特進クラスの生徒――シュウたちもシャエラのことを心配していると聞きつけて保健室に来たそうだ。
シャエラは、自分1人で責任を負うような行動にどうして出たのか――マイカも気になっていたが、お互い有力な情報は持ち合わせていなかった。
「会長は生徒のみんなを、学園を本気で良くしようと頑張っていただけでした。
誓約書も、実は正式な書類ではなくて、停学にさせる効力なんてありません。抑止力のつもりで、良かれと思って導入したに過ぎません」
生徒会のメンバーは、シャエラの本当の気持ちを知っている分、一部の生徒たちに罵倒される姿を見ていられなかった。
どうすればこの状況を打開できるか――
マイカは、1つ確かな方法を思いついていた。
女子生徒を磔にした本当の犯人を捕まえる――
「ただ、それには私1人の力では到底及ばず……」
マイカのお願いに、シュウたちは快諾した。
ただ、寮暮らしが多い学園の生徒は、休日前に実家に帰る者が多い。リンもその1人だった。
「わたしなりにも調べてみるから、何か分かれば連絡して!」
そうしてマイカとは別れた。まずは、休日の間に真相を突き止める。
シュウの清掃する手にも力が入る。
「……んよしっ!」
いつもより力が入り、予定よりも早く終わらしたつもりが窓の外は真っ暗だった。
校舎の外を眺めていると、ふと生徒会室のことが気になる。早朝にダイモンが清掃済みなので、当然行く用事は無い。
それでも、気になってしまった。
「見るだけ、見るだけと……」
閉門まで残された時間も少ないが、シュウの足は自然と生徒会室に向かっていた。
○○○○○○
「ふわぁ……さすがに眠いですわね」
ここ最近は考えることが多く、数日間まともな睡眠が取れていない。
散らばっていた書類は丁寧にまとめ、扉に貼ってあった張り紙も片付けた。満足に足るほど生徒会室が綺麗に片付いた。
シャエラは、欠伸を手で押さえながら帰る準備を進める。
「……お別れ、でございますかね」
すべては自身の不徳の致すところ――
生徒会のみんなには申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
シャエラが生徒会室の電気を落とすと、辺りは真っ暗になる。足元に気を付けながら廊下に出る。
「――ひっ!」
生徒会室を出てすぐ、暗い廊下に松葉杖をついた女子生徒の姿が浮かぶ。
突然で驚いたが、あまりにハッキリとした姿を前に、恐怖よりも戸惑いが勝つ。
「な、なんですの……?」
杖を突きながらゆっくりとシャエラに近づいてくる。女子生徒はうなだれており、暗さもあって顔がハッキリと見えない。
「あなた、まさかっ……」
手が届く距離まで近づいた女子生徒は、ふいに松葉杖を離し、シャエラに飛びついてくる。
そしてシャエラの腰をまさぐり、ロッドを抜き出したと思えばシャエラを突き飛ばして距離を取る。
「今よっ! やっちゃって!」
女子生徒の合図を皮切りに、シャエラを囲むように大きな段ボール紙が飛んでくる。段ボール紙には≪衝撃魔術≫の魔法陣が描かれていた。
「うくっ……!」
段ボール紙はシャエラを包み、周りから身動きを封じる。背後からは、2人の男子生徒が現れる。
2人とも右手を差し出し、段ボールに≪衝撃≫の魔法を加えていた。周りからの圧力に耐えきれず、シャエラは動きを封じられたまま床にひざまずいた。
「まったく、いつまで待たせんのよ。首が折れちゃうじゃない……」
女子生徒は、取締り3日目の朝――十字架に磔にされていた女の子だった。体は万全ではないようで、首や手首には包帯が巻かれている。
シャエラから奪い取ったロッドを背後に投げ捨て、包帯を巻いた手を、包帯を巻いた首に当ててポキポキ音を鳴らす。
「私、やられっぱなしってイヤなのよね」
「あなた! こんなことしてタダで済むと――」
カチャッ――
女子生徒は跪くシャエルの前に立ち、黒い拳銃を構えた。身動きが取れないシャエラの眼前に、その銃口が突き付けられる。
シャエラだけでなく、後ろの男子生徒たちまで体が凍る。
「安心して、子供の玩具よ。弟に借りてきたの」
拳銃の引鉄に指が置かれる。
シャエラと女子生徒が睨み合う。
「でもね、一緒に魔法を使うと……結構イタイかもって」
銃口にも≪衝撃≫の魔法陣が浮かび上がる。
シャエラは、決して女子生徒から目を逸らさない。
「怪我したら、ごめんね……?」
女子生徒が引鉄を引く。
同時に、拳銃は玩具とは思えない音を轟かせ、プラスチックの玉を勢いよく放つ――
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