38 / 78
CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~
(08)荒れる生徒会 ~noise~
しおりを挟む「この件について生徒会は一切関係ございません。わたくしが独断で行ったことでございます」
ホールにいた先生、生徒全員が言葉を失っている。
冗談にしても、冗談が過ぎていた。
「お分かりになりまして? ですから――」
「ふざんけんなっ!」
壇上にいるシャエラに向かって、空になった飲み物のボトルが投げ込まれる。同時に、ホール内には罵声が飛び交った。
「いいかげんにしろよ! そんな権限おまえにないだろっ!」
「なんで捕まってないの?! とっとと自首しなさいよ!」
勢いがついた生徒たちは、次々に壇上へと物を投げ込んでいく。いくつかはシャエラに直撃するも、シャエラは微動だにせず黙ったままだった。
数人の先生が慌てて止めに入り、シャエラを壇上から連れ出す。こんなときに、マリー校長もアンナ副校長もいないことが悔やまれた。
「――シャエラさん! なんのつもり?」
職員室ではシャエラが入り口近くの椅子に座らせられ、その周りを数人の先生が囲んでいた。
「わたくしは事実を話しただけでございます」
「事実って、アリバイは取れているでしょ? それを、どうして今になって……」
先生たちの制止を振り切り、シャエラは職員室から抜け出そうとする。
「放してくださいます? わたくし、急いでおりますの」
シャエラは先生たちを冷たくあしらった。
先生たちも諦めてシャエラを解放する。生徒とは言え、影響力の強いエイブリン家の子女を強く引き留めるのは気が引けた。
「わたくしのことは、いつでも通報して頂いて構いません。では……」
シャエラは本当に職員室から出て行ってしまう。
そして、真っ先に生徒会室へと向かった。
○○○○○○
荒れに荒れた生徒総会の後、シュウは掃除用具を倉庫からを持ち出して再び校舎に戻っていた。
そして予想通り、校舎では大きな騒ぎが続いていた。
「――シュウ、こっちよ」
エリスに呼ばれ、掃除用具片手に後ろをついて行く。生徒会室の前――大勢の生徒が集まり、口々に声を荒げていた。
≪生徒会長! いるんでしょっ!≫
数人の生徒会役員と先生が対応するが、生徒たちの怒りは当の会長が出てこないと鎮まりそうにない。
「マリー校長は?」
「いないわ、アンナ先生もいないの……」
隣にいたリンとリオラも不安げである。危機的状況を見兼ねたリオラが1歩前に出た。
「おい! おまえら――っ!」
リオラが声を荒げた瞬間――
そのフロアにいる全員が脳に激しい揺れを感じる。
多くの生徒が頭を押さえて静まった。そのままシュウやエリスたちとは反対側の通路に目を向ける。
「――廊下では、お静かにして下さります?」
シャエラは床に片手をつき、大きな≪波動≫の魔法陣を展開していた。
廊下で騒いでいた生徒全員を睨み、毅然な態度で立ち上がる。
「先ほども申し上げた通り、生徒会は一切関係ございません。これ以上迷惑をかけるようなら……」
堂々と立ったまま、紫色に輝く大きな魔法陣を正面に向ける。
シャエラの瞳が紫色に淡く光る――
「容赦、しませんわ」
強大な紫色の魔法を前に生徒たちは震え上がった。
誰も何も言い返すことができず、小言をつぶやきながらその場を後にする。
その中で1人――リオラだけが廊下の真ん中に残った。
「ミス・リオラ……アナタも懲りませんわね」
「懲りないね」
「もし、明日もその格好で登校するようでしたら、本当に容赦しませんわ」
「楽しみにしてるぜ」
リオラの挑発も利かず、シャエラは外に出ていた生徒会の面々を引き連れて部屋の中へと入る。リオラも悔しそうにその場を後にした。
○○○○○○
「アナタたちも早く帰りなさいまし。取締は中止で構いませんわ」
「で、ですがっ――」
副会長のマイカが突っかかった。
シャエラが犯人なんてありえない。
マイカだけでなく、生徒会の全員が確信していた。その場にいるほぼすべての人が、シャエラを1人に残すことに抵抗を感じていた。
「シャエラちゃん、何があったの? よかったら話してくれないかな?」
「アドリー……」
アドリーは心配そうにシャエラを見つめる。
マイカも初めて見る泣きそうな顔だった。
「平気ですわ、みんな本当にお疲れ様……明日からはわたくしに任せて下さる?」
「でも……」
シャエラは無理にでも全員を帰らそうとする。みんなからワザとらしく距離を取った。
そんな頑な態度に、結局はみんな従うしかなかった。
「――さて、何からやりますかしら」
生徒会室にはシャエラ1人だけが残る。
想像以上の静けさだった。
まずは、魔法軍から受け取った今回の件に関する調査結果の報告資料――
見たくもない資料で捨てようとも思ったが、シャエラは念のため生徒会室で保管することにした。
次に、机の上に散乱した中途半端な書類たち――
これだけ騒ぎを起こし、生徒会の仕事を続けられるとは思わなかった。最後の仕事と思い、シャエラは丁寧に書類を整理する。
「――ふぅ……」
作業が一段落すると意外に時間が経過していた。これ以上残るには面倒な申請が必要になる。続きは明日にしようと、残りを隅に寄せて生徒会室を後にした。
そして生徒会室の前、暗い廊下で黙々と働いている者が1人――
○○○○○○
「……ミスタ・ハナミヤ?」
「ん? ああシャエラ、今から帰るのか」
シュウは雑巾とモップでひたすら床を磨いていた。
「……何をしてらっしゃるの?」
「いやさ、あれだけの人が押しかけたから、かなり汚れちゃって……お掃除ロボも諦めたみたいでさ」
「そうではなくて、そちらのお洋服は?」
シャエラは、シュウが着ている清掃用の作業着を指差す。シュウは胸を張って自慢気に見せびらかした。
「ああ、実は放課後は清掃員として働いてるんだよ。学園でも知る人ぞ知る裏の姿だ」
「そ、そうでらしたの……」
シャエラには理解しがたい状況――
明らかに戸惑っている。
シュウが話したいのは、こんな話では無かった。
「なあシャエラ……」
「なんでございましょう?」
「シャエラは犯人じゃないんだろ?」
「……何をおっしゃりますの? わたくしでございましてよ」
シャエラは、あくまでシラを切り通すらしい。
「だとしたら、磔にすることはなかっただろ。シャエラもみんなの反応を見ただろ?」
「ええ……」
「行き過ぎた決まりは反感を買うだけだ。風紀を良くするにも、縛るだけじゃなくてもっといい方法が――」
「ミスタ・ハナミヤ」
シャエラは、シュウの言葉を遮る。
顔は俯いたまま――落ち込んだ声で話す。
「ヒトが過ちを犯したとき、どうすれば同じ過ちを繰り返さずに済むでしょうか?」
「それは……慰めるとか、叱るとか」
「ただ怒られるだけで学ぶでしょうか?」
「だからって――」
「ヒトはバツを受けて学びます。それは昔から変わりませんわ……」
シャエラは冷たく言い放つ。
冷たい目――その目の奥は、今にも泣きそうだった。
「……それは、本当にシャエラの意見か?」
「どういうことでして?」
「バツだろうがなんだろうが、ヒトを傷つけるのは違くないか?
過ちなんだって、悪いことなんだって、ちゃんと納得してもらえればいい話だろ? 他に方法はないのか?」
「で、ですからバツを与えるのが1番――」
「おれは、シャエラの意見を聞きたい」
シュウは、まっすぐシャエラの目を見据える。シャエラは耐え切れずに顔を逸らす。
「おれには、シャエラが全部演じている様にしか見えない」
「……もういいですわ、帰りますわねっ」
「お、おい」
急いで立ち去るシャエラだったが、シュウはタイミング悪く壁に掛けていたモップを倒してしまった。
結局逃げられてしまい、シャエラの本当の気持ちを聞くことはできなかった。
ただ、シャエラは何かを隠してる――
シュウは改めて確信した。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる