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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~

(08)荒れる生徒会 ~noise~

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「この件について生徒会は一切関係ございません。わたくしが独断・・で行ったことでございます」

 ホールにいた先生、生徒全員が言葉を失っている。
 冗談にしても、冗談が過ぎていた。

「お分かりになりまして? ですから――」

「ふざんけんなっ!」

 壇上にいるシャエラに向かって、空になった飲み物のボトルが投げ込まれる。同時に、ホール内には罵声ばせいが飛び交った。

「いいかげんにしろよ! そんな権限おまえにないだろっ!」
「なんで捕まってないの?! とっとと自首しなさいよ!」

 勢いがついた生徒たちは、次々に壇上へと物を投げ込んでいく。いくつかはシャエラに直撃するも、シャエラは微動だにせず黙ったままだった。
 数人の先生が慌てて止めに入り、シャエラを壇上から連れ出す。こんなときに、マリー校長もアンナ副校長もいないことが悔やまれた。


「――シャエラさん! なんのつもり?」

 職員室ではシャエラが入り口近くの椅子に座らせられ、その周りを数人の先生が囲んでいた。

「わたくしは事実を話しただけでございます」

「事実って、アリバイは取れているでしょ? それを、どうして今になって……」

 先生たちの制止を振り切り、シャエラは職員室から抜け出そうとする。

「放してくださいます? わたくし、急いでおりますの」

 シャエラは先生たちを冷たくあしらった。
 先生たちも諦めてシャエラを解放する。生徒とは言え、影響力の強いエイブリン家の子女を強く引き留めるのは気が引けた。

「わたくしのことは、いつでも通報して頂いて構いません。では……」

 シャエラは本当に職員室から出て行ってしまう。
 そして、真っ先に生徒会室へと向かった。




 ○○○○○○




 荒れに荒れた生徒総会の後、シュウは掃除用具を倉庫からを持ち出して再び校舎に戻っていた。
 そして予想通り、校舎では大きな騒ぎが続いていた。

「――シュウ、こっちよ」

 エリスに呼ばれ、掃除用具片手に後ろをついて行く。生徒会室の前――大勢の生徒が集まり、口々に声を荒げていた。


 ≪生徒会長! いるんでしょっ!≫


 数人の生徒会役員と先生が対応するが、生徒たちの怒りは当の会長が出てこないとしずまりそうにない。

「マリー校長は?」

「いないわ、アンナ先生もいないの……」

 隣にいたリンとリオラも不安げである。危機的状況を見兼ねたリオラが1歩前に出た。

「おい! おまえら――っ!」

 リオラが声を荒げた瞬間――
 そのフロアにいる全員が脳に激しい揺れを感じる。

 多くの生徒が頭を押さえて静まった。そのままシュウやエリスたちとは反対側の通路に目を向ける。

「――廊下では、お静かにして下さります?」

 シャエラは床に片手をつき、大きな≪波動≫の魔法陣を展開していた。
 廊下で騒いでいた生徒全員をにらみ、毅然きぜんな態度で立ち上がる。

「先ほども申し上げた通り、生徒会は一切・・関係ございません。これ以上迷惑をかけるようなら……」

 堂々と立ったまま、紫色に輝く大きな魔法陣を正面に向ける。
 シャエラの瞳が紫色に淡く光る――

容赦ようしゃ、しませんわ」

 強大な紫色の魔法を前に生徒たちは震え上がった。
 誰も何も言い返すことができず、小言をつぶやきながらその場を後にする。

 その中で1人――リオラだけが廊下の真ん中に残った。

「ミス・リオラ……アナタもりませんわね」

「懲りないね」

「もし、明日もその格好で登校するようでしたら、本当に容赦しませんわ」

「楽しみにしてるぜ」

 リオラの挑発も利かず、シャエラは外に出ていた生徒会の面々を引き連れて部屋の中へと入る。リオラも悔しそうにその場を後にした。




 ○○○○○○




「アナタたちも早く帰りなさいまし。取締は中止で構いませんわ」

「で、ですがっ――」

 副会長のマイカが突っかかった。

 シャエラが犯人なんてありえない。
 マイカだけでなく、生徒会の全員が確信していた。その場にいるほぼすべての人が、シャエラを1人に残すことに抵抗を感じていた。

「シャエラちゃん、何があったの? よかったら話してくれないかな?」

「アドリー……」

 アドリーは心配そうにシャエラを見つめる。
 マイカも初めて見る泣きそうな顔だった。

「平気ですわ、みんな本当にお疲れ様……明日からはわたくしに任せて下さる?」

「でも……」

 シャエラは無理にでも全員を帰らそうとする。みんなからワザとらしく距離を取った。
 そんなかたくな態度に、結局はみんな従うしかなかった。


「――さて、何からやりますかしら」

 生徒会室にはシャエラ1人だけが残る。
 想像以上の静けさだった。

 まずは、魔法軍から受け取った今回の件に関する調査結果の報告資料――
 見たくもない資料で捨てようとも思ったが、シャエラは念のため生徒会室で保管することにした。

 次に、机の上に散乱した中途半端な書類たち――
 これだけ騒ぎを起こし、生徒会の仕事を続けられるとは思わなかった。最後の仕事と思い、シャエラは丁寧に書類を整理する。

「――ふぅ……」

 作業が一段落すると意外に時間が経過していた。これ以上残るには面倒な申請が必要になる。続きは明日にしようと、残りを隅に寄せて生徒会室を後にした。
 そして生徒会室の前、暗い廊下で黙々と働いている者が1人――




 ○○○○○○




「……ミスタ・ハナミヤ?」

「ん? ああシャエラ、今から帰るのか」

 シュウは雑巾ぞうきんとモップでひたすら床を磨いていた。

「……何をしてらっしゃるの?」

「いやさ、あれだけの人が押しかけたから、かなり汚れちゃって……お掃除ロボも諦めたみたいでさ」

「そうではなくて、そちらのお洋服は?」

 シャエラは、シュウが着ている清掃用の作業着を指差す。シュウは胸を張って自慢気に見せびらかした。

「ああ、実は放課後は清掃員として働いてるんだよ。学園でも知る人ぞ知る裏の姿だ」

「そ、そうでらしたの……」

 シャエラには理解しがたい状況――
 明らかに戸惑っている。
 シュウが話したいのは、こんな話では無かった。

「なあシャエラ……」

「なんでございましょう?」

「シャエラは犯人じゃないんだろ?」

「……何をおっしゃりますの? わたくしでございましてよ」

 シャエラは、あくまでシラを切り通すらしい。

「だとしたら、はりつけにすることはなかっただろ。シャエラもみんなの反応を見ただろ?」

「ええ……」

「行き過ぎた決まりは反感を買うだけだ。風紀を良くするにも、縛るだけじゃなくてもっといい方法が――」

「ミスタ・ハナミヤ」

 シャエラは、シュウの言葉をさえぎる。
 顔はうつむいたまま――落ち込んだ声で話す。

「ヒトが過ちを犯したとき、どうすれば同じ過ちを繰り返さずに済むでしょうか?」

「それは……慰めるとか、しかるとか」

「ただ怒られるだけで学ぶでしょうか?」

「だからって――」

「ヒトはバツを受けて学びます。それは昔から変わりませんわ……」

 シャエラは冷たく言い放つ。
 冷たい目――その目の奥は、今にも泣きそうだった。

「……それは、本当にシャエラの意見か?」

「どういうことでして?」

「バツだろうがなんだろうが、ヒトを傷つけるのは違くないか?
 過ちなんだって、悪いことなんだって、ちゃんと納得してもらえればいい話だろ? 他に方法はないのか?」

「で、ですからバツを与えるのが1番――」

「おれは、シャエラの意見を聞きたい」

 シュウは、まっすぐシャエラの目を見据える。シャエラは耐え切れずに顔をらす。

「おれには、シャエラが全部演じている様にしか見えない」

「……もういいですわ、帰りますわねっ」

「お、おい」

 急いで立ち去るシャエラだったが、シュウはタイミング悪く壁に掛けていたモップを倒してしまった。
 結局逃げられてしまい、シャエラの本当の気持ちを聞くことはできなかった。

 ただ、シャエラは何かを隠してる――
 シュウは改めて確信した。
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