篠辺のお狐様

梁瀬

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弥生 新たな決意

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「さぁ、こちらもドンドン運び出して、掃除まで終わらせないと、篠辺のお二人を
待たせる事になりそうだ。気合い入れていくぞ!」
 右京の声に、朝霧も式神達も頷いた。

 東雲側は其々それぞれあるじと式神の二人三脚の運び出しと、考えていたのが甘かった。
人数が居るので、廊下でのすれ違いがスムーズに行かず、手間取ってしまった。
 右京と銀木犀は、まとめてた荷物の順番を考えず、とにかく拝殿へと運び出し、
部屋の掃除を済ませた後、考えて運び入れれば問題ないだろうと作業を進めていた。
 朝霧は、木通がまとめた荷物が大きくて重い為、軽めの物以外は木通に任せて、
掃除に取り掛かっていた。

 一時間と掛からず、外で仕事を済ませた篠辺の式神達が、続々と戻ってきた。
その頃には、猿豆も柚子も運び出しを終え、ほとんど部屋の掃除も終えていた。
 戻ってきた式神達は、まだ掃除を終えていないくりややトイレ、廊下に取り掛かった。
こうなると、どんなに焦っても東雲の作業が間に合う訳もなく、全てを終え待機していた篠辺の式神全員で、東雲庵の掃除に取り掛かり、あっという間に掃除を終えた。

 その様子を間近で見ていた右京も朝霧も、言葉を失う程だった。
単に人数が増えたから、早く終わったという事ではない。実際、何処も掃除は完璧でちり一つない仕上がりだった。
 篠辺の式神達の多くが、自分達の式神より、長く生きていて経験を積んでいるという見方も出来るが、それは言い訳でしかない。
 式神の能力は、経験をさせて引き出さなければ伸びないし、教えたり工夫するという時間を共有しなければ、共に成長していく事が出来ないのだと、実感させられた。

 ここ東雲での仕事は、当たり前だが時間外や神社外での仕事がない。
だから、今までの東雲では式神が必要なかったのだろう。
 それでも、篠辺で苦労してきた二人の口添えで、自分達も有する事が許された。
まずは、意思疎通が出来れば…という言葉以上の事を、考えた事がなかった。
 年明けから、式神達の意識が変わり、自発的に取り組んでいる事も多くなったが、自分達が変われて居なかった事に気付いていなかった。
 
 振り返れば、東雲神社の仕事以外はなかったから、時々は一緒に日常の家事を熟したが、頼まずとも時間に余裕があったので、自分で済ませてしまっていた。
 これから多くの事を抱えざるを得ない状況を想定して、この一年の間に共有出来る仕事を任せられるように、過ごしてこなければならなかったのだと、今更ながら気付かされた。
 篠辺の式神達が、今現在多くの事を分担し、指示が無くても連携して熟せるのは、あるじと一緒に共有した年月と、主が式神を信頼して仕事を任せたからだと分かった。

 数日後には篠辺での生活が始まるが、主がしっかりと方向性を示さなければ、式神が成長する事はない。
やはり気付くのが遅かった…が、気付けたのだから改善していこう。
 全ては自分と信頼する式神で熟して行かなければならないのだと、再認識し決意を新たにする二人だった。

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