篠辺のお狐様

梁瀬

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やっと年末休み

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 年の瀬から年明け三日まで、要石の件、神事や予想外の来客と、様々あった故、
あやつらも落ち着かなかったじゃろう。
 そうじゃ。あやつらを出掛けさせよう…。
…じゃがのぉ…ただ、気晴らしに何処かに行ってこい。…では、あやつらは行かぬ。
 この際、行きたい所かどうかではなく、行って来い!と行かせられる所でもよい。
あやつらが断れず、行く気になる所…そんな所あるか?…仕事を絡めれば断れぬか。
 ならば、伏見と御嶽じゃろう。

【ちと、良いかのぉ?】
〖珍しい…なんだ?〗
 狐は、この休みの間に、あやつらに出掛けさせようと考えている事。出掛けさせるためには理由が必要で、東雲は御嶽に。篠辺は伏見に。と考えた事を話した。
 確かに、その理由なら断れず、出掛けるだろうと話が決まった。

 早速、拝殿の祭壇前に両主祭神が鎮座して、東西に両神社の神主と巫女が座り、
その後ろに式神達が控えた。
 突然、両主祭神方からの呼び出しに、驚きを隠せない両神主と巫女達だったが、
心を静めて、これからの成り行きを見守っていた。

〖右京と朝霧は、真神の祀られている神社へ行き、見聞を広げてこい。〗
大神様は、はっきりとした通る声で言い渡した。
【左京と夕霧は、狐の仕えし宇迦之御魂神のおる伏見に行き、見聞を広めてこい。】
お狐様も、いつになくおごそかに言い渡した。

〖東雲に勤めて四年目。最後の年でもあり、節目の年でもある。一度、行って見て
おくのも良いだろう。〗
「分かりました。先方に連絡してみます。今から宿が取れましたら行って来たいと
思います。」
 右京は、朝霧と顔を見合わせて、一緒に退席した。

【なんじゃ…?東雲の者達の方は動き出したぞ。…如何した?】
「ん~。東雲の方は、行ってご挨拶…というのも分かりますが、こちらは既に倉稲様にお会いしていますし、かなりの時間、一緒に過させて貰っていますから、今さらというか…。」
 左京は、何となく納得出来ずにいた。
「そうなんですよ。倉稲様にご挨拶も、お話も十分にさせて頂いていますからね…。伏見に行かなければならない訳が、他にあるのではありませんか?」

 何処までも一筋縄では行かぬのぉ…。
【此処以外の神社を見て来る事で、何か得られる物があるかも知れぬじゃろう。】
「確かに、そういう事もあるでしょうが…得られても、此処で使えなければ意味が
ありません。私達は東雲、篠辺の両神社以外で勤める事はありません。」
「何か他にお考えがあっての事ではありませんか?此処に私達が居ると不都合があるとか?例えば、左京さんと私に知られたくない事…とか。倉稲様がいらっしゃるのだとしても、私達は庵と厨と庭以外には立ち入らないとお約束致します。それでも私達は差し支えありませんから、お気遣いなく。何かお考えや、なさりたい事などがありましたら、お役に立てるかは分かりませんが、お話しください。」
 こやつらは素直さの欠片もない者共じゃ。余計にかんぐって在りもしない事を、想定しておる始末…まぁ、篠辺に居れば当然か…。話した上で行かせた方が良いかも知れぬのぉ。

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