篠辺のお狐様

梁瀬

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年明け 思いの丈と蝋梅

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 […確かに。それなら今からでも可能かも知れません。…しかし、何を書いたら…。]
「私に話された胸の内を飾らない言葉で、手作りの贈り物をしたくて手紙にした事、今まで過ごした時間に感じたこと、これからの二人のこと。……思いの丈を精一杯、詰め込んでみては如何でしょうか?…私が趣味で集めていた和紙で良ければありますし、筆もご用意出来ます。時間がありませんから、集中して書けるようにお茶室に、手配します。」
要石の表情が明るくなり、目にも活力がこもった。
 [すまない。助かった…こんな話を真剣に聞いてくれて、ありがとう。]

 夕霧は、すぐにお茶室に準備して、要石がいつ来ても使えるようにした。
そして杏と鴉山椒に、要石との経緯を話して協力して貰い、朝霧を引き止めるついでに、〝要石と一緒に食べる夕食の準備〟という名目で料理をして時間を潰してもらった。
 夕霧は、柚子を誘い裏山へ散歩に出かけた。

「要石様のお手伝いという事があったにしても、ゆうさんから散歩に誘ってもらえて嬉しいです。…二人だけでのんびり…って、ぁあ!ゆうさん、大丈夫ですか?」
柚子は並んで歩いていた、夕霧の右腕を掴んで引き寄せた。
「ごめん。気を付けてたのにつまづいちゃった。ありがとう…柚子と一緒で良かった。」
「……また、転びそうになるかも…知れませんから、このまま…歩きますか?」
柚子は思い切って、夕霧に提案した。
「え?このまま…は、歩きにくいから…。こういう感じじゃダメかな?」
夕霧は右腕を、柚子の左腕にからめた。

「…ぃいです。ゆうさんの行きたい所まで、ずっと…このまま私がお連れします。
……で、どちらに行かれるのですか?」
いつもより近い距離にいる夕霧の顔を覗き込んだ。
「まだお店とか開いてないだろうから、ここに咲いてる蝋梅ろうばいを持ち帰って、手紙に
添えて渡したら、どうかなって思ったの。」
柚子の顔を見て、照れたようにフワっと微笑んだ。

「この蝋梅は、逆さ枝やひこばえが出てますね。それを切って持ち帰りましょう。」
柚子が手際よく枝を選び、切ってくれた。
「ありがとう。本当に蝋細工みたいね…。」
夕霧は、蝋梅の木を見上げて見入っていた。
「あまり遅くなると心配を掛けますから、そろそろ戻りましょう。…ゆうさん。」
柚子は左腕を少し浮かせて、夕霧の方へ肘を差し出した。
「そうね。一緒に帰ろう。」
柚子の腕につかまり、来た道をゆっくりと帰って行った。

「開けても、よろしいですか?…お手紙書けました?…そうですか。あの…良かったら、この蝋梅も一緒に…如何でしょう?」
夕霧は、押し付けにならないように、そっと差し出した。
 [いい香りですね!良いんですか?頂いてしまって…。]
「はい。久しぶりに裏山の散歩を楽しみました。」
要石は、嬉しそうに受け取り、
 [夕霧さんには、何から何まで…。本当にありがとうございました。]

 夕霧は、要石の思いが朝霧に届く事を願いながら、見送った。

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