篠辺のお狐様

梁瀬

文字の大きさ
上 下
126 / 180

年明け 東雲の土鈴

しおりを挟む
『呼び出したりして、すまぬ。今夜行う集いに、菓子と酒とつまみは欠かせぬらしいのじゃ、用意して貰えぬか?』
 依頼内容は事前に知っていたが、大変言い難そうに小さくなって頼む、倉稲様の
様子を見て、何も言えなくなってしまった。
 恐らくは初めてのプチ家出、長年思い続けた篠辺狐のいる神社でお泊り、相手に
難はあっても打ち解けて話せるものと、夜通しの四方山話よもやまばなしの予定で、はしゃぐなという
方が無理だろう。

「承知しました。前もってお伝えしておきますが、夜中に追加などというサービスはありませんので、悪しからず。」
『勿論じゃ。頼みを聞いて貰って助かった。…で、…さっき小耳に挟んだのじゃが、東雲の狼が、満月の夜に頭痛を起こしていたのは、恋煩いじゃったらしいぞ。』
「恋煩い…」
左京は、急な話の展開と内容について行けず、ただ復唱した。
『そうじゃ、白日を太陽と満月を見ては思い出していたらしい。殊更ことさら、夜空に輝く
満月は眩しく、眠れぬ夜を過ごし、無理に忘れようとする度に、頭痛や胸の痛みが
あったと話しておった。』
 ここまで聞いて、やっと飲み込めた。なるほど…そういう事だったのか。

『それも今日を境に無くなるじゃろう。白日を帰す時、東雲の狼に場所を覚えさせた。さらに白日を寂しがらせぬように頼み、そのあと、日没後から半刻の間で鏡越しに会う約束を交わしておった。出来る限りで良い協力してやって貰えぬか?』
「お心遣い痛み入ります。事前にお話を伺っていれば、こちらも出来るだけの対応を
致します。有り難う御座います。…こちらからお聞きしてもよろしいでしょうか?」
左京は神主として深々と頭を下げて感謝し、改めて倉稲様をみて尋ねた。

「こちらと神々の住まう所では、時間の流れは違うのでしょうか?…日の出、日没
以外で、共通のものはありませんか?」
『何故、そのような事が知りたいのじゃ…。』
「お二人の待ち合わせは、日が短い時のみ有効ですが、それ以降は指定するのが、難しいように思うのです。それでしたら白日神様がお部屋に戻られて、会える時に合図をする方が確実かと考えました。如何でしょうか?」
『確かに。じゃが、そのような事が出来るのか?』
「こちらで用意する事は可能ですが、それを神々の住まう所へ持ち込む事が出来るのかが…分からないのです。」

『どのような物じゃ?』
「東雲神社で販売されている土鈴です。それに大神様の思いを込めてもらう。という物なのですが…難しいでしょうか?」
『なんと!そのような事で良いのか。』
「恐らくは可能でしょう。東雲の閉門後、大神様がそちらへ意識を繋いでさえいれば
なら、境内の何処ででも聞こえるでしょう。」
『おぉ…白日の為と思うて、東雲の狼に仕向けては貰えぬか?』
「承知致しました。…それとは別に…私から一つお知らせしたい事があるのですが…無作法者の私には上手く伝える術もなく…」
『そのような事、気にするでない。なんじゃ?』
「はぃ。倉稲様は常日頃、特定の方と内緒話をなされる事はありますか?此処に居る時も同じで、木通と話している時は、木通のみに集中して話さなければ、皆に聞こえてしまいます。……この意味がお判りでしょうか?」
倉稲様は息を呑んだ。

『では、先程の話は…皆に…。そうなのか?』
「えぇ。お狐様にはお伝えしなくても良いかと…。」
倉稲様は近くの柱に、しな垂れかかるようにして力が抜けて、その場に座り込んだ。
『そうであったか…。以後、気を付けよう。…で…篠辺は何か…言っておったか?』
「相手が木通ですから、何も仰っていませんでした。」
左京のフォローにもならない事実に、泣きそうになりながら
『うぅ…改めて、話をしてくるとしよう。重ね重ね、すまぬのぉ。』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

うちの娘と(Rー18)

量産型774
恋愛
完全に冷え切った夫婦関係。 だが、そんな関係とは反比例するように娘との関係が・・・ ・・・そして蠢くあのお方。 R18 近親相姦有 ファンタジー要素有

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...