篠辺のお狐様

梁瀬

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年明け 倉稲様の家出⁈

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 年明け早々から、倉稲が騒々しく来おった。
『酷いとは思わんか…古臭い考えが捨てられぬ兄が〝女子の幸せは、良き伴侶に
嫁ぎ、我が子の成長を見守る事だ。〟なんて、今になって言い出したのじゃ。』
 倉稲の兄(大年神)は、妻も子供も多く、実に家族思いの男神じゃが、倉稲を溺愛しておる事でも有名じゃった。

【ついに、溺愛しておった倉稲を、手放す気になったのか?】
たわけ、篠辺!あの兄が、急におかしいであろう。故に、周りの者に聞いたんじゃ…すれば、兄の旧友と会食の席を設けて、その席にわれも同席させ、二人の縁を結ぼうと考えておるらしいのじゃ。確かに兄の旧友は豪快で勇壮なのじゃが、われは既に思いを寄せておるものがおると告げておるのに、何を考えておるのか…全くもって
勝手過ぎる!』

〖もしかして…飛び出してきたのですか?〗
『そうじゃ!当然であろう。……左京と夕霧、右京と朝霧、突然で申し訳ないが、
どうか頼む…。暫くの間、われを此処に置いてたもれ。…迷惑はかけぬ故、空いて
おるところなら、何処でも良いので泊め置いてたもれ。』
 どんなに深々と頭を下げられても、正直、神主にも巫女にも、何の権限もないし、賛成も反対も出来るような立場にない。
 そもそも次元が違い過ぎる〝兄妹喧嘩〟で、人の身で関わって良い事柄ではない
気がする。

「……倉稲様、われらは確かに神主と巫女として、この神社に務めておりますが、
そもそも、神々が置いてくれと申し出るシステムではありませんし、此処は宿屋ではありませんので、空いているところに、泊め置いてくれと言われましても……。
もし許可を得るのであれば、両主祭神様方かと。お狐様、大神様が良いと仰られるのでしたら、我々は、精一杯お世話させて頂きます。」
 左京の華麗なパスで、狐と狼は揃って狼狽眼うろたえまなこで、身を固くした。

『われが知らせもせずに来た事で、迷惑を掛けておる事は謝る。…すまなかった。
しかしながら、このまま追い返す事だけは、…許してたもれ。…せめて、われが冷静になれるまでの間、数日で良いのじゃ。軒下を借してくれぬか。』
 狐と狼を交互に見ながら、懇願した。
【…長くても、三が日までじゃ。それ以上は、大年神が乗り込んで来そうじゃ。】
〖確かに。三が日までという事なら…拝殿で過ごされるのが良かろう。〗

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