篠辺のお狐様

梁瀬

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師走 もしもの…

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 要石を擬人化するため、朝霧と夕霧、その周辺に結界を張る木通、一応、緊急時の対応と連絡役として柚子が配置されていた。
 木通は、常に和装をしていて、背中側の腰に神楽笛かぐらぶえを差し持ち歩いている。
神楽笛は竹製で、やや低い音を出す長い横笛。これを用いて結界を張る事が出来る。
 
 要石の横に朝霧、向かい合うように夕霧、それを囲える位置に木通、その外側の東西にお狐様と大神様。そして柚子。いつでも執り行えるという時になって、
「夕ちゃん、私に任せて貰えないかな…。もし無理だと判断したら、夕ちゃんにお願いする。……実は今までずっと要石と触れ合って来て、私なりに古い文献も読んで学んで、式神の木通を有して擬人化の方法も理解した。だから私に要石の擬人化をやらせて貰えない?」
 その場の誰もが、朝霧の言葉を聞いて直ぐには返事が出来なかった。

〖どうした…急に。夕霧の負担を考えての事なら、毎年交替にするとか決めればいい。だが、そういう感じでもなさそうだ。何か訳があるのか?〗
「…はい。自ら要石に座り戻られたあの日以来、ほぼ毎日、要石に触れ話して来ました。初めは…地脈や水脈の事を教えて貰うのを目的としていました。…そのうち、日常の事や互いの事などを話すようになり、自然と…互いの気持ちが…寄り…添うようになりました。」

【ほぉ!】
〖何を言ってるか分かってるか?アレは人ではなく鎮守の要石。お前は巫女だ。〗
「お互い悩み、一時は…諦めざる負えないと思い、心の奥底に…思いをしまう覚悟も致しました。でも、私が生きている間は…要石に触れ、話す事が出来ます。年に一度は擬人化し…触れ合う事も出来ます。…私達は…今を…この気持ちを……押し殺す事など出来なかった。……許して欲しい…と願ったり致しません。…認めて欲しいなどと…は…言いません。……ただ、これから先は私が…人のお姿にして差し上げたいのです。」

 夕霧は朝霧の思いを知り、どのような言葉も出てはこなかった。離れた所で、柚子もまた同じく言葉を失い、夕霧を見つめていた。木通だけが、今までずっと朝霧を見て来ていた。だからこそ、この沈黙に耐えられなかった。
「何この沈黙⁈…反対だとか、諦めさせようとか、そのためのthinking time⁈…ありえない!キツくて辛いのも覚悟した朝姉の言葉でしょ。……まして、これからは自分で擬人化したい…っていうだけ、どの道、誰かが擬人化しなきゃいけない訳で、それを朝姉がやりますってだけでしょ。…仕事中毒的な巫女発言でしょ!」 

【次年度は篠辺の巫女じゃ。絞られるのは必須じゃ、覚悟しておけ。アレにうつつを抜かしておる暇があるかのぉ…。じゃが真瀬の血は、狐を飽きさせぬのぉ……美丈夫の次は、織姫とは…愉快じゃのぉ。】
〖おい!愉快じゃ済まないだろう。辛い思いや、やり切れない事もあるだろう…。〗
【何時から犬が、朝霧の父になった?実父にはアレを紹介する事も出来ぬ、どうせ見えぬじゃろう。もし犬が父親代わりなら、朝霧が泣かされた時に、要石に後ろ脚で目一杯、砂でもかけてやれ!……下世話な事を申せば、だけはせずとも良かろう。】

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