篠辺のお狐様

梁瀬

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宴の終わり

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【倉稲、そろそろ戻らねばなるまい。】
『そうじゃな。あっという間じゃったのぉ…楽しかった。また必ず来る故、その時は頼むぞ。…篠辺、再び大鏡を仕舞いこむような事をしおったら、許さんぞ!』
倉稲様は、怒ったような寂しいような表情で、狐に詰め寄った。
【あぁ。】
そっぽを向いて九尾を揺らした。
「御安心ください。大鏡は本殿に置かせて頂きます。朝夕の神替わりの際は、お狐様も大神様も必ずお出でになられますし、こちらに御用がおありの時や、主祭神様方とお会いしたい時は、御声掛けくださいませ。度々お越しになられるのは難しくとも、大鏡越しに御会いになられるように、大鏡は立てたままの状態で、しっかりと固定致します。倉稲様の御声が、いつでも主祭神方に届くようにさせて頂きます。」
両神社の神主が、固く約束をした。
『おぉ…嬉しいのぉ。そうか…楽しみじゃ。今まで長きに渡って会う事が叶わなかった故、まるで夢のようじゃのぉ。両神主、手間を掛けさせるが、よろしく頼む。』
宴が終わり別れの時が来ても、倉稲様の表情は、にこやかで穏やかだった。

〖名残惜しいですが、これ以上お引止めすれば、一層ご迷惑をお掛けしてしまうで
しょうから…。お会い出来て、ゆっくり話せて、とても楽しい時間をご一緒出来て、嬉しかったです。またお会い出来る日を楽しみにしております。〗
大神様は、倉稲様をみて伝えると、東雲へ戻って行かれた。
【倉稲、すまなかった。これからは立場が悪くなったり、良からぬ噂が出ぬ程度に、息抜きに来れば良い。…さぁ、もう戻れ。】
倉稲様は、寂しげな表情こそなさっていなくとも、名残惜しく、後ろ髪をひかれる
ように、何度も振り返りながら
〝楽しかった〟〝頼むぞ〟〝ありがとう〟〝またな〟〝必ずじゃぞ〟などと、皆に声を掛けて戻って行かれた。

「何か、すげぇ休みになっちまったな。びっくりして、ハラハラして、楽しかった
けど、正直疲れたぁ…。」
左京が胡坐を組んで、後ろに両手を付き、天井を仰いで、珍しく独り言をいった。
「そうだな…。最初はどういう状況か全く分からなかったし、どうなるかとドキドキしたよ。」
左京の隣に、同じように座りながら、右京も天井を仰いだ。
「よぉっ…イケェメン双子ぉ神主ぃ~。もしかしてぇ、私を~待っていてぇくれたぁ?」
そういって木通が登場すると、両神主はすくっと立ち上がって
「取り敢えず、厨に運んじまおう。」
「そうだな。」
数分前のノスタルジックをかき捨て、強制的に現実と向き合った二人は、足早に片付け始めた。

「ごめんね。木通を置いて来たら、片付けするから…。」
朝霧は木通に肩をかし、何とか立ち上がった。
「朝ちゃん、東雲は今日も仕事だったし明日も早いから、片付けは私達でやっておくから、そのまま休んでね。」
「…大丈夫?」
夕霧は笑顔で頷き、
「左京さんも手馴れていますし、式神達も居るから心配しないで。」
「ありがとう。左京さんにも〝お先にすみません〟と伝えてね。」
朝霧は、酔っぱらいの木通を支え、ふらふらと東雲に向かった。
「オレも手伝います。」
銀木犀も反対側の腕を担ぎ支えた。
「えぇ…帰るのぉ。もうチョットぉ~。ぃや~帰らないぃ~。ヤダぁ!…歩か…ないからぁ。もぉ…銀ちゃん痛いぃ、優しくしてくれないとぉ~添い寝しちゃうぞぉ!」
木通は、物干し竿を通して干したシャツのように担がれ、両足を引き摺られるように連行された。

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