篠辺のお狐様

梁瀬

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比重と再会の約束

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 皆が、和やかに話し、時折、笑い声も聞こえる宴になった。
「ゆうさん、どちらへ?」
夕霧が席を立つと、柚子が声を掛けた。
「そろそろお料理の続きと、お酒も運んで来ようと思って…。」
「ぇ?…夕さんって言った?何時から…。」
左京は、そういう変化を聞き逃さないタイプだ。
「さっき、柚子と話して決まったんです。」
それだけ伝えると、夕霧は準備に向かった。追いかけようとした柚子を摑まえて、
「はぁ…真っ直ぐ伝えられるのが、羨まし過ぎる。」
左京は、頭をガシガシと搔きながら言って
「オレも、時間外や休日用の呼び方を了承して貰うかな…。」
俯きながら、小声で呟いた。
「私は、左京さんが羨ましい。…私は人にはなれませんから。」

 柚子の哀愁を帯びた声色に、左京は心が軋み、言葉を失った。
オレも、側で同じ時間を過ごし、同族であっても、関係性を変えられない状況は同じ
寧ろ、無条件に受け入れて貰える立ち位置で、忌憚なく話せる方が羨ましいとさえ
思っていたが…互いの気持ちの比重が違えば、密度が高い方が重くなっていき、
行き場も置き場もなくなっていく感覚に囚われ、真綿で首を絞めてしまうのは、同様だと気付いた。
「鴉山椒、こっちで足りないものに気付いたら、知らせてくれ。」
そう伝えて、厨へと向かった。

「ゆうさん、こちらは私が拵えますので、あちらをお願いします。」
「分かった。盛り付け次第、柚子の方へ行けると思うから。」
「はい。」
厨へ向かう廊下から、そんな声が漏れて来て、足が止まりそうになったが、
「オレは、酒の準備をして運んでくるから、よろしく。」
そう伝えて、黙って酒の仕度をした。
 鴉山椒も来てくれて、料理と盛り付け、運びと順調に進んだ。
「後は、酒の追加だけだな。皆、お疲れ様。終わっちゃいねぇけど、昼間のガタガタから今まで、正直どうなるかと思ったけど、倉稲様とお狐様も何とかなりそうだし、一安心だ。ありがとう。」
 左京の表情も穏やかになった。

『どれもこれも美味じゃのぉ…。篠辺も真神も、此処に居ってこの料理が出てくれば、神無月に出向かずとも良いな。暇を拵えて通うのも良いのぉ。』
【暇などあっても倉稲の姿が見えなくなると、大年神おおとしのかみが大騒ぎする故、頻繁に通うのだけは勘弁してくれ。】
『兄上には気付かれぬように、多めの仕事と面倒事を与えてから抜け出す故、案ずるな。それに年内は無理じゃが、出来るだけ早くに再度来る。その時はまた頼むぞ。』
〖何か用向きがあっての事のようですが、急ぐ事なのですか?〗
大神様が心配そうに伺った。
『そうじゃ!姪にも知らせて、此処に連れて来なければ、恨まれてしまう。』
白日神しらひのかみか?何があったんじゃ?】
倉稲様は、大神様を見据えて
『われと一緒じゃ。白日神も、あの日助けて貰ったお礼が言えず仕舞いだと嘆いておった故のぉ。』
「それでしたら、満月の日にお越しください。大神様が一日お休みなので、ゆっくり話せるかと思います。」
右京が倉稲様に伝えると
『そうか!良い事を聞いた。その時は右京、頼んだぞ。』
 日程は分からずとも、用向きと、倉稲様と白日神がお見えになる事も分かった為、皆が一様に再会を楽しみにした。

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