篠辺のお狐様

梁瀬

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初めての称賛

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【すまん。迷惑を掛けると思うておった故。ただでさえ、倉稲は目を引く。
その側にいると面白がって、有らぬ事を言いふらして、憂さを晴らしておるものも
おる。耳にした時に、こそっと潰しておくのは容易いが、咄嗟の事だったとはいえ、宴の席では目が多い。倉稲を傷つける事になるやも知れぬと思うて…。それに思い人との縁談だと聞いておった故…。】
『だからじゃ!何故、縁談の話を、われに聞かなかったんじゃ!』
倉稲様は俯いて、着物を握りしめ、大声を出した。
【そのようなものが居るとは聞いていなかったが、狐が知らなかっただけだと思うて…。色恋に興味がなかった故、倉稲が狐には話せなかったのだろうと思っておったんじゃ。すまぬ。】
珍しく狐も、しおらしく誤った。

 この行き違いは、両者が片思いを拗らせたものだと理解出来ても、誰もが触れる事が出来ず、見守るほかなかった。
「ねぇ…いつまで遠回しの告白⁈っていうか、のろけ話を聞かされる感じ?
正直、お腹空いちゃったんだけど、黙って居れば、食べてて良いんだよね?」
〝さすが!木通〟そう誰もが心の中で称賛しながらも、万が一その発言が逆鱗に触れてしまって、〝今生の別れが来ても忘れない。〟と思っていた。

『そうであった。折角仕度して貰ったんじゃ、美味しく楽しく頂こうではないか。』
〖倉稲様、こちらの和え物は、なかなかにイケますぞ。〗
『そうか!どれどれ…ほぉ!確かにイケるのぉ。』
【おぃ!食べ…】
狐は入り口に立ったまま、再び、宴を中断するような事を、言い出しかねなかったので、左京は狐を席に着かせ、夕霧は狐に酒を勧めた。
「再会の宴です。楽しんでください。続きはお二人で、じっくりどうぞ。」
そういって夕霧は、自席へと戻った。

「あれ?柚子、ここじゃないでしょ?」
夕霧は、隣に柚子が居るので移るように伝えると、
「左京さんの計らいで、ここに座らせって頂きました。」
そう嬉しそうにいった。
「腹減ったし、細かい事なんて見ちゃいねぇし、良いんじゃね?」
左京は、そっぽを向いたまま素っ気なくいった。
「ありがとうございます。」
柚子は、左京を見ながら伝えた。
「麗しの左京さんは、男前よねぇ~。敵に塩を送るなんて…。寂しい時は、いつでも木通がお側に居る事をお忘れなく。」
夕霧は、何の事だか分からず、首を傾けたが、左京は、悪寒を感じて身震いし、
心底、嫌そうな顔をした。

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