篠辺のお狐様

梁瀬

文字の大きさ
上 下
101 / 180

嘆き

しおりを挟む
『なんとっ美味じゃ。夕霧と鴉山椒だけで拵えたのか?』
倉稲様のお口にあったようで、興奮気味に聞かれ
「いいえ。流石に時間がなかった事もあり、私と柚子さんも一緒に作りました。」
『そうであったか!良い腕前じゃ。此処に来るのが楽しみじゃ。』
【呼んだ覚えも、許可した覚えもないが。】
狐は、いつになく厳しい声で言い放った。

〖倉稲様に何て事を!〗
『われが来ては困るのか?』
目を伏せて、弱々しい声で聞いた。
【ああ。困る故に〝大鏡〟を仕舞ったんじゃ。倉稲、このような所へ来て何をして
おる。思い人との婚儀を挙げたのなら、あちらにて大人しくしておれ。】
狐の言葉に、倉稲様も言葉を失った。

『いつ、誰が婚儀を挙げたんじゃ?めでたい話じゃが、婚儀などあったかのぉ?』
【あの宴席で、倉稲に縁談があって思い人とやっと…と聞いた故、騒動を起こした
狐が側に居れば、話が立ち消えになるやも知れぬと思うて、後の事を他の狐に任せ、大鏡を仕舞ったんじゃ。思い人との縁談は如何した?】
 狐は、心配そうに聞いた。

『うむ。縁談の話はあったが、アレは兄上が断れずに話が進んでおったんじゃ。
思い人という話ではなく、長い事思うておったものとの話じゃ。
われが、詰まらぬ縁談などすると思うか?』
倉稲様は、忌々し気に狐にいうと
『大体、縁談相手が宴に居ったのなら、そやつが真っ先に止めに入るのなら分かる。じゃが、そやつは何も言えず、何もせず、おたおたとしておっただけじゃ。
何が長い事思うておったじゃ、笑止千万。あの時、われを背に庇うてくれたのは、
篠辺であろう。巻き込まぬようにと遠ざけてくれたのも、篠辺じゃった。一時的に、騒ぎと起こしたものと一緒に出されはしたが、そうでない事は、宴の場に居たものが見ておった故、何も案ずる事はなかった。助けにも来ず、些細な事を気にして縁談を断られたとて、困らん。そのようなものなら願い下げじゃ。』
 ここまでの流れで、皆が何となく理解した。気付かぬはのみ。

『あの後、何故、われに聞かなかった。聞かれておったなら、淀みなく話せた。
篠辺の思い込みで、われは何百年待たされた事か!そのような時だけ凡庸じゃのぉ。常に言いたい事を何でも隠さずいう癖に、いったい誰への気遣いじゃ…。
篠辺の馬鹿馬鹿しい気遣いに、われは、何百年と無駄にしたんじゃ…。
あの時の礼も言えぬまま、只々、何も映さず、何も聞こえぬ、大鏡の先を見続けて
待っておったんじゃ。』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

うちの娘と(Rー18)

量産型774
恋愛
完全に冷え切った夫婦関係。 だが、そんな関係とは反比例するように娘との関係が・・・ ・・・そして蠢くあのお方。 R18 近親相姦有 ファンタジー要素有

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...