篠辺のお狐様

梁瀬

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過去 左京

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「本当に大丈夫かしら?」
少し心配そうに、息子達の顔を見比べた母親に
「大丈夫だって!」
「食事の仕度はしてあるから、しっかり食べるのよ。」
そんな会話をして、母は同窓会へと出掛けて行った。

「どーする?父さんも仕事だし、母さんも出掛けたし…二人で何処か行こうぜ!」
弟の言葉に同意し、兄弟は近くの川で遊ぶ事にした。
 午前中から、昼食も食べずに夢中になって川遊びをして、夕方、帰宅した二人は
「あ~暑い。喉乾いた…。」
「腹減った~。」
 靴を脱ぎ、手を洗う、いつもの習慣を当たり前に済ませ、冷たい麦茶を出し、ごくごくと喉を鳴らして飲み、母親が作り置きしてくれていた料理を温めて、テーブルに並べて食べた。
 今日の片付けは、右京の当番だったので、左京は先に風呂へ入った。
続いて右京が風呂に入っている間、左京はリビングでテレビを見ながら、ソファーに寝転んでいた。
 風呂から上がった右京は、キッチンで牛乳を飲みリビングへ行くと、弟はテレビをつけっ放しで寝ていた。
早い夕食と風呂を済ませたので、少し寝かせてやるか!と、部屋から弟のタオルケットを持って来て、そっと掛けてやった。

 暫く右京もテレビを見ていたが、いつも寝相の悪い弟が、余りにも良く寝ているので覗き込むと、少し赤い顔をして、はぁはぁと苦しそうな息遣いをしていた。
 弟の顔に触ると熱く、どうしたら良いのか分からず不安になって、父の携帯に連絡したが、留守電になってしまった。
 一応、メッセージを残しておいたが、直ぐに連絡もなく、自分達が熱を出した時に、母にして貰った事を思い出し、熱を測り、冷たい枕をしてみたが、苦しそうな息遣いは変わらず、居ても立っても居られず、弟を背負って掛かり付けの診療所へ駆け込んだ。
 未就学児の兄弟が慌てた様子で駆け込んできたので、スタッフは驚き、直ぐに弟の診察と、必要な処置をした。

 近くで看護師さんに、今日一日何をしていたのか、弟の様子に気付いたのが何時頃か、母にして貰ったようにしてみた事、今日は母が出掛けていない事、もしもの時にと置いてあった父の名刺と連絡先のメモを渡し、一応留守電にメッセージを残した事、どうしたら良いのか分からなくて怖くなって、弟を背負って診療所に来た事を話した。

「同い年の弟を背負って、此処までよく頑張ったな。後は先生が、ちゃんと見るから大丈夫だよ。」
医師に言われ、安心して泣き出してしまった。
スタッフや看護師にも、〝もう大丈夫だよ〟〝良く頑張ったね〟〝ちゃんと話が出来て偉かったね〟〝すごいよ〟と口々に言われた。
 
 会議が終わった父が携帯を見るとメッセージが沢山あり、右京から何件か入っていて、最後のはパニックになった右京が連絡してほしいと言っていた。その次の見慣れない番号からのメッセージは、近くの診療所の医師からで、左京の症状と今現在入院している事、兄の右京も一緒に預かっているというメッセージだった。
 上司に事情を話し、早退させて貰い、急いで診療所へ向かった。

案内された個室につくと、左京のベッドのかたわらに縋り付くようにして、泣いている右京がいた。
声を掛けて近付くと、右京は体を強張らせて
「僕のせいです。」
そう言って、俯いてポトポトと床を濡らし、自身の服を握りしめて、立ち尽くした。
 そんな息子を抱きしめ、一緒に近くのソファーに座り、背中を擦りながら、右京の言葉を待った。

 少しして右京は、今日一日を順を追って話し出した。
全てを伝えた右京は
「僕が母さんの言い付けを守らなかったから…」
「もし川遊びに行かなかったら…」
「もっと早く帰っていたら…」
「ソファーで寝ていた時に、様子が変だって、もっと早く気付いていたら…」
ぽつりぽつりと、右京は自分を責めていた。
 
 涙を堪え、ギュッと拳を握り締めて、弟を見つめている右京に
「ありがとう。お前が居てくれて良かった。お前が居てくれたから、早い処置が受けられたんだ。本当にありがとうな。」
そう言って、右京を抱きしめた父。
 
 左京が意識を取り戻すまで、交替で片時も離れる事なく家族が付き添った。
熱は二日間下がらず、昏睡状態から意識が戻ったのは、入院して三日目の夜だった。

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