篠辺のお狐様

梁瀬

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出会い 4 生まれ持った質

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 5歳の右京は、左京のような好奇心の塊といった奇行はなかった。
そこは一卵性双生児じゃ、右京に好奇心がなかった訳ではない。
 ただ左京より僅かに慎重で、何より弟を大切にしておった。
 
 右京は、一緒に来た両親に、先に行く事を断ってから、鳥居をくぐって弟と共に駆け上がってきた。
まず、境内を一望し、周囲を把握するような様子を見せた。
 ここまでは、ちょっと育ちが良く、落ち着きのあるガキなら出来なくもない。
じゃが、あやつは犬を見ても動じる素振りもなく、その存在ごと吞み込みおった。
 それだけではない、あやつの首がもげ落ちる程の高さがある、神木の上におる狐も一瞥いちべつし認識したにも関わらず、顔色一つ変えなかったんじゃ。
 齢5つのガキにしては、肝が据わり過ぎじゃろう。

 弟が、剝き出しの好奇心を垂れ流している時、右京は、両親に自分達の居場所を伝え、祈祷の時間を聞き、落ち合う場所を確認しておった。
 長男として生まれ落ちたからか、産まれた時より弟がいるからか、両親の期待に応えようとしてか、理由は知らんが、とても一卵性双生児とは思えぬ程の違いじゃ。
 5歳の右京が、落ち着いているとか、肝が据わっておるとか、協調性があるというのも、同じ年のガキ共と比べれば、驚嘆に値するかも知れぬが、本当のあやつの凄さは、〝冷静な状況判断〟と、〝一旦受け止める柔軟性〟じゃ。  
 大人であっても、ガキでも、これは齢や経験で何とかなるものばかりではない。
冷静な状況判断が経験上出来たとしても、理解を超えるものと遭遇して丸呑み出来る者が、どれ程おるじゃろうか?
また、その両方を同時にこなせるものとなったら、どうじゃ?

 これは、右京の生まれ持ったたちじゃ。
分かっていて真似ようとて、一足飛びには行かぬじゃろう。
 あやつの慎重さも、周囲の者への優しさも、落ち着きも、視野の広さも、肝の据わり具合も、協調性も、ちと持ち過ぎじゃが、どれも右京の質じゃ。
 一見大した事じゃないように思うかも知れぬが、成長しながら身に付けたものではなく、生まれ持った質というのが、話の肝じゃ。

 この時すでに、左京は独往どくおう。右京は漸進ぜんしんと、歩み方が違っておった。
独往とは、自主的に歩みを進める事。
漸進とは、順を追って段々と進める事じゃ。
 双子だから同じと思うて、周囲の者が、安易に一括りに仕勝しがちじゃが、
同質、同等、同様、同種ではない。
 当たり前じゃが、同一でもない。

 こやつら4人とは、今でこそ深い関わりになっておるが、この時は、ただの見知らぬガキ共じゃったのに、出会いが強烈で衝撃的だった故か、狐の中で〝栴檀せんだんは双葉よりかんばし〟と浮かんでおったんじゃ。

 
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